消費者トラブルの入口が、店先や玄関からスマートフォンの画面に移っている。国民生活センターによると、全国の消費生活センターなどに寄せられた2025年度の消費生活相談は100万6377件で、2007年度以来18年ぶりに100万件を超えた。増えた分の半分は通信販売で、SNSが関係する相談は5年で約2倍になった。玄関先の訪問販売でさえ、ネット広告を見て消費者が自分で業者を呼ぶ形が3件に1件を超える。一方で、うその広告を止める消費者庁の措置命令は3年で3分の1以下に減った。被害が起きてから業者を1社ずつ処分するやり方では追いつかず、国は勧誘の入口そのものに規律をかける方向へ動き始めている。

相談は18年ぶりに100万件超 増えた9.3万件の約半分は通信販売

消費者トラブルは減っていない。むしろ久しぶりに増えている。国民生活センターが2026年8月に公表した集計では、2025年度の相談は100万6377件と、2024年度の91万3355件から約9万3000件増えた。100万件を超えたのは、105万837件だった2007年度以来になる。2008年度から2024年度までは84万〜99万件台で推移していた。

増加分の約半分は通信販売である。通信販売の相談は2024年度の33万6465件から2025年度は38万2721件へ約4万6000件増え、相談全体の38.0%を占めた。2016年度の32万5582件(36.6%)と比べても件数・割合ともに上がった。契約や購入にかかった金額の合計は4776億円、消費者が実際に支払った額(既支払額)の合計は2087億円だった。平均の支払額は50万円で、いずれも2024年度から増えた。

相談に来ない被害もある。消費者庁の令和8年版消費者白書は、アンケートをもとに2025年の消費者被害・トラブル額(既支払額)を約7.6兆円と推計した。前年より減ったが、相談に寄せられた既支払額の合計(2087億円)と単純に比べれば36倍になる。集計の期間や方法は違うものの、窓口に届くのは被害の一部にとどまる。

消費生活相談の件数(万件)

8085909510010599.784.8100.618年度20年度22年度24年度25年度
年度。1000件未満を四捨五入出典: 国民生活センター「2025年度 PIO-NETにみる消費生活相談の概要」
数値で見る(単位: 万件)
項目万件
18年度99.7
19年度94.0
20年度94.3
21年度84.8
22年度89.9
23年度89.4
24年度91.3
25年度100.6

入口はネット広告とSNS ネット通販22.5万件、SNS関係は5年で約2倍

では、どこから増えたのか。販売方法・手口別にみると、首位の「インターネット通販」は2024年度の19万1471件から2025年度は22万5388件へ約3万4000件増えた。2位の「定期購入」も9万4559件から9万8455件に増えた。国民生活センターは、化粧品や健康食品をSNSやインターネット上の広告をきっかけに注文し、定期購入の契約になっていたという相談が多いと説明している。「お試し」のつもりで申し込んだ例は「お試しのつもりが定期購入」トラブル後絶たず 相談は年8万件超 国民生活センターが注意で詳しく追った。

広告の先にいる相手が本物かどうかも怪しくなっている。ネット通販で買った商品が届かない、偽物が届くといった相談が増え、「代引配達」は2万472件から3万78件へ1.5倍になった。2024年度の上位10位になかった「偽サイト」も9位(1万3419件)に入った。国の機関や大手電話会社を名乗る電話などの「かたり商法(身分詐称)」は3万4403件から3万9019件に増えた。

SNSの影響は消費者庁の集計にも表れている。消費者白書によると、SNSが関係する消費生活相談は2025年に10万1045件で、5年間で約2倍になった。商品・サービス別では化粧品や健康食品、内職・副業が上位に並び、40歳代から60歳代の割合が高い。副業の勧誘は、SNS広告からWeb会議に誘って高額な講座を契約させる形が目立つ(「AI講座」「副業スクール」の相談3,551件 5年で1,169件から3倍に SNS広告からWeb会議へ誘われた契約は平均87万円)。SNSは広告を見せるだけでなく、チャットで直接勧誘する場にもなった。白書の調査では、過去1年にSNSのチャットで勧誘を受けた人は約2割おり、そのうち約7割が「不意打ち的な勧誘」を、約4割が「執ような勧誘」を受けたと感じていた。

玄関先の商法もネット経由に 訪問販売の起点、ネット広告が4.1%から36.3%

ネットへの移行は、通信販売だけの話ではない。古くからある訪問販売でも、トラブルの始まり方が変わった。消費者庁が2026年9月に公表した消費生活相談の分析では、支払いが発生した訪問販売の相談のうち、最初の接点が「インターネット広告を見て消費者が業者を呼んだ」ものが、2015年度の4.1%から2024年度は36.3%に増えた。業者が広告を介さずに訪ねてくる「飛び込み」などは82.7%から53.6%に下がった(訪問販売のトラブル、「飛び込み」から「ネット広告を見て自分で呼んだ」へ 消費者庁分析、9年で4.1%から36.3%に)。

ネット広告で呼ばれる業種は、トイレや台所などの「衛生設備」が23.7%で最も多く、相談の70.3%は「値段が想定より高い」といった価格のトラブルだった。消費者が自分で呼んだ形になるのを逆手に取る業者もいる。消費者庁から権限の委任を受けた関東経済産業局は2026年9月17日、クーリング・オフを申し出た消費者に「訪問販売には該当しない」と告げて拒んだ水回りの給排水管工事などの業者に、特定商取引法に基づき9か月の業務停止を命じた。実際には訪問販売に当たり、クーリング・オフできる契約だった(「550円〜」の広告で呼んだ水回り修理、想定を10万円超上回る請求 訪問販売業者に9か月の業務停止 クーリング・オフを「該当しない」と拒む)。

2025年度の相談全体でも、手口別で「家庭訪販」は5万2740件と依然多く、国民生活センターは修理サービスの相談が多いとしている。分電盤やガス給湯器の「点検」を名目に訪ねて契約させる「点検商法」は1万9696件で、うち1万4167件は契約当事者が65歳以上だった(分電盤の「点検商法」相談が6,545件 1年で1,290件から5倍に 契約者の8割超が70歳以上、平均約18万円)。

高齢者は相談の37.7% 85歳以上は訪問販売が通信販売を上回る

高齢者は、ネットと玄関先の両方から狙われる。国民生活センターによると、契約当事者が65歳以上の相談は2025年度に33万497件で、2024年度の30万4674件から約2万5800件増え、相談全体の37.7%を占めた(高齢者の消費生活相談、2025年度は33万497件 前年度から2万5800件増 85歳以上は訪問販売が21.5%で最も多い)。

年齢によって入口が違う。65〜69歳では通信販売が48.4%と半分近くを占め、65歳未満の42.5%より高い。ネット通販を使う層は高齢者にも広がっている。一方で年齢が上がるほど訪問販売や電話勧誘販売の割合が高まり、85歳以上では訪問販売が21.5%となって通信販売の18.6%を上回る。国民生活センターは、在宅時間が長くなり訪問による勧誘を受けやすいことを一因に挙げる。65歳以上の手口別では、インターネット通販(6万9399件)、定期購入(4万6958件)、家庭訪販(2万8205件)、電話勧誘販売(2万2547件)、かたり商法(1万9447件)が上位に並ぶ。

相談の増え方と入口の変化をあわせると、トラブルは「どこから来るか」が世代によって分かれながら、全体としてはネットに寄っている。一方、広告の表示を取り締まる国の命令は、この数年で減っている。

措置命令は3年で44件から13件 取り締まりは「命令」から「確約」へ

広告の表示を取り締まる中心は景品表示法である。実際より著しく良いと見せる表示や、有利だと誤認させる価格表示を禁じ、違反すれば消費者庁が措置命令で表示の差し止めや再発防止を命じる。消費者庁がまとめた法的措置件数の推移によると、国の措置命令は2017年度の50件を頂点に30〜40件台で推移し、2023年度も44件だったが、2024年度は26件、2025年度は13件に減った。2026年度は8月末までで6件である。

減った分の一部は、2024年10月に導入された「確約手続」に移っている。違反の疑いがある事業者が自ら是正の計画を申請し、消費者庁が認定する仕組みで、認定は2024年度に1件、2025年度に8件あった。ただし措置命令と確約の認定を足しても2025年度は21件で、2023年度の44件の半分に届かない。違反した事業者から売上額の一定割合を取り立てる課徴金納付命令は、2023年度12件、2024年度7件、2025年度10件だった(景品表示法の措置命令は2025年度13件 2023年度の44件から減少)。

景品表示法の国の措置命令と確約計画の認定(件)

措置命令確約認定

020406041021年度41022年度44023年度26124年度13825年度
年度。確約手続は2024年10月導入出典: 消費者庁「景品表示法の運用状況」
数値で見る(単位: 件)
項目措置命令確約認定
21年度410
22年度410
23年度440
24年度261
25年度138

規律を入口へ SNSの勧誘に8日間のクーリング・オフ

命令の件数が減るなか、消費者庁は被害が起きる前の入口、つまり勧誘と広告の場に規律をかける議論を進めている。

消費者庁の「デジタル取引・特定商取引法等検討会」は2026年9月10日、中間取りまとめを公表した。特定商取引法は訪問販売や電話勧誘販売には勧誘そのものへの規制を置いているが、通信販売は消費者が圧力を受けずに決める取引と位置付けられ、広告の表示義務などが中心で、勧誘行為そのものへの規律がない。中間取りまとめは、SNSのメッセージ送信機能などで個別に働きかけられ、想定していなかった商品の購入に誘導される相談が大幅に増えていると指摘した。そのうえで、チャットなどで不意打ち的な勧誘を受けて結んだ契約は、電話勧誘販売と同等の規律の対象とし、書面を受け取った日から8日を経過するまでクーリング・オフできるようにすべきだとした(SNSのメッセージ勧誘に8日間のクーリング・オフ 消費者庁検討会が中間取りまとめ 解約させない手口も規制対象に)。

広告を載せる場の責任にも踏み込んだ。消費者庁がネット上の誇大広告で事業者を処分した場合に、その広告が表示されているSNSや広告配信のプラットフォーム事業者へ、法律に基づいて対応を要請できる仕組みを設けるとした。検討会では、プラットフォーム事業者に違法広告の削除義務などを課すべきだとの意見が出た一方、広告審査を一事業者に委ねることへの慎重論もあり、取りまとめは削除や注意喚起を事業者の任意の協力で進めるとするにとどめた。中間取りまとめは、ネット以外の取引として「レスキュー商法」や点検商法への対策強化も項目に挙げている。

結論 トラブルは画面から入ってくる。止める場所も入口に移るしかない

消費者トラブルは、100万件を超える相談のうち4割近くが通信販売になり、訪問販売でさえ3件に1件以上がネット広告から始まる時代に入った。一方で、表示を取り締まる国の措置命令は3年で44件から13件に減り、確約の認定を足しても21件にとどまる。被害の入口が一人ひとりに届くチャットや配信広告に散らばるなか、業者を見つけて1社ずつ処分する方法だけでは、年100万件の相談に見合う抑止にはなりにくい。

だから規律の重心は、勧誘が始まる入口と、広告を載せる場へ移るしかない。SNSの勧誘へのクーリング・オフは、その最初の一歩である。法改正が実現するまでの間、消費者が身を守る手立ては、広告を見て申し込む前、業者を呼ぶ前に、相手が誰で、総額はいくらかを確かめることに尽きる。困ったときは、最寄りの消費生活センターなどを案内する消費者ホットライン「188(いやや!)」に電話できる。