財務省は9月24日午前、関税・外国為替等審議会の第70回外国為替等分科会を開き、マネーロンダリング(資金洗浄)対策の国際基準をつくるFATF(金融活動作業部会)による第5次対日相互審査への対応を説明した。国際局が出した配布資料は、法人を実際に動かしている個人の情報を公的機関に届け出させる制度が日本には無く、「新たな法律により対応する必要」があると明記した。
「実質的支配者」とは誰か
FATFが各国に求めているのは、法人の「実質的支配者」の把握である。資料はこれを「法人の意思決定を実質的にコントロールすることができる自然人」と定義している。登記上の代表者や名義上の株主ではなく、その会社を裏で動かしている生身の人間を指す。
実体のない会社(ペーパーカンパニー)を隠れみのにした犯罪が各国で相次いだことから、FATFは2022年3月に関連する勧告を強化・改訂した。求めているのは三つで、①すべての法人に実質的支配者の情報を把握させる②把握した情報を公的機関へ届け出させる③捜査当局などがその情報にすぐアクセスできるようにする——である。
資料は、このうち②の届出を義務づける制度について「G7の中で、BO情報の届出を義務付ける制度がないのは日本のみ」と記した。BOは実質的支配者(Beneficial Ownership)の略である。
政府文書には繰り返し書かれてきた
立法の必要性は、今年に入って政府文書に繰り返し書き込まれている。7月21日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2026」(骨太の方針)は、治安・安全の確保の項で「マネロン対策や経済安全保障等への対応に向け、法人の実質的支配者情報の登録等の立法化を早急に進める」とし、脚注で第5次審査を見据えた対応だと説明した。
7月28日の犯罪対策閣僚会議がまとめた「詐欺及びストーカー被害拡大防止のための緊急対策」も、特殊詐欺対策の一項目として同じ立法化を挙げた。特殊詐欺の被害急増、3月末までに938億円 前年同期を414億円上回る SNS型投資詐欺が主因のように、法人名義の口座や契約が犯罪に使われる例は後を絶たない。1月23日の総合的対応策では、法人が土地を持っている場合にその実質的支配者の国籍などを把握する仕組みも課題に挙げられている。
前回は「重点フォローアップ国」
2021年8月に公表された第4次対日相互審査で、日本は3年後までに進捗を示す必要がある「重点フォローアップ国」に区分された。同じ第4次で英国・イタリア・フランスは負担の軽い「通常フォローアップ国」となっており、日本と並んで重点扱いとなったのは米国・カナダ・ドイツである。
指摘への対応として関係法令を束ねた「FATF勧告対応法」が2022年12月に成立し、その後のフォローアップ報告書で評価が上がった勧告もある。2022年9月の第1回で1項目、2023年10月の第2回で5項目、2024年10月の第3回で6項目が格上げされた。
より厳しい区分もある。1年後までに進捗を示す必要がある「観察対象国」は現在アイスランド、トルコ、南アフリカの3か国で、最も重い「ブラックリスト」は北朝鮮、イラン、ミャンマーの3か国だけだ。国名を公表されると各国の金融機関がその国の金融機関との取引でリスク管理を強化するため、送金や決済の実務に響く。
現地調査は2028年夏、報告書は2029年2月
第5次審査の日程も資料で示された。2027年6月までが事前準備期間で、2027年7月からの1年間に、リスク評価と申告書の提出(10月)、口頭でのプレゼンテーション(11月)、2回目の申告書提出(翌1月)が並ぶ。審査員が実際に来日するオンサイト審査は2028年夏頃、対面会合が同年12月、第5次報告書の採択は2029年2月の全体会合という流れだ。資料には「現時点。今後一部変更の可能性あり」との注記が付く。
対策の裾野は広い。政府の政策会議には財務省・警察庁を共同議長に、金融庁や法務省のほか、宗教法人を所管する文部科学省、宅地建物取引業者を所管する国土交通省、電話転送サービスの本人確認、2027年4月からICチップ読み取りへ 書類のコピー送付や「2種類の提示」は使えなくなる 総務省が番号計画の変更案で扱った電話受付転送サービスを所管する総務省なども名を連ねる。FATFには38か国・地域と2つの地域機関が加盟し、9つの地域体を通じて勧告は世界200以上の国・地域に及ぶ。日本は2024年9月からアジア太平洋地域の地域体(APG)で約2年間の交代制共同議長を務めている。
