こども家庭庁、文部科学省、厚生労働省は10月7日、ゲノム編集技術で加工したヒトの受精胚や生殖細胞の取り扱いを定める指針の案を、「ゲノム編集技術等を用いたヒト受精胚等の取扱い等に関する合同会議」の第5回会議に示した。会議はWeb会議で開かれ、指針案とあわせて省令案も議題になった。根拠となる「ヒトゲノム編集胚等の取扱いの規制に関する法律」(令和8年法律第70号)は、附則で公布の日から起算して1年を経過した日に施行すると定めており、合同会議の資料では施行日を2027年(令和9年)7月24日としている。
人・動物の胎内への移植を禁じ、違反に10年以下の拘禁刑
法第3条は「何人も、ヒトゲノム編集胚等を人又は動物の胎内に移植してはならない」と定める。例外は、動物の胎内に移植する場合で、その胎内において胎盤の形成を開始する可能性がないものとして政令で定める要件に該当するときだけだ。違反すると第19条により10年以下の拘禁刑もしくは1000万円以下の罰金が科され、両方を併せて科すこともできる。
規制の対象となる「ヒトゲノム編集胚等」は第2条第4号で、ゲノム編集技術等を用いて加工されたヒト胚、同じく加工されたヒト生殖細胞、そしてその生殖細胞と他の生殖細胞の受精によって生じたヒト胚と定義されている。ヒトに関するクローン技術等の規制に関する法律(2000年成立)が定める特定胚は、この法律の対象から外れる。法第1条は、ヒト胚や生殖細胞へのゲノム編集が予測し得ない遺伝子改変をもたらす可能性があり、その影響が将来の世代にわたって個人や社会に及ぶおそれがあることを立法の理由に挙げている。
指針案は研究の用途を4つに限定 ヒト胚は受精後14日以内
法第4条は、厚生労働大臣、内閣総理大臣、文部科学大臣に対し、ヒトゲノム編集胚等の作成・譲受けまたは輸入・使用・管理について指針を定めることを義務づけている。10月7日に示された指針案の第2条は、研究の用途でヒトゲノム編集胚等を扱えるのは、科学的合理性と意義を有する次の4つの目的に限るとした。受精やヒト胚の発生・発育・着床に関する研究など生殖補助医療の向上に資する研究、遺伝性・先天性疾患の病態解明と治療法開発に資する研究およびミトコンドリアの機能障害に起因する疾病の研究(ヒト胚の作成に卵子間核置換技術を用いるもの)、幹細胞由来生殖細胞の受精の正常性や受精後の発生の類似性を確かめる研究、ヒトゲノム編集生殖細胞を受精させずに扱い発生・分化・再生機能の解明や新しい診断法・治療法・医薬品の開発に資する研究である。
作成に使うヒト胚については、滅失させることについて提供者の意思が確認されていること、受精後14日以内(凍結保存されている期間を除く)であることなどを要件に挙げた。研究が終わったヒトゲノム編集胚等は廃棄または滅失させることも求めている。研究を行う側は、法第6条に基づき「取扱計画書」を作成し、あらかじめ主務大臣に届け出なければならない。
11月以降にパブリックコメント 政省令は年度末をめどに公布
合同会議に出された参考資料では、11月以降にパブリックコメントを実施し、指針について総合科学技術・イノベーション会議の意見を聴くとされた。法第4条第3項が、指針を定める際にあらかじめ同会議の意見を聴くことを3大臣に義務づけているためだ。同会議は政府の科学技術政策を決める機関で、「統合イノベーション戦略2026」案まとまる 高市首相「研究費の実質倍増を目指す」 科研費・運営費交付金を拡充へでも戦略の決定主体となっている。
政令・省令・告示は令和8年度末をめどに公布する日程が示された。政令に委ねられているのは、規制対象となるゲノム編集技術等の範囲(第2条)、禁止行為の例外(第3条)、研究類型の定義(第6条)など。省令では届出の様式を定める。指針案の附則第1条は「この指針は、法の施行の日(令和九年七月二十四日)から施行する」としている。取扱計画書の審査体制など運用の仕組みは、施行までに検討するとされた。
第4回会議では用語や輸入の確認方法に指摘
10月7日の資料には、9月に開かれた第4回会議で出た委員の意見と事務局の回答も載った。輸入するヒトゲノム編集胚等の提供者が対価を得ていないことをどう確認するのか、動物の胎内への移植が例外として認められる場合に研究の進行状況を誰がどう監視するのか、といった指摘が並ぶ。「ヒトゲノム編集胚等研究取扱者」と「ヒトゲノム編集胚等の取扱いに携わる者」の違いが不明瞭だという意見には、事務局が研究者の混乱を招かないよう現行指針も踏まえて修文すると答えた。
ヒト受精胚へのゲノム編集は、これまで国の指針による規制にとどまっていた。胎内への移植を法律で禁じて罰則を設けるのは今回が初めてで、研究目的の取り扱いについても、指針に従う義務(第5条)と届出制が法律上の仕組みとして入る。
