総務省行政評価局は9月17日、健康保険と厚生年金保険の育児休業による保険料免除をめぐり、厚生労働省にあっせんを行った。家族など同居の親族だけを雇う事業で働く人は、育児で仕事を休んでも保険料が免除されない。この扱いを見直すよう検討を求めるとともに、対象外の人が誤って免除を申し出ることのないよう、申出書の様式見直しなどの措置を求めた。厚労省は令和9年3月17日までに措置結果を回答する。
あっせんは、総務省設置法4条1項14号に基づき、行政への苦情の申し出を受けて総務省が関係省庁に改善を促す仕組みである。今回は全国共通の課題として、有識者でつくる行政改善推進会議(座長・江利川毅公益財団法人医療科学研究所相談役)に諮り、令和7年9月から今年6月まで4回の議論を経て出された。
免除を認めた後に「誤りだった」と遡って請求
きっかけは、家族4人で会社を経営している人からの相談だった。夫が代表取締役を務め、相談者、夫、息子、息子の妻の4人が同居している。息子の妻が出産し、育児に専念するため年金事務所に保険料免除を申し出たところ、免除が認められた。子が1歳になったときの延長も認められた。
ところが、子が1歳半になって再延長の手続きに出向いた際、そもそも免除の対象ではなく、これまでの免除が誤りだったとして、免除されていた保険料を納めるよう求められた。納得できない、という相談である。
労働基準法の「労働者」に当たらないため対象外
調査で分かったのは、制度の入り口の線引きだった。健康保険と厚生年金保険で育児休業中の保険料が免除されるのは、育児・介護休業法の適用対象者、すなわち労働基準法の「労働者」に限られる。労働基準法は同居の親族のみを使用する事業には適用されないと定めており、そこで雇われている人は「労働者」に当たらない。したがって育児・介護休業法の育児休業も成立せず、保険料の免除も受けられない。
免除されると本人負担分と事業主負担分の両方がかからなくなるため、影響は小さくない。しかし日本年金機構は、申出をした被保険者が同居の親族のみを雇う事業に雇われているかどうかを審査で確認していなかった。育児休業等取得者申出書や機構のホームページには、免除の対象期間が育児・介護休業法に基づく期間に限られるとは書かれているものの、同居の親族のみを雇う事業で働く人は対象外だと明示されていなかった。制度上は対象外の人が、窓口では免除を受けられてしまう状態が放置されていたことになる。
「収入がなくなれば免除するのが筋」
行政改善推進会議では、線引きそのものを疑う意見が相次いだ。育児のために働けなくなり収入がなくなったのなら保険料を免除するのが筋である、育児・介護休業法の適用がないことを理由に免除しないのではなく、適用に代わる要件を考えるべきではないか、といった指摘である。同居の親族以外が1人でも雇われていれば同じ働き方でも免除が認められることと比べ、公平とはいえないという意見も出た。
一方で、妻の育児休業中に収入減を補うため夫の給料を増やすといった不正が疑われる場合は検査に入ることも考えられる、との意見もあった。家族経営という形態そのものが確認を難しくする面があるためで、免除を広げるなら不正を防ぐ仕組みが要るという整理である。
これを踏まえ総務省は厚労省に対し、同居の親族のみを雇う事業に雇用される人が育児で休んだ場合に経済的負担が減るよう保険料を免除することを検討するよう求めた。その際、実態の把握に加え、育児・介護休業法の適用を受けない人の免除要件や、不正な申出を防ぐ検査の方法を整理するよう留意を促している。あわせて現行制度の運用として、申出書の様式見直し、業務処理マニュアルの整備、周知の工夫を求めた。
年間105万件の手続きの陰で
厚生年金保険の被保険者のうち育児休業などで保険料が免除された人は、令和6年度末で51万人。うち男子は3.8万人、女子は47万人で、令和3年度末の47万人(男子1.5万人、女子45万人)から増えている。令和5年度に日本年金機構で「育児休業等取得者申出書」の手続きが行われた件数は約105万件にのぼる。
厚労省は今後の制度改正に向けて検討すべき課題としたうえで、同居の親族のみを雇う事業における「休業」を、労働基準法の適用を受ける労働者の休業と同様に扱えるのか、育児休業をどう定義するかといった論点を挙げている。年金事務所の窓口や電話照会で免除対象かを確認するマニュアルの整備も検討するとしている。
家族経営の会社は中小・零細に数多い。育児休業給付の拡充が政策の柱に据えられる一方で、制度の定義から外れたところに、育児で収入を失っても保険料だけは払い続ける人が残っていた。窓口の運用が誤ったまま長く続き、後から遡って請求されるという形で当事者に負担が及んだ点も含め、厚労省の回答が問われる。
