国内外の宿泊施設や航空券を検索・予約できるサイト「アゴダ(agoda)」の利用規約をめぐり、適格消費者団体の特定非営利活動法人「埼玉消費者被害をなくす会」が、運営するAgoda Company Pte. Ltd.と日本法人のAgoda International Japan株式会社に条項の使用差し止めを求めた訴訟で、7月16日、さいたま地裁で和解が成立した。会社側は、損害賠償責任の免除などを定めた条項の利用を停止したことを団体と確認し、今後も使わないと約束した。消費者庁が10月16日、消費者契約法39条1項に基づいて公表した。

2023年12月にさいたま地裁へ提訴

消費者庁の公表資料によると、団体は2023年12月6日にさいたま地裁へ提訴した。アゴダが消費者と利用契約を結ぶ際に使う利用規約のうち9つの条項が、消費者契約法8条1項各号または10条に当たり無効だとして、こうした条項を含む契約の申し込みや承諾の意思表示をしないよう求めていた。

団体が問題にしたのは、大きく分けて三つの種類の条項だ。一つ目は、事業者の賠償責任を免除する条項。サイトやサービスの品質についてあらゆる保証を否定したうえで、消費者に生じた損害の賠償責任を全部免除するもの、債務不履行や不法行為を問わず一切の法的責任を負わないとするもの、宿泊施設など第三者から消費者が受けた損害についての責任を全部免除するものなどが並んだ。

二つ目は、返金や予約そのものに関わる条項。過大請求や誤請求があったときの返金について「可能な限り早く」申し立てるよう求め、「不当に遅れて」申し立てた請求は無効とみなされる場合があるとする条項や、予約リクエストを理由なく拒否し、成立した予約を理由なく取り消せるとする条項、会社の裁量で返金を受ける権利を消滅させられるとする条項だ。三つ目は、消費者側に広い補償の義務を負わせる条項で、消費者に故意や過失がなくても、弁護士費用を含めて会社や関連会社の損害を補償させる内容だった。

条項 内容(要旨) 団体が挙げた根拠
① 品質の保証を否定し、賠償責任を全部免除 8条1項1号・3号
② いかなる法的根拠でも一切の責任を負わない 8条1項1号・3号
③ 宿泊施設など第三者による損害の責任を全部免除 8条1項3号
④ 故意・重過失があっても責任を一部免除 8条1項2号・4号
⑤ 救済措置が違法でも免除に同意する 8条1項各号
⑥ 返金の申し立ては「可能な限り早く」 10条
⑦ 予約の拒否・取り消しを理由なくできる 10条
⑧ 会社の裁量で返金請求権を消滅させる 10条
⑨ 消費者に広い補償義務を負わせる 10条
埼玉消費者被害をなくす会が無効だと主張した9つの条項出典: 消費者庁「埼玉消費者被害をなくす会とAgoda Company Pte. Ltd.及びAgoda International Japan株式会社との間の裁判上の和解について」(2026年10月16日)

「理由なく取り消し」「早く申し立てを」はなぜ問題とされたか

消費者契約法8条は、事業者の債務不履行や、債務を果たす際の不法行為で消費者に生じた損害について、賠償責任を全部免除する条項を無効とする。事業者側に故意や重大な過失がある場合は、責任の一部を免除する条項も無効になる。10条は、法律の任意規定に比べて消費者の権利を制限したり義務を重くしたりする条項のうち、信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものを無効とする。

団体は、返金の申し立てを「可能な限り早く」求める条項について、この文言からは数週間から数か月程度の期間と読むのが普通で、民法166条が定める時効の期間とは読み取れないと主張した。民法166条は、債権は権利を行使できると知った時から5年、行使できる時から10年使わなければ時効で消える、と定めている。期間がはっきりしない文言で、本来より短い期間しか請求できないと消費者に思わせる点を問題視した形だ。

理由のない予約の取り消しについては、消費者は予約が理由もなく取り消されることはないと信頼して旅行の計画を立てており、取り消されれば計画が白紙になったり、宿や航空券を高い代金で取り直したりしなければならなくなると指摘した。補償の条項については、会社側には広い免責と賠償額の制限を定める一方、消費者には広い責任を負わせる「甚だしい不均衡」があるとした。いずれも団体側の主張で、裁判所が無効と判断したものではない。

和解で利用停止を確認 対象は2025年11月施行の規約

和解条項は5項目からなる。会社側が、別紙の契約条項目録に記載された各条項の利用を停止したことを双方で確認し、今後もそれらを利用しないと約束した。団体はそれ以外の請求を放棄し、訴訟費用はそれぞれが負担する。

目録には「アゴダプラットフォームおよび予約に関する利用規約 バージョン6.1」(施行日2025年11月3日)から、免責や補償を定めた34条・35条の各項と、予約の拒否と取り消しを定めた7.6条が挙げられた。サイトを「現状有姿」で提供し、生成AIなどを使ったサービスから生じたものを含めてあらゆる保証を否認するとした35.3条や、賠償責任があると判断された場合でも、賠償の総額を購入した旅行商品の合計額か250米ドルの低い方までに抑えるとした35.8条も含まれている。

消費者庁の公表資料では、会社側から行為の停止や予防の措置をとったと連絡を受けた場合に載せる「改善措置情報」は「なし」とされた。和解は条項の利用停止を確認するもので、9つの条項が法的に無効かどうかについて裁判所が判断を示したわけではない。

消費者に代わって団体が訴える制度

今回の訴訟は、消費者団体訴訟制度に基づくものだ。消費者庁によると、この制度は、内閣総理大臣が認定した消費者団体が、消費者に代わって事業者に訴訟などを起こせる仕組みを指す。消費者と事業者の間には情報や交渉力の差があり、訴訟には時間や費用がかかって少額の被害では見合わず、個別のトラブルが解決しても同じトラブルはなくならない、という事情から、認定を受けた団体に特別な権限を与えた。

制度には、不特定多数の消費者の利益を守るために不当な行為の差し止めを求める「差止請求」と、特定適格消費者団体が消費者に代わって被害の集団的な回復を求める「被害回復」がある。消費者契約法12条3項は、事業者が不特定多数の消費者との間で、8条から10条に当たる条項を含む契約の申し込みや承諾をしている、またはそのおそれがあるとき、適格消費者団体がその停止や予防を求められると定める。今回はこの差止請求の形をとった。

消費者契約法39条1項は、適格消費者団体から差止請求に関する判決や和解などの報告を受けたとき、内閣総理大臣がその概要や団体と相手方の名称をインターネットなどで速やかに公表すると定めており、今回の公表もこれに基づく。消費者契約法をめぐっては、キャンセル料など解約料の扱いも見直しが進んでおり、消費者庁の検討会は「キャンセル料が高すぎる」の証明、消費者から事業者へ 消費者契約法の見直し案 解約料の相談は10年続けて年3万件超という中間取りまとめを9月にまとめている。

予約サイトの利用規約は、予約のたびに画面上で同意を求められても、細部まで読む利用者は多くない。今回の和解は、規約に「一切責任を負わない」と書かれていても、適格消費者団体が消費者契約法に照らして争い、条項の利用が止まることがあると示した。