情報処理推進機構(IPA)は10月16日、不正アクセスの被害を受けている、またはその可能性がある企業・組織を対象にした「不正アクセス特別相談窓口」を開設した。全国の企業・組織が電話とメールで相談でき、被害の有無の見極めや応急処置について助言するほか、調査を担う専門業者の一覧を紹介する。国内では、大量の個人情報を扱うシステムに侵入され、データを抜き取られる事案が相次いでいる。IPAは同じ日に「不正アクセス対策特設サイト」を開設し、窓口の案内と、9日に公表した点検・対策の項目、政府機関の注意喚起をまとめて載せた。
窓口で受けられる助言
特設サイトによると、特別相談窓口の対象は「不正アクセスの被害を受けている、またはその可能性がある全国の企業・組織」。電話(03-6759-5760)の受付は平日の午前9時30分から午後5時30分までで、正午から午後1時までは受け付けない。メールでも相談でき、その場合は回答が翌営業日以降になることがある。
対応内容として、IPAは次の4点を挙げている。インシデント(情報セキュリティ上の事故)が起きたときの初動対応について、相談者から起きている事象を聞き取り、被害が発生している可能性を助言する。被害が出ている場合は、有効な応急処置の案を助言する。インシデント対応を行う専門業者の一覧を紹介する。ほかに必要な相談先や報告先を紹介する。
侵入されたかどうかがはっきりしない段階でも相談の対象になる点が特徴だ。窓口は調査そのものを請け負うのではなく、相談者が次に何をすべきか、どこに頼むべきかを整理する役回りになる。
IPAには従来から、企業・組織向けの「サイバーセキュリティ相談窓口」と、個人向けの「情報セキュリティ安心相談窓口」がある。特設サイトは、不正アクセス以外のインシデント、平時の予防策、その他の一般的な相談は企業向けの窓口へメールで、情報漏えいの被害に遭った個人の対処は個人向けの窓口へ寄せるよう案内している。特別窓口は、そのうち不正アクセスの被害に絞り、電話で受ける入り口を新たに設けた形になる。
相次ぐ窃取事案、各機関が注意喚起
IPAは10月9日に「不正アクセスによる漏えい等の事案を踏まえ、速やかに実施すべき対策等について」を公表している。この中で、直近に国内の金融機関や通信事業者など幅広い事業者から、不正アクセスによる情報漏えいの公表が相次いでいると指摘した。特に、大量の個人情報を扱うオンラインサービスやアカウントサービスのシステムに侵入され、個人情報を含むデータを抜き取られる事案が続いているという。
原因については、現段階では特定の製品やサービスの脆弱性(ぜいじゃくせい)を狙った攻撃とは断定されていないとした。そのうえで、公表された事例の傾向から、外部に公開しているアプリケーションやサービスの侵害、アカウントの侵害が起点になっているとの見方を示した。
同じ9日には、内閣官房国家サイバー統括室も注意喚起を出した。ウェブシステムの脆弱性の悪用、サプライチェーン(取引先や委託先のつながり)を通じた侵害、堅牢さを欠くデータ管理などにより、大量の個人情報を扱う事業者のシステムに侵入され、データが窃取される事案を複数確認していると説明した。
金融庁も9日、金融機関に注意喚起した。顧客向けサービスや業務システムへの不正アクセスで、運転免許証などの本人確認書類の画像を含む顧客情報が漏れる事案が起きていると指摘。インターネット上で本人確認をする際には、書類や顔の画像に不自然な点がないかを改めて確認するよう求めた。本人確認書類の画像を送ってもらう方法は2027年4月1日に廃止され、ICチップの読み取りに原則一本化されるが、施行を待たずにできるだけ早く対応するよう要請した。
国内で続く漏えいの手口の一つについては、情報通信研究機構(NICT)が13日に分析を公表している(詳しくは「A2B攻撃とは 公開Androidアプリを解析してサーバを攻撃、NICTが情報漏えいの原因の一つと特定」)。IPAの特設サイトは、統括室、経産省、金融庁、警察庁、個人情報保護委員会、JPCERTコーディネーションセンター、NICTの注意喚起を一覧にしている。7日から9日にかけての各機関の動きは「大規模漏えい相次ぎ、国と専門機関が3日で注意喚起 委託先の点検や不要データの消去を要求」で伝えた。
「直近1か月、次に3か月」ログを遡る
9日の文書でIPAは、経営者に対し、サイバーセキュリティのリスクを自社のリスク管理の重要課題と認識し、自らの指導力の下で対策を進めるよう求めた。「経営責任として」点検や見直しを至急実施するよう要請している。
すぐ行うべき点検として挙げたのは3つだ。1つ目は、外部に公開しているアプリケーションの精査。自組織が独自に作って運用している公開アプリやサービスがあるかを確かめ、それぞれのログ(動作の記録)に異常がないかを見る。目安として、エラーの出力量や平時との違いを挙げ、まず直近1か月、続いて3か月と段階的に範囲を広げるよう求めた。調査を繰り返す可能性があるため、誰がどう調べられるかも把握しておくよう付け加えた。未適用の修正プログラムがあれば、できるだけ速やかに適用する。
2つ目は、自組織が使っている外部サービスの洗い出しだ。クラウドサービスやVPN(仮想専用網)サービスなど種類が多く、組織全体と部署単位の両方で使われている可能性があるとして、できる限り網羅的に把握するよう求めた。サービスごとにログの保存期間が違い、提供者と利用者とで見られるログも異なる可能性があるため、誰がいつどう確認できるかを整理する。ログイン失敗の多さ、ログイン元のIPアドレスや時間帯の平時との違いを見るほか、作った覚えのないアカウントや、削除・無効化したはずのアカウントが有効になっていないかも確かめる。
公開アプリと外部サービスのいずれでも、異常なログやアカウントが見つかれば、速やかにセキュリティインシデントと判断して対応を進めるよう求め、専門のセキュリティ業者に詳しい調査を依頼することを「強く推奨」した。
3つ目は、保有データの再点検だ。盗まれた情報は悪用されるだけでなく、「公開する」と脅されたり、不正に売買されたりする二次被害が広がる傾向が強まっているとして、不要な情報は持たないという原則の下、保有する情報を正確に把握し、必要最小限にするよう求めた。今後、公的機関や業者から不審なIPアドレスや痕跡など調査に使える情報が公表される可能性があるとして、当面は情報収集を強めるよう呼びかけている。
異常がなくても続ける対策
点検で異常が見つからなかった場合でも、より強固な対策を検討するよう求めた。公開アプリについては、外部に公開する範囲の見直し、多要素認証やパスワードなど認証の強化、アカウントに与える権限の見直し、API(外部のシステムとつなぐ仕組み)連携など構成要素ごとの管理の見直し、ログの取得内容と保存期間の見直しを挙げた。外部サービスについても、認証の強化、アカウントを付与する範囲の見直し、アカウントの棚卸しの運用見直しなどを並べた。保有データについては、そもそも持つべきか、どこに保管するかの再検討、アクセス記録の見直し、暗号化を挙げている。
緊急の点検と対策の後は、社内体制の整備に加え、海外拠点や取引先まで考えた対応が必要だとした。経産省の「サイバーセキュリティ経営ガイドライン」を参考にするよう促し、取引先や委託先と連携した取り組みも求めた。IPAは、サプライチェーンを構成する企業の対策状況を共通の基準で評価する「サプライチェーン強化に向けたセキュリティ対策評価制度(SCS評価制度)」を2027年3月に始める予定で、準備を進めている。
特設サイトは、中小企業向けの対策ガイドライン、25項目に答えて自社の状況を確かめる「5分でできる!情報セキュリティ自社診断」、インシデント対応の手引き、見守りや駆けつけ、保険をまとめた民間の「サイバーセキュリティお助け隊サービス」なども紹介している。10月下旬から11月にかけて仙台、福岡、青森、千葉で開くセミナーや机上演習の案内も載せた。
企業向け窓口、相談は4〜6月に302件
IPAが公表している企業・組織向け「サイバーセキュリティ相談窓口」の統計によると、2026年4〜6月に対応した相談は302件で、前の四半期(283件)から約6.7%増えた。この窓口は2025年4月に開設され、四半期ごとの件数は244件、162件、224件、283件と推移してきた。
IPA「サイバーセキュリティ相談窓口」の相談件数(件)
数値で見る(単位: 件)
| 項目 | 件 |
|---|---|
| 25.4-6 | 244 |
| 25.7-9 | 162 |
| 25.10-12 | 224 |
| 26.1-3 | 283 |
| 26.4-6 | 302 |
302件のうち、インシデント対応の相談は65件、平時の対策が21件、サポート詐欺(偽の警告画面で電話させる手口)が68件、その他が148件だった。インシデント対応65件を被害の種類で分けると、不正アクセスが11件、ランサムウェア(身代金要求型ウイルス)感染が6件、マルウェア感染が5件、なりすましメールの送信が4件などだった。これらは今回の窃取事案が相次ぐ前の数字だ。特別窓口は、この企業向けの相談体制とは別に、不正アクセスの被害に絞って電話で受ける入り口となる。
