総務省の第34次地方制度調査会の専門小委員会が9月17日、東京都千代田区の全国都市会館で開かれ、政令指定都市を都道府県から切り離す「特別市」制度について議論した。総務省が同日公開した配布資料には、制度化を提言する指定都市市長会と、導入に否定的な全国知事会の主張が論点ごとに向かい合う形で整理されており、住民の意思をどの範囲で確かめるかをはじめ、税収・施設・議席のいずれでも折り合っていない現状が並んでいる。

県の区域から抜ける一層制の自治体

特別市とは、都道府県に包括されない一層制の地方公共団体を指す。総務省の資料によれば、これまで都道府県が担ってきた広域的な事務まで含めて特別市に一元化し、その区域は都道府県の区域外になる。横浜市や大阪市のような指定都市が県から独立し、県と市の二重行政をなくすという構想だ。

議論のもとになっているのは、指定都市市長会が2025年11月にまとめた「多様な大都市制度実現プロジェクト報告書」と、全国知事会が2026年7月に公表した「大都市制度のあり方に関する検討プロジェクトチーム 中間とりまとめ」である。総務省の事務局はこの2つの文書から双方の主張を抜き出し、論点ごとに並べた資料を作成した。

「市民だけで決めていい」か「県民全体で決めるべき」か

最も分かりやすく割れているのが、特別市の設置を決める住民投票の範囲である。

指定都市側は、市単位の住民投票で住民の意思を確認する必要があるとしたうえで、特別市以外の都道府県民には、都道府県が提供する住民サービスや都道府県の名称を含め、直接的な不利益は与えないと説明している。つまり、決めるのは当事者である市民だという立場だ。

これに対し知事会側は、住民投票は都道府県単位で行うべきだと主張する。特別市に移行すれば残された都道府県民に大きな影響が生じることは明らかだ、というのが理由である。仮に法制化されたとしても、人口や面積の要件だけでなく、住民投票のあり方や周辺自治体への影響を考慮した移行手続きが要るとしている。

税収・施設・議席、分け方の見えない三つ

財政の扱いも隔たりが大きい。指定都市側は、特別市が市域の地方税を一元的に徴収し、団体間の財源の不均衡はまず地方交付税で調整し、それでも著しい不均衡が残る場合に「財政調整交付金」などの仕組みを検討するとしている。知事会側は、そうなれば残存する都道府県の歳入は大幅に減少すると反発している。

知事会が持ち出しているのが「留保財源」だ。地方交付税の計算では、自治体の標準的な税収見込額の75%だけを基準財政収入額として数え、残る25%は算定に入れずに手元に残す。この25%が留保財源で、交付税では穴埋めされない。知事会側は、留保財源は保障されないうえ、指定都市側の言う財政調整交付金は具体的な内容も実効性も不明であり、特別市の税収を区域外に配ることを市民が納得するのか疑問だとしている。事務局資料も、特別市の財源超過額と都道府県の財源不足額がともに膨らめば、全国で見た財源不足額が従来より増え、交付税の総額が変わらない以上、他の自治体への配分に影響が出るのではないかと問いを立てている。

県有施設の扱いも詰まっていない。資料によると、神奈川県が直営または指定管理者制度で運営する県民利用施設は98施設あり、うち横浜市に27、川崎市に2、相模原市に9の計38施設が3つの指定都市の区域内に立地している(庁舎、警察署、高校は対象外)。知事会側は、特別市が県の区域外になる以上、移転や移管の検討が要るとし、その費用は莫大で「原因者である指定都市」に負担を求めることも考えられるとする。指定都市側は、移管も統廃合も費用負担も特別市と都道府県の協議で決めるとし、住民の利便性から当面そのまま置く可能性にも触れている。

議席も動く。特別市に移行すれば、都道府県議会の議員はその区域から選出されなくなる。資料に載る道府県議会の定数のうち、指定都市域から選ばれている議員の割合は神奈川県が最も高く、定数105に対して横浜市41人、川崎市18人、相模原市8人の計67人で63.8%を占める。京都府は60人のうち京都市選出が34人で56.7%、大阪府は79人のうち大阪市26人と堺市6人の計32人で40.5%にのぼる。逆に低いのは埼玉県で、93人のうちさいたま市選出は14人の15.1%にとどまる。神奈川県のような構成の県では、県議会の3分の2近くが一度に消えることになる。

京都で府と市の対立を見てきた市長の慎重論

この日の小委員会は、岡山県真庭市と神奈川県寒川町から意見を聴取したうえで審議に入った。真庭市の太田昇市長が提出した「『特別市制度』を考える」と題する資料は、京都府職員として知事室長、総務部長、副知事を務めた経験をもとに、府と京都市の関係の変遷をたどっている。

太田市長によれば、地方自治法の施行時に規定されていた特別市に最も強く反対した府県の一つが京都府で、知事と京都市長が直接会う方針すらない「疎遠な」状態が長く続いた。1978年の知事選を機に「府市協調」が掲げられたものの実態は名ばかりで、府が開く市町村長会議に市長は出席せず副市長が代わりに出る慣例だったという。転機は2008年の府市行政協調パネル設置で、その後2016年の地方自治法改正による「指定都市都道府県調整会議」、2018年の府市政策連携・融合会議へと進み、知事と市長が年3回協議するまでになった。京都経済センターの建設や文化庁の京都移転もこの延長線上にあるとし、太田市長は「二重行政を減らす取組や特別市問題にも参考になる」と書いている。

そのうえで太田市長は、権限と財源のある市政を求める指定都市市長会の立場は十分理解できるとしつつ、特別市の誕生が全国の自治体にとってのメリットにつながらなければ賛同は得られず「特別市制度の実現は難しいのではないでしょうか」と記した。過疎地域やその隣接自治体の首長からは、特別市へ人口や経済の流入がさらに進むのではないかとの警戒があるのも事実だ、とも指摘している。全国知事会が「特別市制度については、導入の必要性を感じていない」との見解を出し事実上反対しているとも書き添えた。

専門小委員会は「大都市地域における行政体制」の在り方を審議項目2に掲げており、大都市が果たすべき役割、特別市の意義、制度化する場合の論点、住民自治の確保という4つの柱で議論を続ける。この日の配布資料と議事録は総務省のサイトで公開される。