AI半導体を開発するEDGECORTIX(エッジコーティックス、神奈川県川崎市中原区)は9月24日、新しい製品群「RAIDEN(ライデン)」を発表した。最上位の「RAIDEN-X4」は、4ビットという粗い精度の計算で最大3.36ペタFLOPS(毎秒3360兆回)の演算性能を持ち、メモリは最大256ギガバイトを積む。同社の発表によると、川崎重工業が複数の次世代AI対応の航空宇宙・防衛製品向けにRAIDENベースのソリューションを採用した。顧客向けサンプルの提供開始は2027年初頭、量産開始は2027年後半を予定している。

ダイを1個・2個・4個と束ねて性能を変える

RAIDENの特徴は「チップレット」と呼ばれる作り方である。半導体は通常、1枚の大きなダイ(回路を焼き付けた半導体の塊)に必要な機能をまとめて載せる。チップレットはこれを小さなダイに分け、複数を1つのパッケージの中でつなぎ合わせる。ダイが小さいほど製造時の不良が出にくく、同じ設計を使い回して性能の違う製品を揃えられるという利点がある。

RAIDENはダイ1個の「X1」、2個の「X2」、4個の「X4」という構成を用意し、いずれも同じ「DNA-X」アーキテクチャと「MERA」ソフトウェアスタックを共有する。同社は、開発環境が製品世代をまたいで共通であるため、現行製品「SAKURA-II」で書いたものがそのままRAIDENに引き継げると説明している。搭載機器を作る側からすると、性能の異なる製品を選び直してもソフトウェアを作り直さずに済む点が実務上は大きい。

数字の面では、X4でダイどうしをつなぐ帯域が最大1.54テラバイト毎秒、メモリ帯域が548ギガバイト毎秒、複数のチップを並べて規模を広げるときのチップ間接続が最大6.4テラビット毎秒とされる。消費電力は設定で変えられるという。演算性能だけを上げても、データを運ぶ経路が細ければ性能は出ない。ダスグプタ・サキャシンガ最高経営責任者(CEO)は「フィジカルAIの競争は、単により高速なアクセラレータを開発するだけでは勝てません」と述べ、演算・メモリ・帯域・接続・ソフトウェアをそろえて拡張する必要性を強調した。

川崎重工が航空宇宙・防衛に、米ユニゲンがサーバーに

採用先として社名が挙がったのは2社である。川崎重工業は複数の次世代AI対応の航空宇宙・防衛製品向けにRAIDENベースのソリューションを採用した。米国に本社を置くエンタープライズ向けハードウェア企業のUnigen(ユニゲン)は、RAIDENを使ったサーバープラットフォームを開発している。ユニゲンはすでに同社の現行製品SAKURA-IIのモジュールを出荷しており、その協業を広げる形になる。

量産が2027年後半である以上、搭載製品が世に出るのはその先になる。ただ、航空宇宙・防衛の機器は開発期間が長く、部品の選定は量産のかなり前に決まる。発表の段階で採用先が示されたことは、設計の前提として組み込まれ始めたことを意味する。

元手は国の「ポスト5G」事業 NEDOから計70億円

RAIDENは国の資金から生まれた製品でもある。同社は、RAIDENが新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の補助事業「ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業」(JPNP20017)で得られた成果を活用していると明記している。

同社の過去の発表をたどると、2024年11月6日にこのポスト5G事業で40億円の補助を受けてAIアクセラレータ「SAKURA-X」を開発すると公表し、計算効率とエネルギー消費を既存製品の5倍以上改善する目標を掲げた。続く2025年5月28日には、エッジでの推論と学習に向けたチップレット「NovaEdge」の開発で新たに30億円のNEDO事業に採択されたと発表している。こちらは将来の量産先として熊本県のJASM(Japan Advanced Semiconductor Manufacturing)を想定し、GPUを使ったエッジAIより5倍以上高い電力効率を目指すとしていた。同社は両者を合わせて約70億円(約4900万ドル)の国の研究開発支援を得たとしている。

国産のAI半導体に公的資金を入れる動きは、この1社に限らない。政府のAI関連予算要求、2兆9392億円 今年度当初の5027億円から5.8倍 最大は経産省の基盤モデル開発8964億円のとおり、令和9年度の概算要求では政府全体のAI関連予算が当初予算の5.8倍に膨らんでいる。PFN、国産AI半導体「MN-Core 2」を材料探索AIに投入 電池材料の結晶計算でGPUの最大4倍、年内提供へのように、独自開発の半導体を実際の用途に載せる国内企業も出てきている。

狙いはデータセンターの外で動く「フィジカルAI」

RAIDENが照準を合わせる「フィジカルAI」とは、現実世界を認識し、推論して、行動する機械のことだ。同社は「単にAIアクセラレータを追加するだけではスケールできない」とし、集中型のデータセンターの外に置かれる高性能なAIシステムを「厚いエッジ(thick edge)」と呼んで対象に据える。想定する分野として航空宇宙・防衛、ロボット、高度な製造、通信、エッジAI基盤を挙げている。

対話型の生成AIは、質問を遠くのデータセンターに送って答えを待てばよい。これに対しロボットや機体は、目の前の状況に即座に反応しなければならない。通信が途切れる場所で動くことも、機密の情報を外に出せないこともある。処理を手元で完結させる必要があるが、現地に置ける装置の大きさと電力には限りがある。だからこの領域では、性能そのものと同じくらい、電力あたりの性能が問われる。

この分野に日本の産業政策も資金を投じている。経産省、国産AIに3873億円支援 新会社「ノエトラ」など選定、ロボットを動かす「フィジカルAI」開発へのとおり、経済産業省はロボットを動かすフィジカルAIの開発を支援対象に据えている。動かすためのモデルと、それを載せる半導体の双方が国内に揃うかどうかが、この先の焦点になる。