発注元が取引先に代金を値引きさせたり、費用を押しつけたりする行為を取り締まる下請法が、2026年1月1日に改正施行され、名前が変わった。新しい通称は「取適法(とりてきほう)」。公正取引委員会が改正後に出した勧告は9月9日時点で14件あり、うち9件は「金型などの保管費用を負担しなかった」という同じ類型に集中している。

法律から「下請」の語が消え、対象も広がった

正式名称は「下請代金支払遅延等防止法」から「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」に改められた。昭和31年法律第120号という法令番号は変わらず、1956年6月1日公布の法律を改正した形だ。改正法は「下請代金支払遅延等防止法及び下請中小企業振興法の一部を改正する法律」(令和7年法律第41号)で、施行日が2026年1月1日だった。

条文の用語も入れ替わった。発注する側を指す「親事業者」は「委託事業者」に、受注する側の「下請事業者」は「中小受託事業者」に、支払われる金銭を指す「下請代金」は「製造委託等代金」になっている。e-Gov法令検索には略称として「取適法」と「中小受託取引適正化法」の両方が登録されている。

対象が広がったことが実務上は大きい。これまでは資本金の額だけで適用の有無が決まっていたが、「従業員基準」が追加された。製造委託・修理委託・特定運送委託などでは、委託する側の従業員が300人を超え、受託する側が300人以下なら対象になる。プログラム作成や運送などを除く情報成果物作成委託・役務提供委託では、この線引きが100人になる。資本金基準(前者は3億円、後者は5000万円)とは「いずれかに該当すれば対象」という関係で、資本金を小さく保っていた企業も従業員数で捕捉されることになった。

対象となる取引にも、製造した物を引き渡すのに必要な運送を委託する「特定運送委託」が加わった。

禁止行為も2つ増えている。1つは「協議に応じない一方的な代金決定」で、中小受託事業者から価格交渉の求めがあったのに協議に応じない、必要な説明をしないといった行為が明確に禁じられた。物価高と賃上げの原資を取引価格に反映させる、いわゆる価格転嫁を後押しする狙いがある。もう1つは「手形払」の禁止で、電子記録債権など、支払期日までに代金の満額を受け取ることが難しい支払手段も併せて禁じられた。

委託事業者に課される義務は4つある。発注内容を書面か電子メールなどで明示すること、取引記録を2年間保存すること、物を受け取った日から60日以内のできる限り短い期間で支払期日を定めること、そして支払いが遅れたり減額したりした場合に年率14.6%の遅延利息を払うことだ。禁止事項は受領拒否・支払遅延・減額・返品・買いたたきなど11項目にわたる。

勧告14件のうち9件が「金型の保管費用」

公正取引委員会が公表している令和8年度の勧告一覧によると、5月から9月9日までに14件が出された。このうち9件が、自社の金型や治具を取引先に貸したまま長期間発注せず、保管にかかる費用を負担しなかったという「不当な経済上の利益の提供要請」にあたる類型だ。

9月3日に勧告を受けたニチリン(神戸市中央区)の事例では、自動車用ホースなどの製造を委託した25者に対し、令和6年9月1日から令和8年7月28日まで、計1048個の金型などを費用を負担せずに保管させていた。同社はすでに978万9525円を支払っており、公正取引委員会は残額も確認のうえ速やかに支払うよう求めた。適用されたのは改正前の下請法第4条第2項第3号だった。

金型は1つが数百万円することもあり、置いておくだけで保管場所と管理の手間がかかる。発注が途切れたあとも「いつか再発注があるかもしれない」と処分できないまま抱え込む構図が、繰り返し問題になってきた。

トリドールは代金の1.1%を一律に差し引いていた

9月9日に勧告を受けたトリドールホールディングス(東京都渋谷区、資本金54億6507万8899円)の事例は、減額の類型だ。公正取引委員会によると、同社は卸売業者を介して37者に、自社が子会社に販売する食品の製造を委託していた。令和6年8月から令和8年7月までの間、その代金の額から「システム利用料」の名目で、例外なく一律に代金の1.1%にあたる額を差し引いていた。

差し引かれた額は、令和6年8月から令和7年12月までの分だけで1億4741万1330円に上る。公正取引委員会は37者に対し、減額した分と遅延利息を、委員会の確認を得たうえで速やかに支払うよう指示した。違反とされた条文は、改正前の下請法第4条第1項第3号と、改正後の取適法第5条第1項第3号の両方だ。行為が改正をまたいで続いていたため、新旧2つの法律が並べて示された形になっている。

前年度は勧告39件、原状回復25億円

公正取引委員会が6月10日に公表した令和7年度の運用状況によると、同年度の勧告は39件だった。違反類型の内訳は、不当な経済上の利益の提供要請が31件で最も多く、代金の減額が6件、返品が6件、不当な給付内容の変更等が1件、買いたたきが1件となっている(1件で複数の類型に当たる場合がある)。勧告に至らない指導は8261件あった。

同年度に実際に取引先へ返された金額は25億5698万円相当で、委託事業者177者から中小受託事業者5165者に対して行われた。このうち、企業が自ら違反を申し出た「自発的な申出」による分は1234者・12億1019万円相当を占める。価格転嫁に関する特別調査では11万者を超える事業者に書面調査を送り、462件の立入調査を実施した。

中小企業庁は10月にかけて、価格転嫁と取引適正化のルールを説明する講習会を各地で開いている。公正取引委員会の徳島会場での説明会は10月23日に予定され、定員は100人、参加は無料となっている。