脊髄損傷の治療に使う再生医療等製品「ステミラック注」(ニプロ)の本承認が、10月15日に開かれた厚生労働省の薬事審議会・再生医療等製品・生物由来技術部会で了承された。上野厚生労働相が16日の閣議後記者会見で明らかにした。この製品は2018年に「条件及び期限付き承認」を受け、販売後に集めたデータで有効性と安全性を確かめ直していた。上野氏は「条件及び期限付き承認を受けたものが本承認となるのは初の事例」と述べた。正式な承認は、今後の手続きを経て決まる。

厚労相「歩けるようになる事例も」 部会は非公開で審議

上野氏は会見の冒頭で、ステミラック注を「日本で開発された脊髄損傷用再生医療等製品」と紹介した。そのうえで「交通事故などによって脊髄が傷つき、歩けなくなった患者さんが、本製品を投与してリハビリを併用することで、歩けるようになる事例が確認されるなど、大変画期的な製品」と評価した。今後については「本承認に向けた手続を進める」と述べ、イノベーションを患者に届ける取り組みを続ける考えを示した。

厚労省の開催案内によると、部会は10月15日午後5時から7時まで開かれた。議題の1番目は「再生医療等製品『ステミラック注』の製造販売承認の可否及び再審査期間の指定の要否について」だった。審議は「企業の知的財産等が開示され、特定の者に不当な利益もしくは不利益を与えるおそれがある」として非公開とされた。部会がどのようなデータを評価し、どんな議論を経て了承したのかを示す議事録や資料は、18日未明の時点で厚労省のサイトに載っていない。大臣は会見で配布資料に触れたが、その資料も同省のサイトでは確認できていない。

ニプロは10月8日、部会の審議予定が公表されたことを発表し、業績への影響は軽微との見通しを示している。部会の後の発表は、18日未明の時点で同社のサイトに出ていない。

ステミラック注とは 患者自身の骨髄の幹細胞を培養して点滴

ステミラック注は、ニプロが札幌医科大学と共同で開発した。医薬品医療機器総合機構(PMDA)の承認品目一覧によると、患者自身から採った骨髄液に含まれる間葉系幹細胞を体外で培養して増やし、点滴で静脈に投与する。一般的な名称は「ヒト(自己)骨髄由来間葉系幹細胞」で、対象は外傷性の脊髄損傷のうち、脊髄損傷の重さを示す「ASIA機能障害尺度」がA、B、Cのいずれかに当たる患者に限られる。「先駆け審査指定制度」の対象品目でもあり、中医協の資料は「世界に先駆けて日本で承認されたもの」と記している。

2019年2月の中央社会保険医療協議会(中医協)の資料によると、骨髄液の採取は脊髄損傷を負ってから31日以内が目安とされる。投与量は1回あたり細胞0.5億〜2億個。保険で支払われる価格は、このとき1回分1495万7755円と算定された。ニプロは当時、販売のピークとなる9年度目に249人に使われ、販売額は37億円になると予測していた。

条件及び期限付き承認の根拠になった国内の治験は、13人の患者が対象だった。中医協の資料に載った結果は次のとおりで、脊髄損傷から220日目の時点で、13人中12人の尺度が投与直前より1段階以上よくなっていた。

投与直前の尺度 1段階以上改善した人/対象 割合
A 5/6 83.3%
B 2/2 100%
C 5/5 100%
合計 12/13 92.3%
ステミラック注の国内治験の結果(脊髄損傷から220日目)出典: 中央社会保険医療協議会 総会資料「再生医療等製品の保険償還価格の算定について」(2019年2月20日)

ただ、この治験は1つの施設で、比較する対照群を置かずに行われた(PMDA講演資料)。中医協の資料も、効果を「一定の有効性が期待された」と表現するにとどめていた。

「条件及び期限付き承認」とは 7年以内に有効性を確かめ直す

条件及び期限付き承認は、医薬品医療機器法(薬機法)の第23条の26に定められた再生医療等製品だけの仕組みだ。ニプロの発表によると、適正に使うための条件と、7年を超えない範囲の期限を付けて承認する。有効性が「推定される」段階で承認して患者に届け、販売を続けながらデータを集めさせる。企業は期限内に改めて承認を申請し、その時点で有効性と安全性を審査し直す。

ステミラック注は2018年12月28日に、7年の期限付きで承認された。承認条件には、改めて承認申請するまでの間、使った患者を全員調べる「製造販売後承認条件評価」が含まれていた。PMDA再生医療製品等審査部長が2026年3月の日本再生医療学会で示した資料(演者の個人的見解との注記付き)によると、承認期限は2025年12月27日だった。評価は2つの群に分けて行われた。

  • 尺度Aで20〜70歳の頸髄損傷の患者:使用した27人と、外部の比較対照54人を比べる。受傷後6〜8週から180日までに尺度が2段階以上よくなった割合をみる
  • 尺度BとCで20〜70歳の頸髄損傷の患者:使用した63人と、外部の比較対照125人を比べる。尺度が1段階以上よくなった割合をみる

ニプロはこの評価で、承認期限の7年以内に有効性と安全性を社内で確かめたとして、2025年11月14日に厚労省へ本承認を申請した。評価の結果の数値は、18日未明の時点で公表されていない。

過去には2製品が本承認に届かず

条件及び期限付き承認は、本承認まで進むとは限らない。これまでに2つの製品が本承認に届かなかった。

患者自身の骨格筋の細胞からつくるテルモの細胞シート「ハートシート」は、2023年9月に本承認を申請した。2024年7月の薬事審議会は、承認後の使用成績調査などの結果から「有効性は示されていない」として、承認は適切でないと判断した。条件及び期限付き承認時の判断は否定されないとも付け加えた。ヒト肝細胞増殖因子を発現するプラスミドDNAを使うアンジェスの「コラテジェン」(慢性動脈閉塞症による潰瘍の改善)は、2019年3月に5年の期限付きで承認された。しかし同社が申請を取り下げ、2024年6月27日付で承認は効力を失った。中医協の資料によると、販売後の調査では、承認の前提となった臨床試験の成績を再現できなかった。

前述のPMDA講演資料によると、2026年3月6日の時点で、ステミラック注のほかに「デリタクト注」「アクーゴ脳内移植用注」「エレビジス点滴静注」「リハート」「アムシェプリ」の5製品が、条件及び期限付き承認で販売後の評価を続けていた。iPS細胞を使う心臓の細胞シートやパーキンソン病の治療製品も含まれる。承認期限は2028年から2032年にかけて順に来る。

制度ができてから、条件及び期限付き承認を受けた製品が本承認に進んだ例はこれまで無かった。ステミラック注が正式に承認されれば、その最初の例となる。ただ、部会は非公開で開かれ、評価の数値もまだ公表されていない。どのデータが本承認を支えたのかが明らかになるのは、正式な承認後に審査の報告書などが公表されてからになる。医薬品の審査をめぐっては、海外の規制当局と同時に審査を進める枠組みへの参加も進んでいる(抗がん剤審査の国際枠組み「Project Orbis」に日本が正式参加 ドラッグ・ロス28品目中10品目はがん)。