政府は、日本とバングラデシュの経済連携協定(EPA)の締結について国会の承認を求める案件を、10月16日に国会へ提出した。参議院の議案情報によると、第222回国会に提出された条約の1番目で、衆議院が先に審議する「衆先議」とされている。衆議院の経過情報では、19日時点で付託委員会は決まっておらず、「衆議院で審議中」となっている。協定は2月6日に東京で署名されており、国会の承認を経て、発効に向けた最終段階に入る。
署名から8か月、国会承認の手続きへ
正式名称は「経済上の連携に関する日本国とバングラデシュ人民共和国との間の協定」。外務省によると、2月6日、堀井巌外務副大臣と、バングラデシュ暫定政権のシェイク・ボシール・ウッディン商業・繊維・ジュート・民間航空・観光担当顧問が東京で署名した。
両国は2022年12月に共同研究の立ち上げで一致し、2023年4〜9月に3回の共同研究会合を開いた。同年12月に公表した共同研究報告書が締結交渉の開始を提言し、2024年3月に交渉開始を決めた。交渉会合は2024年5月から2025年9月まで7回開き、その後も実務協議を続けた。2025年12月22日、茂木敏充外相とボシール顧問が電話会談で大筋合意を確認していた。
協定は総則から最終規定まで全22章で構成する。物品の貿易、原産地規則、税関手続き、サービスの貿易、自然人の移動、投資、電子商取引、政府調達、知的財産、競争政策、補助金、国有企業、ビジネス環境の整備、労働、環境、透明性、協力、紛争解決と、関税にとどまらない分野を並べた。本文は英語で2通作成され、外務省は和文と英文を公表している。協定の概要は外務省、財務省、農林水産省、経済産業省の4省が連名でまとめた。
憲法73条は、内閣が条約を締結するには国会の承認を経ることを必要と定めている。今回の提出は、この承認を得るための手続きである。衆議院が10月16日に議案を受理し、参議院も同じ日に予備審査のための議案を受け取った。
「初めてのEPA」が二重に重なる
外務省などがまとめた協定の概要は、この協定を二つの意味で「初めて」と位置づけている。一つは、バングラデシュにとって初めてのEPAであること。もう一つは、日本にとって、国連が定める後発開発途上国(LDC)と結ぶ初めての二国間EPAであることだ。署名時の報道発表でも、両国の代表が「バングラデシュにとって初めてのEPA」として署名を歓迎したと記している。
概要資料は、バングラデシュを「中印ASEANに囲まれた要衝」で魅力的な成長市場としつつ、日本企業の存在感は他国に劣ると指摘する。バングラデシュから見て日本は輸出先の11位、輸入先の9位、対内直接投資では13位にとどまる。一方で、日本はバングラデシュにとって最大の二国間援助国であり、政府としての存在感は極めて高いとし、これをてこに円滑なビジネス環境のための法的な基盤を整えることが急務だとしている。
両国は2023年4月に関係を「戦略的パートナーシップ」に格上げした。概要は、この協定がグローバルサウスとの通商交渉の拡大や「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」の観点からも有益だとしている。
鉄鋼・自動車部品の関税を段階的に撤廃
関税の扱いでは、日本からの輸出品でバングラデシュ側の高い関税が下がることが柱になる。概要によると、最大56.6%の関税がかかる鉄鋼は、約9割の品目で18年以内に関税を撤廃する。自動車部品はタイヤやエンジンなど多くの品目で15年以内に撤廃する。乗用車(完成車)は、将来にわたって他国より不利にならない特恵待遇を確保したとしている。
農林水産品では、日本が輸出に力を入れる和牛肉、ぶり、たい、ほたて、りんご、ぶどう、緑茶、しょうゆなどで、即時から18年以内の関税撤廃を得た。バングラデシュは日本からの輸入額の約83%を無税にする。
日本側は、バングラデシュからの輸入額の約91%を無税にする。ただし、主力の繊維製品やえび、かに、紅茶、香辛料はLDC向けの特恵税率で現在も無税で、協定ではこれらを即時撤廃とした。コメ、麦、牛肉、豚肉、乳製品、甘味資源作物といった重要品目は、関税の削減・撤廃の対象から外した。
| 項目 | バングラデシュ側(日本からの輸入) | 日本側(バングラデシュからの輸入) |
|---|---|---|
| 無税になる割合(輸入額) | 約83% | 約91% |
| 鉱工業品 | 鉄鋼・自動車部品・織物・電子部品などで即時〜18年以内に撤廃 | 多くの品目で即時または段階的に撤廃。繊維製品は即時撤廃 |
| 農林水産品 | 和牛肉・ぶり・たい・ほたて・りんご・ぶどう・緑茶・しょうゆなどで即時〜18年以内に撤廃 | えび・かに・紅茶・香辛料などは即時撤廃。コメ・麦・牛肉などの重要品目は除外 |
出典: 外務省・財務省・農林水産省・経済産業省「日・バングラデシュ経済連携協定(概要)」
両国の貿易額は、2022年と2023年の平均で、日本からバングラデシュへの輸出が約3599億円(バングラデシュ中央銀行の統計)、バングラデシュから日本への輸入が約2212億円(財務省貿易統計)だった。輸出は鉄鋼・鉄鋼製品が25%、自動車を除く輸送機器が22%、一般機械が15%、自動車が13%を占める。輸入は繊維・衣料製品が84%と大半を占める。
バングラデシュからの輸入の内訳(%)
数値で見る(単位: %)
| 項目 | % |
|---|---|
| 繊維衣料 | 84 |
| 皮革履物 | 9 |
| 農水産品 | 1 |
| その他 | 6 |
サービス・投資のルールも整える
関税以外の分野も幅広い。サービス貿易では、バングラデシュが世界貿易機関(WTO)の分類で約150あるサービス分野のうち、コンピューター関連、建設・エンジニアリング、運送などを含む約100分野で自由化を約束した。これまで約束していたのは16分野だけだった。
ルール面では、投資、電子商取引、政府調達、知的財産、国有企業、補助金、競争、労働などの章を設けた。投資では内国民待遇や最恵国待遇、投資家と国の間の紛争解決の手続きを定めた。電子商取引ではソースコードの移転やアクセスの要求を禁じ、政府調達は互いに市場を開くことを約束した。透明性の章には腐敗防止措置も盛り込んだ。
原産地規則では、第三者機関による証明と認定輸出者制度を採用する。輸入者や輸出者、生産者が自ら原産地を申告する制度は将来導入するとしつつ、日本については発効時から輸入者による自己申告を実施する。税関手続きでは、事前教示制度や通関手続きに数値目標を設け、税関職員の汚職防止措置や苦情申し立ての制度も定めた。両国政府が関係団体と連携してビジネス環境の課題に取り組む「ビジネス環境の整備」の章も置いている。
発効は手続き完了の通告から翌々月の初日
協定本文の第22.4条は、発効に必要な国内手続きが終わったことを互いに通告する外交上の公文を交換した日の属する月の、2か月後の月の初日に効力を生じると定めている。日本側にとっては今回の国会承認が国内手続きの中心となり、両国がそれぞれの手続きを終えて公文を交換した時点で発効日が決まる。
関税の撤廃や削減は、発効の日を起点に進む。協定の附属書は、品目ごとに「発効の日に無税とする」ものや、発効の日から段階的に税率を引き下げるものを区分して定めており、鉄鋼で最長18年、自動車部品で最長15年といった撤廃期間も発効の日から数える。発効が遅れれば、その分だけ関税が下がり始める時期も後ろにずれることになる。
最終規定ではこのほか、発効した年の5年後の年に、協定の実施と運用を全体的に見直すと定めた(第22.5条)。どちらの国も、外交ルートを通じて1年前に書面で通告すれば協定を終了できる(第22.6条)。
国会では今後、衆議院で委員会への付託と審査を経て本会議で採決し、参議院に送られる。承認されれば、日本にとって後発開発途上国と結ぶ初の二国間EPAが発効に向けて動き出す。
