総務省の有識者会議「デジタル空間における情報流通の諸課題への対処に関する検討会」が10月15日に開いた第15回会合の配付資料が公開された。Google、LINEヤフー、Meta、TikTok、Xの5社は、名誉毀損や侮蔑的な表現を含む投稿をどう扱うかなどについて、総務省が用意した共通の質問に書面で回答した。5社とも「裁判の判決が無ければ削除しない」と決めている投稿の類型は無いと答えた一方、名誉毀損が違法かどうかを事業者自身が見極めるのは難しいという点では、ほぼ足並みをそろえた。

非公開ヒアリングの回答書を公開

会合は10月15日午前10時からウェブ会議で開かれた。議事は「欧州の判例に関する調査」と「事業者追加ヒアリング」の2つで、ヒアリングは非公開だった。会合後に、各社のヒアリングシート回答が配付資料として総務省のサイトに掲載された。Metaの回答は10月19日に差し替えられており、掲載されているのは英文の参考用和訳である。

対象の5社は、情報流通プラットフォーム対処法で「大規模特定電気通信役務提供者」に指定されている事業者だ。総務省によると、5社は2025年4月に指定された。同法は旧プロバイダ責任制限法を改正して2025年4月に施行された法律で、大規模なプラットフォーム事業者に対し、削除の申し出への対応を速めることと、削除の運用状況を公表することを義務付けている。

総務省が示したヒアリング事項は、大きく①権利侵害情報への対応②災害時の対応③紛争処理の手続き――の3つ。①では、削除以外のモデレーション(表示順位を下げる措置など)として何を定めているか、利用規約では対応しにくい権利侵害情報は何か、を尋ねた。そのうえで「特に名誉毀損への対応、侮蔑的表現への対応に関する考え方については必ずご回答ください」とし、判決が無ければ削除しないものがあれば具体的に挙げるよう求めた。

侮蔑表現は「規約違反」で削除、名誉毀損は判断に壁

各社の答えには共通の構図がある。侮蔑的な表現は、法律上の権利侵害に当たるかどうかとは別に、自社の規約(コミュニティガイドラインなど)に違反すれば削除や表示制限の対象にする。一方、名誉毀損は「違法かどうか」という法的な判断が必要で、事業者には難しい、という整理だ。

Googleは、名誉毀損や侮辱の違法性を判断するには、社会的評価が下がったかどうか、公益目的や公共性、事実が真実かどうかなど、さまざまな事情を考える必要があると説明した。実際の裁判でも判断に時間がかかり、同じ案件でも手続きや審級によって見解が分かれることがあるとして、「一貫した正確な判断は極めて困難」と記した。YouTubeのガイドラインで禁じるハラスメントやネットいじめに当たれば削除対象になり得るが、それは法的判断ではなくガイドライン違反かどうかの判断だという。検討会で話題になった「死ね」という表現も、攻撃的な文脈なら削除対象になり得る一方、ゲーム実況やコメディの文脈なら削除しないこともあり得るとし、禁止語を含むだけで一律に削除するのは適切ではないとした。

LINEヤフーは、法的に権利侵害が認められる投稿に限らず「権利侵害のおそれがある投稿」や過度な批判・誹謗中傷も広く削除対象にしていると答えた。名誉毀損は自社で確認できる事情を踏まえて削除基準に当たると判断すれば削除するが、投稿内容の真偽や公益目的の有無は判断が難しい場合があるとした。侮蔑的表現は、法的な権利侵害に至るかどうかにかかわらず、削除基準に当たれば削除するという。

Xは「裁判所の命令」を基準に

5社の回答を並べると、名誉毀損の主張を受けた投稿への構えに違いが見える。

会社 侮蔑的な表現 名誉毀損の主張(規約違反でない場合)
Google ガイドライン違反なら削除対象になり得る 違法性の判断は極めて困難と説明
LINEヤフー 権利侵害に至らなくても削除基準に当たれば削除 「おそれがある投稿」も削除基準に当たれば削除
Meta コミュニティ規定違反なら法的請求なしで措置 対処法の第26条ガイドラインに照らして評価
TikTok ガイドライン違反なら同ガイドラインで対応 送信防止措置基準で個別に審査
X 嫌がらせ等のポリシーに当たれば対応 有効な裁判所の命令などに基づいて対応
各社のヒアリングシート回答の要旨出典: 総務省「デジタル空間における情報流通の諸課題への対処に関する検討会(第15回)」資料15-2-2〜15-2-6

Xは、名誉毀損に当たるかどうかは事実関係や反真実性などの認定と「裁判所が判断する権限を有する法的評価」で決まると説明した。そのうえで「争いのある言論の真偽を判断することはなく」、さらなる証拠が無いまま名誉毀損の主張だけでXルール違反とは扱わないと記した。規約に違反しない投稿は、有効な裁判所の命令などの法的手続きに基づいて対応し、通常の措置はその国・地域での表示制限だという。

Metaも、名誉毀損は法的概念でコミュニティ規定違反とは別だとし、事実関係にアクセスできない媒介者には判断が難しいと答えた。ただ、規定に違反しない投稿でも、対処法に基づく申し出があれば同法第26条のガイドラインに照らして評価し、それでも判断できないときは指定した専門員に意見を求めるとした。TikTokは、ガイドライン違反が無くても日本法上の権利侵害の申し出は送信防止措置基準に基づき個別に審査し、権利侵害が認められれば削除するとした。

裁判所の判断を巡っては、LINEヤフーが具体的な数字を挙げた。同社が「メディア透明性レポート(2025年度版)」で公表している5サービスでは、裁判上の削除請求が計32件あり、裁判所が削除を判断したのは9件にとどまったという。同社は、裁判所にとっても判断が難しいものが多かったとみている。

焦点は「網羅的監視」の線引き

ヒアリングでは、投稿が広がる前の対応もテーマになった。総務省は、権利侵害情報の発信・拡散を事前に抑える仕組みのほか、「一般的監視(網羅的監視)」とは何か、どんな取り組みがそれに当たるかを尋ねた。Googleの回答によると、総務省による対処法の逐条解説は、同法の免責規定について、事業者に流通する情報を網羅的に監視する義務が無いことを明確にするものだと説明している。EUの電子商取引指令にも一般的監視義務を禁じる規定がある。事前対応をどこまで求められるかの線引きが問われている。

TikTokは、特定の情報に限らず投稿を一般的に監視し、違法な情報を積極的に探すよう求めることだと理解していると答えた。Xは、違法・不適切な投稿を探すために利用者の投稿の全部か実質的に全部を、能動的かつ継続的に審査・監視する義務だとし、通報への対応や裁判所の命令に従うこととは区別されるとした。Googleは、法律に定義は無いとしたうえで、具体的な行為の線引きよりも「義務として課されるのか、完全な任意での対応なのか」が重要だと記した。LINEヤフーは、AIで児童の性的虐待コンテンツを検知して自動削除するなど、大半の削除を利用者からの申告を待たずに行っているが、個々の取り組みが網羅的監視に当たるかを判断して実施しているわけではないと答えた。Metaの回答のこの部分は、公開版では「(略)」となっている。

同じ会合では、三菱総合研究所が欧州司法裁判所(CJEU)の判例調査を報告した。名誉毀損の事例として取り上げたのは、オーストリアの国民議会議員がFacebookへの投稿の削除を求めた事件(C-18/18)だ。資料によると、CJEUは、裁判所が違法と認めた投稿と同一の内容の削除を命じることは網羅的監視に当たらないとし、同等の内容についても、プロバイダーに独自の評価を求めない限り差し止めを命じられると判断した。検討会は、こうした海外の判例と各社の回答を踏まえ、事業者に何をどこまで求めるかを議論していく。議事概要は、記事執筆時点で掲載されていない。