財務省が9月30日に公表した外国為替平衡操作の実施状況によると、8月27日から9月28日までの介入額は0円だった。7月31日に28年ぶりの日米協調介入を実施した前の期間(7月30日〜8月26日)は15兆3993億円で、9月は円高の局面でも、日銀の利上げ後に円安へ戻した局面でも、当局は市場で円を売り買いしなかったことになる。
その9月の円高のさなか、片山財務相は11日の閣議後記者会見で、急速に進む円高について問われ、「我々の対応方針は日米協調介入を実施して皆様に声明を発表したときから一切変わっておりません」と述べた。そのうえで「引き続き米国財務省とも緊密にコミュニケーションを維持しつつ、秩序ある為替市場の維持に取り組んでまいります」と語り、相場の水準そのものへの言及は「いつものように差し控えます」として避けた。
9月に入って7営業日で6円87銭の円高
円相場は9月に入って急な上昇が続いている。日本銀行がまとめている東京市場のドル・円スポット相場(午後5時時点)は、9月1日が1ドル=159円99銭、3日が157円5銭、7日が155円56銭で、9日は153円12銭となった。7営業日で6円87銭の円高だ。1ドル=160円なら100万円は6250ドルにしかならないが、153円12銭では約6530ドルになる。同じ円で買える外貨が増えた形だ。
会見では記者が「今週、一時1ドル=153円台を割るなど急速に円高に振れ、その後も不安定な動きが続いている」と指摘し、この動きが経済の実力に沿ったものかどうかを尋ねた。片山氏は個別の水準評価には踏み込まなかった。
9月9日の153円12銭が底 利上げ後は158円台へ戻す
会見のあと、相場はこの円高方向の動きを続けなかった。同じ日銀の統計で9月の値動きを最後までたどると、9日の153円12銭が9月の最も円高の水準で、10日153円41銭、11日154円22銭、14日154円40銭、15日154円89銭、16日154円98銭、17日155円69銭、18日157円49銭と、7営業日続けて円安方向へ戻した。9日の底から18日までの戻し幅は4円37銭で、月初から9日にかけて進んだ6円87銭の円高の6割超を打ち消したことになる。
反転の節目になったのが9月18日だ。日銀はこの日の金融政策決定会合で、無担保コールレート(オーバーナイト物)を「1.25%程度で推移するよう促す」と決めた。賛成7、反対2の決定で、新しい方針は翌営業日の9月24日から適用された。片山氏の説明によれば、従来の水準は1.0%程度である。補完当座預金制度の適用利率も1.25%、基準貸付利率は1.5%に引き上げられた。
利上げは通常、その通貨を買う動きを呼ぶ。ところがこの日の東京市場の17時時点は、前日の155円69銭から157円49銭へ円安に振れた。片山氏は25日の会見で「市場では日銀の利上げ決定後に大きく円安が進みました」という記者の指摘を受けている。日銀は同じ公表文で、物価の背景に「原油高や為替円安」を挙げ、消費者物価の基調的な上昇率が2%に近づいているとしていた。物価を抑えるための利上げが、かえって円安を招いた形だ。
円安方向の動きはその後も続いた。利上げが適用された9月24日は158円22銭、25日は158円10銭。月末の30日は156円91銭で、9月全体では月初の159円99銭から3円8銭の円高で終えた。10月に入ると1日が158円39銭、2日が157円58銭、5日が157円66銭、6日が158円12銭、7日が158円11銭と、158円前後で推移している(日銀の統計に収録されている10月7日まで)。9月9日の底からは5円ほど円安に戻った水準だ。ドルに換算した日本の経済規模の見通しについては、日本のドル建てGDP、2027年に6位へ IMF見通しでインドと英国に抜かれるで伝えている。
「日米協調介入」という異例の枠組み
片山氏が「一切変わっていない」とした対応方針は、日米が足並みをそろえて実施した協調介入の際に公表した声明を指す。為替介入は、通貨当局が市場で自国通貨を売り買いして相場の行き過ぎた動きをならす操作で、日本では財務相が判断し、日銀が実務を担う。単独で行う場合と異なり、協調介入は相手国の通貨当局と足並みをそろえて実施する。
この枠組みがいつ立ち上がったかを、片山氏は9月25日の閣議後記者会見で日付とともに説明している。「7月31日に28年ぶりに協調介入いたしまして、8月3日に各々が共同声明を発表した」と述べ、その共同声明が日本側は高市首相、米国側はトランプ大統領にまで上がっていたと明らかにした。前回の日米協調介入は1998年で、そこから28年が空いたことになる。
財務省が8月28日に公表した外国為替平衡操作の実施状況によると、7月30日から8月26日までの介入額は15兆3993億円にのぼった。この規模の介入を実施したあとも、政府は枠組みを維持する姿勢を崩していない。円高方向の値動きが目立つ局面に入っても対応の軸は動かさない、というのが片山氏の説明だ。
米財務長官の「私が胴元だ」発言
もう一つの質問は、米国のベッセント財務長官の発言に向けられた。記者によると、ベッセント氏は8日の講演で、円の為替市場に介入する際に日本や日銀、日本の政策立案者がどう動くかを「かなり詳しく把握している」と述べ、自らを「胴元」だとも語った。日銀や日本の通貨当局の判断にまで踏み込む異例の発言が続いていることへの受け止めを、記者は片山氏に求めた。
片山氏は「報道を聞いておりますが、その発言の内容については、意味をどう思うとか評価するということは当然差し控えます」と応じた。そのうえで「私も胴元という見出しを見て、日本語の語感だとちょっと怖いですよね」と述べ、英語の原文が「I am the house」だったことに触れ、米紙ウォール・ストリート・ジャーナルがヘッジファンド出身者らしい市場観の表れだと書いていたとして、「そういうことと思いまして、それ以上の感想はございません」と語った。「胴元」と訳された「the house」は、賭け金を預かる側、つまり場を仕切る側を指す英語表現だ。
片山氏は8月31日に日米の財務相会談を開いたことにも言及した。その後の公式夕食会でベッセント氏やJPモルガン・チェースのダイモン会長と意見を交わし、強い経済の実現と財政の持続可能性を両立させるという政権の成長戦略について「大いに両者から、本当にいい流れをつくっていると励ましもご理解もいただいた」と説明した。
レートチェックの有無は「お答えはできません」
円安方向へ戻り始めると、当局の動きにも関心が向いた。9月25日の会見では、日銀が18日の夜にレートチェックに踏み切ったようだとして、記者が事実関係をただした。レートチェックは、通貨当局が金融機関に足元の相場水準を問い合わせる行為で、介入の前触れと受け止められることがある。片山氏は「為替を含む足元の市場の動向についてはいつものように具体的な言及は差し控えます。また、レートチェックに関するお尋ねについてもお答えはできません」と述べ、有無そのものを認めも否定もしなかった。
同じ日、長期金利は一時3.115%を超え、記者はこれを30年ぶりの高い水準だと指摘した。片山氏は「長期金利も含めて金利は様々な要素において影響を受けるものでございまして、私どもとしては私どものできることをきちんとやっている」と答えるにとどめた。
9月の介入は0円 日ごとの内訳は11月に分かる
9月の円高局面で当局が動いたかどうかは、財務省が9月30日午後7時に公表した外国為替平衡操作の実施状況で答えが出た。8月27日から9月28日までの介入額は0円。9日の153円12銭の底も、18日の利上げ後の円安も、この期間に収まっている。片山氏が11日に「一切変わっていない」とした対応方針は、この1か月、実際の介入を伴わないまま維持されたことになる。
一方で、9月25日の会見で問われた日銀の「レートチェック」は、市場で円を売り買いする介入とは別の行為で、月次の介入額には表れない。0円という数字から、当局が18日の夜に市場へ問い合わせたかどうかまでは読み取れない。
月次で分かるのは期間の合計額だけで、どの日にいくら動いたかは出ない。財務省の公表予定によると、日ごとの内訳を載せた7〜9月の日次ベースのデータは11月2日から9日にかけて公表される。7月30日〜8月26日の15兆3993億円が、7月31日の協調介入1日分なのか、何日かに分かれていたのかは、その時に確かめられる。次の月次の数字(9月29日〜10月28日分)は10月30日午後7時に公表される予定だ。
介入で国庫に損失が出ていないかを問う衆議院議員の質問主意書に対し、政府は10月16日の閣議で決定した答弁書で、売却損益は介入した日の相場で計上すると説明した。詳しくは政府答弁書、為替介入の売却損益は「操作後の事情に左右されない」 FIMAレポの金利差には答えずで伝えた。
首脳会談では「円安への懸念」
片山氏は同じ9月25日の会見で、官邸と相談したうえで初めて明らかにするとして、日米首脳会談の中身に触れた。為替についてトランプ大統領から円安への懸念が示され、高市首相が一般論として「円の過小評価は問題である」と発言したという。片山氏は、ベッセント財務長官とは引き続き為替を含めて緊密にやりとりしていくと述べた。
9月11日の会見で問われたのは急速な円高への受け止めだったが、2週間後の会見で米国側の懸念として明かされたのは円安だった。10月に入っても円相場は158円前後で推移しており、10月30日に公表される次の介入額が、当局の姿勢を測る次の材料になる。
片山氏とベッセント氏のその後のやりとりは、関連記事(日米財務相の会談を伝えた記事、IMFの成長率見通しと財務省審議会への報告)で伝えている。
記念貨幣の発行も決定
会見の冒頭では、2027年に開かれる国際園芸博覧会を記念する貨幣の発行を同日の閣議で決めたことも発表された。額面1000円の銀貨幣で、表面には博覧会公式のマスコットキャラクター「トゥンクトゥンク」と、会場に植栽が予定されている日本原産の植物6種類をあしらう。裏面は公式ロゴマークだ。発行枚数は4万枚、販売予定価格は税込み3万3500円で、販売の申し込み受け付けは12月頃に始まる予定となっている。
