統合幕僚監部が公表した2025年度(令和7年度)の緊急発進実施状況によると、航空自衛隊が領空侵犯のおそれのある航空機に対して戦闘機などを発進させた回数は595回で、前年度の704回から109回減った。567回だった2012年度以来、13年ぶりの少なさとなる。

対象国・地域の内訳は、推定を含めて中国機が366回、ロシア機が214回、台湾機が2回、北朝鮮機が0回、その他が13回だった。割合にすると中国機が約61%、ロシア機が約36%、その他が約3%を占める。

過去最多だった2016年度の1168回からほぼ半減

緊急発進(スクランブル)は、自衛隊法に基づき、航空自衛隊が第一義的に担う対領空侵犯措置の中核となる任務だ。警戒管制レーダーや早期警戒管制機で日本周辺を飛ぶ航空機を探知・識別し、領空を侵犯するおそれがあると判断すれば戦闘機などを発進させて相手の機種や動きを確認し、必要に応じて監視を続ける。実際に領空を侵犯された場合は、無線などで退去を警告する。

統合幕僚監部が公表している年度ごとの推移では、1958年度に25回で始まった緊急発進は、冷戦期に旧ソ連機への対応で増減を繰り返した。近年の最多は2016年度の1168回で、このときは中国機851回、ロシア機301回だった。2025年度の595回は、その約半分の水準にあたる。

直近5年間でみると、2021年度が1004回、2022年度が778回、2023年度が669回、2024年度が704回、2025年度が595回で、2021年度と比べると4割ほど減った計算になる。防衛省は減少の理由については説明していない。

航空方面隊別では、南西航空方面隊(沖縄県)が348回と全体の6割近くを占めた。以下、北部航空方面隊(北海道)が165回、西部航空方面隊(福岡県)が46回、中部航空方面隊(埼玉県)が36回と続く。西部航空方面隊は前年度の102回から46回へと半分以下に減り、南西航空方面隊も411回から348回に減った。

年度後半はロシア機が中国機を上回る

もっとも、減少の内訳は年度を通して一様ではない。四半期ごとの対象国・地域別の回数をみると、中国機は4〜6月が122回だったのに対し、1〜3月は62回まで減った。一方でロシア機は4〜6月の32回から1〜3月は84回へと増え、年度の後半には中国機とロシア機の多寡が逆転している。

2025年度は、対領空侵犯措置をめぐる深刻な事案も相次いだ。2025年5月には、尖閣諸島周辺の日本領海に侵入した中国海警船から発艦したヘリコプター1機が同諸島周辺の領空を侵犯し、海上保安庁の巡視船が退去警告を行うとともに、空自の戦闘機が緊急発進して対応した。令和8年版防衛白書は、中国のヘリコプターによる領空侵犯が起きたのはこれが初めてだとしている。

同年12月には、中国の空母が沖縄本島東方から奄美大島東方の太平洋上にかけて活動し、空母から発艦したJ-15戦闘機が、対領空侵犯措置にあたっていた空自のF-15戦闘機に対して断続的にレーダーを照射する事案が発生した。同じ12月には、中国軍とロシア軍の爆撃機が東シナ海から沖縄本島と宮古島の間を通過し、太平洋上を四国沖まで長距離にわたって共同飛行したことも確認された。防衛白書によると、中露の爆撃機による長距離の共同飛行は2019年以降で計9回にのぼり、四国沖まで進出したのはこのときが初めてだった。

日本政府は中国政府とロシア政府に対し、極めて厳重に抗議し、再発防止を強く求めている。なお、1967年8月に北海道礼文島上空で旧ソ連機の侵犯が公表されて以降、防衛省が公表した領空侵犯の事例は計49件で、内訳はロシア(旧ソ連を含む)が44件、中国が4件、台湾が1件となっている。

2026年度に入り、中国機の割合が再び8割近くに

減少傾向は、2026年度に入って反転している。統合幕僚監部が7月24日に公表した2026年度1四半期(4月1日〜6月30日)の緊急発進回数は181回で、前年同期の157回を上回った。

対象国・地域別では中国機が139回、ロシア機が42回で、2025年度1四半期の中国機122回・ロシア機32回からいずれも増えた。中国機の割合は2025年度通年の約61%から約77%に戻っている。航空方面隊別では、2025年度1四半期に8回だった西部航空方面隊が43回へと大きく増えた。

統合幕僚監部は2026年度1四半期の特徴として、ロシアのIL-20情報収集機による日本海と太平洋での飛行、中国のY-9情報収集機による東シナ海での飛行、中国のH-6爆撃機とロシアのTu-95爆撃機による長距離の共同飛行を確認したと説明している。2025年度の回数の減少をもって日本周辺の状況が落ち着いたとはいえず、防衛白書も「中国機とロシア機はわが国周辺で活発に活動を継続している」として、対領空侵犯措置に万全を期すとしている。

自衛隊の人員面では、2026年版の防衛白書で自衛官の充足率が88.1%にとどまることが明らかになっている(自衛官の充足率88.1% 令和8年版防衛白書)。日本周辺での活動が続くなか、部隊を支える人の確保も課題として残る。