内閣府がまとめた令和8年版防災白書は、特集「国難級の地震・津波」の中で、大地震のあとに起きる火災の過半数は電気が原因だと指摘した。有効な対策として挙げた感震ブレーカーについて、内閣府が令和6年に東京圏を対象に実施した調査では、設置している世帯は約2割にとどまっている。
内閣府が根拠に挙げるのは東日本大震災の火災原因だ。本震による火災のうち、原因が特定されたものの過半数が電気関係の出火だった(日本火災学会誌「2011年東日本大震災 火災等調査報告書」をもとに内閣府が作成)。地震そのものより、地震で倒れた電気製品や傷ついた配線から火が出る例が多いということになる。原因が特定できたのは電気製品や配線という「物」が残っていたからで、焼ける範囲が広い火災では原因が分からないまま終わることもある(大槌町の林野火災、出火原因は2件とも「不明」 消防庁長官の調査報告書 1708ヘクタールが焼け、住家の焼損は3棟)。
停電が直った瞬間に燃える「通電火災」
揺れで電気ストーブが倒れたり家電がショートしたりして火が出るほか、内閣府が警戒しているのが「通電火災」だ。地震で停電したあと、住民が避難して留守にしている家で電気が復旧し、倒れたままの電気製品や傷んだ配線に電気が流れて出火する。人がいないため初期消火ができず、気づいたときには燃え広がっている。
感震ブレーカーは、設定以上の揺れを感知したときに電気を自動的に止める器具で、この経路を断つことをねらう。揺れの規模が大きくなくても地震のあとに火災が起きることはあり、10月7日は東京・足立区で震度5強を観測した日 2021年の千葉県北西部地震から5年、負傷49人 舎人ライナー脱線の再発防止工事は2028年度完了見込みのとおり、最大震度5強だった2021年の千葉県北西部の地震でも東京都千代田区で建物火災が1件発生している。内閣府は「不在時やブレーカーを落として避難する余裕がない場合に電気火災を防止する有効な手段」と位置づけ、平成27年2月には製品の性能評価ガイドラインを定めている。
一方で、電気が急に止まって困らないための備えも同時に求めている。生命の維持に直結する医療用機器を家に置いている場合は停電に対処できるバッテリーを用意すること、夜間の明かりを確保するために停電時に作動する足元灯や懐中電灯を常備すること、電気が戻るときはガス漏れや電気製品の安全を確かめてからにすることなどを挙げる。焦げたにおいがしたら、すぐにブレーカーを落として原因を確かめるようにともしている。
普及調査は「危険密集地域」とそれ以外に分けて実施
設置率の調査は、内閣府が令和6年7〜8月に郵送(オンライン併用)で行ったものだ。対象は二つに分けられている。一つは埼玉・千葉・東京・神奈川の1都3県にある「危険密集地域」の戸建て住宅に住む約35万世帯で、このうち約3000世帯が回答した。もう一つは茨城・栃木・群馬・埼玉・千葉・東京(島しょ部を除く)・神奈川・山梨・長野・静岡の1都9県にある危険密集地域以外の戸建て住宅約1070万世帯で、こちらは約2万6700世帯が回答している。
「危険密集地域」とは、地震のときに電気火災が起きたり燃え広がったりする危険が高いとして、自治体が指定に取り組むべきだと内閣府が整理した地域を指す。木造住宅が密集し、火が燃え広がりにくい空間が少ない地区が該当する。つまり感震ブレーカーが最も必要とされる場所を切り出して調べたうえで、全体でも約2割という数字になっている。延焼の危険が特に高い密集市街地を抱える15市区での購入・取付支援の状況は、感震ブレーカー支援、危険密集市街地の15市区のうち8市区が未実施 国土強靱化推進会議で伝えた。
都心南部直下地震で全壊・焼失は最大約40万棟
なぜ電気火災にここまでこだわるのかは、被害想定を見るとわかる。白書によると、東京圏とその周辺には人口約4660万人、建物約1530万棟が密集している。首都機能への影響が最も大きいとされる都心南部直下地震が起きた場合、死者数は最大で約1.8万人、全壊・焼失棟数は最大で約40万棟、経済的な被害は約83兆円に上ると推計されている。令和7年12月に中央防災会議の作業部会がまとめた新しい想定だ。
白書はこの人的被害について、木造家屋の倒壊とあわせ、木造住宅密集市街地が広域的に連なる地区を中心に起きる大規模な延焼火災を要因に挙げている。同時多発的に火が出れば消防の力が足りなくなり、消し止められないまま燃え広がる。その消防の現場では、常備の消防本部を補う消防団の担い手が減り続けている(消防団員は71万8697人、1年で1万3526人減 女性・学生・機能別は増加 報酬が基準に届く市区町村は95.1%)。出火の数そのものを減らしておくことが、結果として市街地火災を防ぐという理屈になる。
ライフラインへの影響も大きく、電力供給力の低下が1か月程度続くことで、電気に頼る通信、上下水道、鉄道にも影響が及ぶおそれがあるとしている。
「防災を日常に」と白書
白書は個人の備えについて、耐震化や家具・家電の固定、食料と飲料水を最低3日分、できれば1週間分用意しておくことなども挙げている。これらの対策がどれだけ被害を減らすかは、南海トラフ地震、全員が10分で避難を始めれば津波の死者は約21万5000人から約7万3000人に 令和8年版防災白書 家具の固定は35.9%、感震ブレーカーは8.5%で内閣府が試算を示している。昭和56年(1981年)以前に建てられた家は耐震診断を受けるべきだとし、家全体の改修が費用の面で難しければ寝室やリビングなど一部だけでも実施する方法を示した。
内閣府が2026年10月9日に公表した世論調査では、個人が備蓄食料や防災セットを用意することを国土強靱化に役立つ取組に挙げた人が63.2%に上った(「国土強靱化」聞いたことがない62.2% 内閣府世論調査、取組は98.0%が「重要」)。
そのうえで白書が繰り返すのが、防災を特別な行事にしない、という考え方だ。日常と非常時を分けない「フェーズフリー」の発想を紹介し、キャンプ道具や電気自動車の災害時活用、食品を使いながら買い足す「ローリングストック」などを例に、意識しなくても自然に備えができている状態を目指すべきだとしている。「自分は大丈夫」と事態を過小評価してしまう正常性バイアスにも触れ、「自らの命は自らで守る」に加えて「大切な人の命を守る」という意識を持つことを求めた。
