デジタル庁は9月18日、政府職員向けの生成AI利用環境「ガバメントAI 源内(げんない)」について、8月25日に開いた全国オンライン説明会の配付資料と質疑応答を公表した。資料によると、源内には今年10月ごろ、職員が自分の業務に合わせてAIエージェントを作って動かせる環境を導入する予定で、その機能を含むオープンソース版「Ver 2.0」を2027年2月ごろに公開する方針だ。
全府省庁の18万人が使う生成AI環境
源内は、デジタル庁が自ら作った政府職員向けの生成AI利用環境だ。チャット、文章作成、日英翻訳、画像生成、音声の文字起こしといった汎用的なものから、法制度の調査(愛称「Lawsy」)、国会答弁の調査・分析、公用文の校正、パブリックコメントの分類まで、40種類以上のAIアプリを職員が選んで使える。機密性2情報(政府の情報区分で、公にしない情報にあたる)まで入力でき、取り扱いの範囲は各府省庁が自ら定める。
2025年度はデジタル庁内での試験導入にとどまり、職員約1,200人以上が使い始めた段階だった。2026年5月からは全府省庁の政府職員約18万人を対象にした大規模実証に入っている。2025年12月19日の人工知能戦略本部で、高市総理大臣は「『ガバメントAI源内』の徹底活用です。来年5月から10万人以上の政府の職員が活用できるようにします」と指示しており、実際の展開はその規模を上回った。
「エージェントチャット」と「源内工房」
10月ごろの導入を予定するAIエージェント利用環境は2種類ある。1つは「エージェントチャット」で、資料では対話型AIの発展形と位置づけている。自然言語で指示すれば複数の作業をまとめて自動で実行し、結果をファイルやドキュメントとして出力する。もう1つの「源内工房」は職員個人に割り当てるコーディングAI環境で、任意のサイトへ直接アクセスして複数のウェブサイトを読み比べながら情報を集める調査ができる。ファイル操作、コマンド実行、ウェブ取得などを数十から数百の手順まで連鎖させて処理できると説明している。いずれも専門的な知識は不要としている。
デジタル庁が狙うのは、単にAIに作業を代わらせることではない。職員の頭の中にある手順を外に取り出すことだ。資料は「スキル」を、これまで個々の職員や部局に属人的に蓄積されてきた業務手順、判断基準、参照資料、関連データ、確認方法、出力形式、例外処理を、AIエージェントが実行できる形に書き出したものと定義している。作ったスキルは「源内マーケットプレイス」を通じて省庁の枠を越えて共有・評価・改善し、他省庁の職員がダウンロードして再利用できるようにする構想だ。分類は国会対応、法制執務、許認可などの行政手続・処分、補助金、予算要求、調達・契約、危機管理・防災など24区分が例示されている。
政府全体で1万〜数万件と見積もり
資料は、政府全体でどれだけのスキルが生まれるかの規模感も示した。前提に置いたのは2つの数字だ。e-Gov法令検索で表示される法律の総数が約2,100件であることと、中央省庁の課長・室長が約4,000人いること(人事統計報告の行政職俸給表(一)8級・9級・10級の在職者数)である。
その上で、法律・制度に基づく業務のスキル(許認可の審査、行政処分、法令改正など。各法律で数種類)を6,000件、課・室単位の業務のスキル(政策企画、調査、国会、予算、調達、審議会、照会対応など)を4,000件と見積もり、政府全体では1万から数万件の規模になるとしている。資料は、各課室で業務フローの見直し、知識ベースの整備、AIエージェントの企画・開発・評価・実装、稼働後の品質管理とセキュリティ確保が必要になると指摘した。エージェントの権限管理は国内外で課題になっており、AIエージェントが実在企業に無許可で侵入 開発元の能力評価中の逸脱が相次ぎ判明 IPAが「新たな脅威アクター類型」に位置づけのように、開発元の評価環境から抜け出したAIが実在の組織へ無許可で侵入した事案も公表されている。政府の生成AI調達・利活用ガイドラインでも、AIエージェントの権限や監視のあり方が拡充の論点に挙がっている(政府の生成AI指針、AIエージェントのルール整備へ 送金など取り消せない操作に職員の確認案)。その後、政府職員18万人の生成AI「源内」、AIエージェント環境の提供を開始 安全ルール「源内基準」を公表のとおり、10月20日にエージェントチャットの導入が始まり、同時に利用者・管理者・開発者の責務を定めた「源内基準」が公表された。
OSS版は2027年2月ごろ 民間企業や大学も使える
源内の一部は2026年4月24日に、商用利用できるオープンソースソフトウェア(OSS、ソースコードを公開して誰でも利用・改変できるソフト)として無償公開済みだ。Ver 2.0では、エージェントチャットと源内工房に加え、基盤モデルの実行環境を作るテンプレート、利用実績のデータを分析・可視化するツールが公開対象に入る。マーケットプレイスはまだ企画段階だ。
質疑応答では、源内OSSは利用者を限定していないため、民間企業や大学、公立・民間を問わず医療機関でも使えると答えている。必要な設備の目安については「5,000人程度なら標準的な構成で足ります」とし、デジタル庁では1つの環境で2万〜2万5,000人に提供できた例があると説明した。ただし、公開リポジトリで受け付けているのは不具合やセキュリティの報告(issue)までで、外部からのコード修正の提案(pull request)は開発体制が限られるため見送っている。自治体については、源内が政府機関の職員向けの環境であり業務や扱う情報が異なることから「そのままの提供は難しく適用に工夫が必要」とし、国と地方のAIをつなぐ仕組みは将来の検討課題だとした。ただし災害時には例外として自治体へ開放した実績があり、政府の生成AI「源内」、熊本地震の自治体向け緊急提供を9月30日で終了 64日間で148機関・団体の325アカウントが使い実行1,305回 一部自治体は年度末まで延長のとおり、令和8年熊本地震では7月29日から9月30日まで被災自治体などに緊急提供した。
源内で使う大規模言語モデル(LLM、大量の文章を学習して文を生成するAI)は、国産を軸に据える。今年3月の公募には15件の応募があり7件を選定したが、その後2社が辞退したため、NTTデータ(tsuzumi 2)、ソフトバンク(Sarashina3 mini)、NEC(cotomi v3)、富士通(Takane 32B)、Preferred Networks(PLaMo 2.0 Prime)の5社と契約した。資料は、基盤モデル・データ・計算基盤などの各層で日本の自律性・代替性・耐遮断性を確保することを「AIソブリンティ(AI主権)」と呼び、源内の理念に掲げている。公的機関が自前のモデルを公開する動きも続いており、国立情報学研究所、国産LLM「LLM-jp-4.1」を公開 約332億パラメータまで3モデル 外部ツールの呼び出しに新対応、学習量は前シリーズの約3倍では、商用利用できるライセンスでモデルと学習データの両方が公開されている。政府職員の入出力データは基盤モデルの学習や性能改善に使わせない契約とし、推論は国内のガバメントクラウド内で完結させる。
2027年度向けの国産基盤モデルの公募は今年11月に始まる。二次審査にあたる評価テストは、行政実務で求められる35項目の能力を測る300問で構成し、1問あたり3分、全体で15時間を上限とする。出題の題材は一般常識、社会問題・時事問題、日本語の理解、安全性、法律・制度、行政課題、日本の価値観・歴史観、国際関係・外交の8領域から選ぶ。落札者の決定は2027年3月、新しい基盤モデルの使用開始は同年4月を予定している。
