中低所得の働き手に、所得に応じた現金給付を毎年続ける「給付付き税額控除」について、政府は8月5日、制度導入の基本方針を閣議決定した。本格的な制度の導入は令和11年度(2029年度)で、それまでの2年間は飲食料品の消費税率の引き下げと、新しい給付制度「就業者負担軽減支援金」の先行導入を組み合わせた「つなぎ」の措置をとる。

「給付付き税額控除」とは

給付付き税額控除は、税の負担を軽くする「税額控除」と「現金給付」を組み合わせた仕組みだ。所得税が少なく控除しきれない低所得の人には、控除しきれない分を現金で給付する。欧米で導入例があり、日本でも導入の是非が長く議論されてきた。

政府が今回導入しようとしているのは、その入り口にあたる部分だ。基本方針は、税・社会保険料の負担額から年金などの現金給付を差し引いた「純負担率」を国際比較したところ、中低所得の現役勤労者について改善が必要だと分かったと説明する。そのうえで、負担と給付を横断的に捉えて純負担率を調整する「所得に連動したきめ細かな給付」を導入するとした。これまでの経済対策のような一律の給付金とは違い、所得に応じて額が変わる給付を毎年度続けるのが特徴で、政府はその点が国民に伝わるよう「実態に即した制度の名称」を付けるとしている。

制度設計の議論は、内閣官房に置かれた社会保障国民会議の下で進んだ。有識者会議が専門的な論点を整理し、実務者会議が3月から7月まで22回開いて詰め、7月29日に「中間とりまとめ」をまとめた。理想形については「給付と税額控除の組み合わせが望ましい」との強い意見がある一方、制度が複雑になるのを避けるため短期的には給付の形にすべきだとの整理もあり、実務者の間で意見に「相当に開き」があったと中間とりまとめは記している。このため最終形は結論を先送りし、まず給付を軸に据えた。政府は8月5日、この中間とりまとめを「十分尊重」する形で基本方針を閣議決定した。

もらえるのは誰か 個人単位で、単身者もフリーランスも対象

対象は、世帯ではなく「個人単位」とする。働く意欲を高め、いわゆる「年収の壁」に効果的に対応する狙いから、単身者も対象に含める。

要件は、一定の「勤労性の所得」があり、一定の税・社会保険料負担があること。勤労性の所得には給与所得と事業所得のほか、多様な働き方を踏まえて業務にかかる雑所得も含め、個人事業者やフリーランスも対象とする。ただし事業所得と業務にかかる雑所得は、就労とみなせる一定額を超える場合に限って合算する。働いていて、税・社会保険料の負担から年金の受取額を引いた純負担が現役並みにある中低所得の高齢者も対象になる。

給付額は原則として所得に応じて決める。勤労性の所得が一定の水準に達するまでは額を増やし、その後は定額とし、総所得が一定額を超えると公平性の観点から徐々に減らしてゼロにする。パートなどで一定の収入を超えると手取りが減る「年収の壁」に直面する人には、壁が解消するまでの時限措置として加算を上乗せする。所得税の控除の引上げによって壁がどれだけ動いたかについては、政府が10月16日付の答弁書で就業率と月間実労働時間の数値を挙げたうえで評価を留保している(政府答弁書、百三万円の壁の見直しの効果「一概に評価することは困難」 就業率は61.8%から62.3%)。18歳以下の子どもを扶養している場合は、人数に応じた加算も付く。高所得の配偶者がいる場合には、公平性に配慮した例外を設ける。

いくらもらえるかは、まだ決まっていない

制度の骨格は決まったが、自分がいくら受け取れるのかを知る材料はまだ無い。給付の対象を区切る所得の水準も、給付額そのものも、基本方針は「恒久財源の確保と併せて検討する」と書くにとどめている。9月15日に閣議決定された食料品の消費税1%、大綱を閣議決定 2027年4月から2年間 支援金の額は決定後も「検討し定める」のままでも、この部分は「検討し定める」のままだった。

大綱の概要資料に具体的な数字として出てくるのは、金額を決めるときの目安として引かれた既存制度の水準だけだ。給付が増え始める「逓増開始額」の参考として、単身者の個人住民税所得割の非課税限度額である給与収入119万円が挙げられている。対象の下限をどこに引くかについては、中間とりまとめで出た意見として、被用者保険の短時間労働者の適用ラインである所得約32万円超(給与収入約106万円超)、給与所得が0円を超える給与収入74万円超、雇用保険の適用ラインである給与収入約53万円超の3案が並記されている。

財源も積み残しだ。本格導入分は恒久施策のため恒久財源が必要だとし、「つなぎ」の分も含めて「特例公債に頼らず」、補助金や租税特別措置の見直し、税収以外の収入の確保などで賄うとした。結論を出す時期は、つなぎの分が2027年度(令和9年度)の予算編成過程、本格導入分は「早期に結論を得る」との表現にとどまっている。

2027年4月からの「つなぎ」と、配る側の準備

本格導入を2029年度に置いたのは、高所得の配偶者や16歳から18歳までの扶養家族の情報をつかむ仕組みなど、追加の環境整備が必要だからだと基本方針は説明する。その間の2年間は、2027年4月1日から2029年3月31日まで飲食料品の消費税率を1%(国税0.78%と地方税0.22%相当分の合計)に下げ、あわせて消費税1%相当分の範囲で先行的な給付を行う。この給付が「就業者負担軽減支援金」で、政府は両者を組み合わせることで「全体として飲食料品に係る消費税の実質ゼロ化を実現する」としている。先行導入の期間は、本格導入時の配偶者の所得を勘案する例外を置かず、子どもの加算も18歳以下ではなく15歳以下を対象とする経過的な扱いになる。

配る事務は、国と地方が分担する。全国一律にした方が効率的なシステムの整備は国が担い、住民と接する部分は市区町村が中心になる方向で検討が進む。手続きは市町村への請求に基づく認定が原則で、年1回支給する。公金受取口座を登録している人については、請求が無くても市町村長が職権で認定して支給できる仕組みにし、受給者と市町村の双方の手間を減らす。基本方針はこの口座の登録率を「現状5割程度にとどまる」とし、向上を「国として強力に推進」して本制度では利用を原則にするとした(基本方針は、この割合の分母を明記していない)。登録の伸びは鈍く、公金受取口座の登録率、64.3%から61.1%へ 登録は1年で34万件しか増えず、マイナンバーカードは571万枚増 口座のないカードは4066万枚という状況にある。

制度の外に残る人への対応も課題として残った。働いていても収入が低い現役世代や、意欲はあっても病気・障害で働けない人は給付の対象外になり得る。基本方針は、こうした人を丁寧に把握して生活困窮者自立支援制度や障害者福祉との関係を整理し、給付と相談・就労支援を一体で行うことも含めて検討し、本格導入までに結論を得るとした。国民年金や国民健康保険の減免・軽減の拡充も選択肢に挙げている。就労していない高齢者が給付と既存の社会保障の双方から漏れないようにする論点や、国民年金第3号被保険者制度の見直し、被用者保険の適用拡大については、次期年金法改正が予定される令和12年(2030年)までに結論を出す。

政府は9月15日に大綱を閣議決定し、法案提出に向けた準備に入っている。国と地方の間では、支援金の費用をどの割合で負担するかを2026年末までに協議することになっており、制度の値段と配り方の詰めは、今年の予算編成と並行して進むことになる。この基本方針と大綱に対しては、立憲民主党、食料品減税から「給付中心」へ転換の対案 2026年度内に住民税非課税世帯へ給付、2027年4月に簡易版、2029年4月に給付付き税額控除 政府案には反対のとおり、立憲民主党が10月7日に反対の立場と対案を示している。支給がいつになるかの見通しは、「就業者負担軽減支援金」の支給は年1回 2029年度だけ4月と秋の2回に分けて半年分ずつ 費用の負担割合は年末までに国と地方で協議にまとめている。