情報通信審議会(会長・遠藤信博NEC特別顧問)は4日、「ネットワーク環境の変化を踏まえた接続政策等の在り方」について総務省に第一次答申を出した。電話をかけたときに発信側の通信会社が着信側の通信会社へ支払う「音声接続料」を、互いに支払わない方式に切り替える方向を打ち出し、遅くとも2031年度に係る接続料から全事業者一律に適用することを目標に検討を進めるのが適当だとした。総務省は答申を踏まえ、電気通信事業法の改正を含む制度の見直しを進める。
通信会社どうしの「割り勘」をやめる
電話は、かけた人とかけられた人が別々の通信会社を使っていることが多い。このとき発信側の会社は、相手の会社の設備を借りて通話を届けていることになるため、その使用料として「接続料」を支払う。利用者が払う通話料とは別の、会社どうしの精算だ。NTT東西の2026年度の接続料(メタルIP電話・光IP電話などを一本化した「組合せ適用接続機能」)は東日本が3分あたり4円94銭、西日本が同4円69銭となっている。
答申が原則化を求めた「ビル&キープ方式」は、この支払いを互いにやめる考え方である。自社の設備にかかる費用は自社の利用者から回収し、相手の会社には請求しない。答申は、自網のコストだけでサービスを提供できる事業環境に移ることで、料金設計の柔軟性が高まり、新規参入も促されると評価した。
日本でも2024年3月の省令改正で、事業者どうしが合意すればビル&キープ方式を選べる制度はすでに整えられていた。ただ実際には広がっていない。答申に寄せられた意見では、選べる方式にすると対象の通話を判別して精算する処理が新たに必要になり、かえってシステム費用が増えること、発着信の量に偏りがある会社どうしでは損得が分かれて合意に至らないことが課題として挙げられた。そこで「選べる」から「全社一律」へ踏み込むのが今回の方向性である。
通話は減り続け、接続料はむしろ上がってきた
2024年12月、固定電話網は従来の交換機を使う公衆交換電話網(PSTN)からIP網への移行を完了した。一方で通話そのものは減り続けている。答申によると、2024年度の固定系(加入電話、ISDN、公衆電話、ワイヤレス固定電話)の通信回数は、発信が約61億5000万回で全体の10.8%、着信が約173億5000万回で同30.4%。通信時間でみると発信が約1億6000万時間(全体の7%)、着信が約4億8000万時間(同20.6%)で、いずれも減少が続く。無料通話アプリやSNSへの置き換えが進んだためだ。
利用が減ると、接続料はむしろ上がりやすい。設備を維持する費用を通話量で割って単価を出すため、分母が小さくなるからだ。実際、算定に使う原価は下がってきたにもかかわらず、加入電話・ISDNの接続料水準は2012年度以降、上昇を続けてきた。縮んでいく市場のために、毎月の精算作業、料金交渉、精算システムの維持といったコストを各社が払い続ける形になっている。答申はこれを「維持・縮退フェーズ」と表現し、業界と行政の双方で対応コストを最小にすることが望ましいとした。
答申は、当事者間の交渉では解決できない問題への対処としても、原則化は有効だとしている。
一つは着信接続料の高止まりだ。通話を着信させる会社は、その相手の番号にかける限りほかに選択肢がない。総務省が料金の算定方法を定めているのはNTT東西などの「指定電気通信設備」を持つ大手に限られ、それ以外の会社は接続料を自由に設定できる。発信側は高いと思っても払うしかない、という指摘が複数の事業者から出ていた。
もう一つが「トラヒック・ポンピング」と呼ばれる行為だ。接続料収入を目当てに、自社の番号へ着信を意図的に集めて通話量を水増しする。互いに接続料を払わなくなれば、着信を集めても収入にならないため、この種の行為は成り立たなくなる。
緊急通報や国際通話は対象外
すべての通話を一律に対象とするわけではない。答申は、構造上どちらか一方だけが負担することになる通話を「片務的な呼」として除外した。具体的には、フリーダイヤルなどの付加的役務電話番号(0AB0)、事業者識別番号(00XY)、番号案内や時報などの3桁番号(1XY)、110番・118番・119番の緊急通報、そして国際通話である。これらは公平性が保てないため、ビル&キープ方式ではなく、通話量によらない定額方式やレベニューシェア方式など、全事業者で統一した簡素な精算方法を新たに決める必要があるとした。
また、通常の通話でも会社によって発信と着信の量には偏りがあり、いきなり精算をやめれば収益構造が変わる会社が出る。このため一定の移行期間を設け、必要に応じて激変緩和措置を取ることとした。答申に対しては、制度変更の前提となる論点が整理されないまま方向性と時期だけが先に示されているとして慎重な検討を求める意見(Coltテクノロジーサービス)も寄せられている。委員からも、激変緩和措置のやり方によってはかえってコストがかさみ効果が薄れる、利用者料金への影響も視野に入れるべきだ、との指摘が出た。
26年続いた算定方式も役割を終える
接続料の算定に使われてきた「長期増分費用(LRIC)方式」も見直す。いま最も安く効率的な設備で網を作り直したと仮定して原価を計算する手法で、2000年度から使われてきた。効率化を促す狙いだが、NTT東西は2025年9月、メタル回線を使う加入電話などを2035年をめどに光回線やモバイル回線へ段階的に移していく方針を示している。新たな設備更新が見込めない以上、「最も効率的な設備で作り直したら」という前提が実態と合わなくなっている。答申は、ビル&キープ方式の原則化にあわせてLRIC方式の適用を廃止するのが適当だとした。接続料の支払い自体がなくなれば、比較の物差しとしての役割も要らなくなるためだ。
利用者の通話料がどう変わるかは、現時点では示されていない。会社どうしの精算がなくなることで各社は自社の設備費用だけを見てサービスを設計できるようになり、定額の通話サービスなど料金の柔軟性が高まる可能性が指摘される一方、審議会の委員は「利用者料金にどの程度影響を及ぼすのかは今の段階ではわからない」としたうえで、国民への周知を含めて検討すべきだと述べている。総務省は今後、事業者間の協議の場を設けて片務的な呼の精算方法などを詰め、電気通信事業法やガイドラインの改正に向けた検討を進める。
