農林水産省は10月16日、茨城県かすみがうら市の養豚農場で家畜伝染病の豚熱(CSF)の患畜が確認されたと発表した。国内の飼養豚での発生は108例目。10月7日の愛媛県大洲市(106例目)、10日の群馬県渋川市(107例目)に続き、10月に入って3例目となった。農水省は同日、「農林水産省豚熱・アフリカ豚熱防疫対策本部」を持ち回りで開き、殺処分などの防疫措置を迅速に進める方針を決めた。
通報の翌日に確定
農水省の発表によると、発生農場の飼養頭数は約2800頭。10月15日、農場で異状が見られるとの通報を受けた茨城県が立ち入り検査を行い、豚熱の疑いが生じた。このため、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)の動物衛生研究部門で精密検査を実施し、16日に豚熱の患畜であると判明した。動物衛生研究部門は、農水省が「国内唯一の動物衛生に関する研究機関」と位置づける機関だ。
通報から確定までの流れは、直前の2例とほぼ同じだ。愛媛県大洲市の106例目は10月6日に通報があり、翌7日に患畜と確定した。飼養頭数は約4000頭だった。群馬県渋川市の107例目は9日に通報があり、10日に確定。飼養頭数は約1900頭だった。3例とも、都道府県の立ち入り検査から翌日には国の判断が示されている。
発生の確認を受けて開く防疫対策本部は、今回も持ち回りで開いた。106例目、107例目のときも同じ形式だった。
国が決めた6項目の対応
対策本部が決めた対応は、「豚熱に関する特定家畜伝染病防疫指針」などに基づく6項目だ。
1点目は、発生農場の飼養豚の殺処分と、焼却・埋却などの防疫措置を迅速かつ的確に実施すること。2点目に、感染経路などを突き止めるため、国の疫学調査チームを現地に派遣する。3点目は、豚熱の早期発見と早期通報の徹底。4点目は、関係府省と連携し、生産者や消費者、流通業者などへ正確な情報を提供すること。5点目に、農場の消毒や野生動物の侵入防止といった「飼養衛生管理基準」を守るよう指導を徹底する。6点目として、飼養豚への適時・適切なワクチン接種を徹底するとした。
農水省は報道機関に対し、現場と周辺地域での取材を厳に慎むよう求めた。現場周辺にもウイルスが存在する可能性があり、人や車両を介して感染を広げるおそれがあるためだ。農家のプライバシーを侵害するおそれも挙げ、特にヘリコプターやドローンを使った取材は防疫作業の妨げになるとしている。あわせて、根拠のない噂で混乱しないよう、生産者や消費者に協力を呼びかけた。
殺処分の範囲は県が国と協議して決める(後述)。殺処分の頭数や作業の進み具合も県の発表を待つことになるが、茨城県のホームページは10月18日時点でシステム障害のため臨時ページでの表示となっており、県の発表内容は確認できていない。
選択的殺処分が適用されるか
今回の発生で注目されるのは、殺処分の範囲だ。2026年5月に家畜伝染病予防法が改正され、同月19日に公布、即日施行された。これにより、ワクチンを接種している地域(北海道を除く46都府県)では、発生農場の豚をすべて処分する従来の方式から、感染を広げるおそれのある豚だけを処分する「選択的殺処分」に切り替わった。
農水省の資料「選択的殺処分の基本的な考え方」によると、適切なワクチン接種で免疫を得た症状のない豚は、感染拡大のリスクにならないという専門家の結論を踏まえた見直しだ。殺処分の範囲は、県が国と協議して決める。対象は、ワクチンの免疫が成立していない豚(未接種、接種後20日を経ていない、発育不良など)、症状がありPCR検査で陽性となった豚、家畜防疫員が必要と判断した豚だ。一方、県の指示に従わず接種の時期が早すぎるなど、ワクチンが適切に打たれていなかった場合は全頭が対象になる。農場内にウイルスが広く入り込んでいる場合は、繁殖豚を除く全頭を処分する。
殺処分はおおむね1週間以内に行い、消毒は1週間間隔で3回実施する。その後は移動制限と毎日の報告で約3か月間監視するが、消毒が終わった後(発生から約3週間後)は、症状のない豚をと畜場へ出荷したり、子豚を肥育農場へ移したりできる。
新制度のもとでの最初の発生は、7月4日に確認された静岡県富士宮市の105例目だった。農水省はこのとき大臣メッセージを出し、殺処分すべき豚の速やかな特定、殺処分と消毒の確実な実施、対象から外した豚の移動制限と監視を円滑に進める必要があると強調した。直前の107例目では、群馬県が国と協議して選択的殺処分を適用し、12日までに1935頭を処分した(群馬・渋川の養豚農場で豚熱、国内107例目 選択的殺処分で1935頭)。今回の茨城県の事例で同じ方式が取られたかどうかは、農水省の16日の発表には記載がない。
かすみがうら市では2回目
かすみがうら市の養豚農場で豚熱が出るのは、今回が初めてではない。農水省が公表している発生農場の現地調査の一覧には、「茨城県かすみがうら市の発生農場(国内86例目)の現地調査概要(令和5年3月2日)」が載っている。2023年にも同じ市内で発生していたことになる。
同じ一覧で2026年の動きをたどると、2月以降、群馬県前橋市(101例目)、静岡県富士宮市(102例目)、宮崎県都城市(103例目)と続き、富士宮市では5月と7月にも発生した。7月の105例目から約3か月は新たな発生がなかったが、10月に入ってわずか10日間で3例が相次いだ。
| 例目 | 場所 | 資料の日付 |
|---|---|---|
| 101 | 群馬県前橋市 | 2月27日 |
| 102 | 静岡県富士宮市 | 3月12日 |
| 103 | 宮崎県都城市 | 4月10日 |
| 104 | 静岡県富士宮市 | 5月6日 |
| 105 | 静岡県富士宮市 | 7月5日 |
| 106 | 愛媛県大洲市 | 10月7日 |
| 107 | 群馬県渋川市 | 10月10日 |
| 108 | 茨城県かすみがうら市 | 10月16日 |
26年ぶりの再発から8年
豚熱は、豚熱ウイルスによって起きる豚とイノシシの熱性の伝染病で、強い伝染力と高い致死率が特徴だ。感染した豚は唾液や涙、ふん尿にウイルスを出し、感染豚や汚染された物との接触で広がる。治療法はなく、家畜伝染病予防法で家畜伝染病に指定されている。農水省は、人に感染することはないと説明している。アフリカ豚熱(ASF)はまったく別の病気だ(輸入禁止の畜産物販売、新制度で初の店名公表 茨城の外国食材店で25.9キロ廃棄)。
農水省の「豚熱清浄化ロードマップ」(2025年6月)によると、日本ではかつて豚熱が全国に広がっていたが、1992年を最後に発生がなくなり、2007年に清浄国を宣言した。しかし2018年9月9日、26年ぶりに国内で再発した。2019年10月から感染リスクの高い地域で予防的なワクチン接種を始め、2020年9月に清浄国の地位を失った。
ロードマップは、2018年の再発から2025年5月までに24都県で99例が発生したと整理している。ワクチン接種などで飼養豚での発生は年5件程度に減った一方、感染地域が九州に広がるなど「先行きが見通せない状況」にあるとして、清浄国の地位を取り戻すまでの道筋を段階に分けて示した。野生イノシシの感染は2018年9月13日以降、国内の一部地域で続いており、国はイノシシの検査や捕獲の強化、経口ワクチンの散布などで農場への侵入を防ごうとしている。
今年はすでに8例が確認され、ロードマップが示した「年5件程度」を上回った。国の疫学調査チームが今回の農場でどのような侵入経路を突き止めるかが、秋以降の対策を左右することになる。
