経済産業省は10月16日、英国・ロンドンで第2回「強靱な銅サプライチェーンに向けた官民合同対話」を主催した。経産省によると、14の国・地域の政府と19の企業が参加し、銅の供給網を強くするための方策を話し合った。参加者は、銅を含む重要鉱物の製錬能力が特定の地域に集中していることは、サプライチェーンの強靱化と経済安全保障の観点から留意すべき課題だという認識を共有した。
対話は、ロンドン金属取引所(LME)が主催し世界の金属業界の関係者が集まる国際イベント「LME Week 2026」に合わせて開かれた。経産省が主催するこの対話は、3月にカナダ・トロントで開いた第1回に続き2回目となる。
鉱山から電気設備まで、供給網の各段階が参加
対話には、銅の供給網に関わる鉱山会社、製錬会社、電気設備などの下流産業、各国の政府機関が出席した。日本からは経産省のほか、独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)、銅製錬会社、電気設備などの下流産業が参加した。
経産省の発表では、参加した国・地域として次の16が挙げられている。オーストラリア、アルゼンチン、カナダ、チリ、EU、フィンランド、ドイツ、イタリア、日本、パプアニューギニア、ペルー、韓国、スペイン、スイス、英国、米国。一方、発表の冒頭では参加者を「計14の国と地域の政府、19の企業」としている。14と16の違いがどの国・地域によるものかは、発表では説明されていない。
チリやペルー、オーストラリアなどの資源国と、日本や韓国、スペイン、ドイツなど製錬や銅の消費を担う国が同じ場に並んだ。3月の第1回の発表では、出席者として製錬会社、鉱山会社、政府機関が挙げられていた。今回は電気設備などの下流産業、つまり銅を使う側の企業も出席者に加わった。
会合は、国際機関や民間企業によるパネルディスカッションと、政府機関と参加企業による官民合同対話の2部で構成された。製錬能力の集中が留意すべき課題だという認識は、そのどちらの場でも共有されたという。
確認された「多様な製錬能力の維持」
参加者はさらに、強靱な銅サプライチェーンを維持・強化するには、多様な製錬能力や製錬事業者を維持・確保する必要があることを確認した。
そのために重要だとされたのは三つの点だ。一つは、信頼関係に基づく長期的な視点に立った商取引。二つ目は、持続可能な水準の製錬費・精製費(TC/RC)の確保。三つ目は、今後の需要拡大に対応する銅鉱山開発への投資である。これらによって、供給網全体の持続可能性を高めていくことが重要だとの認識で一致した。
そのうえで、供給網の上流から下流までの関係企業と関係政府機関が緊密に連携し、これらの課題に継続的に取り組むことを確認した。
経産省は、AIインフラの整備や再生可能エネルギーの導入拡大などで銅の需要は今後ますます増えると見込んでいる。発表では、銅が引き続き安定して世界に供給されることを目指し、銅産業の持続的な発展を後押ししていくとしている。
TC/RCとは何か 製錬会社の「加工賃」
TC/RCは、製錬会社が鉱山会社から銅精鉱(銅鉱石を選鉱して銅分を高めたもの)を買い入れる際の取引条件で、精鉱を溶かして銅を取り出す製錬費(TC)と、純度を高める精製費(RC)を指す。製錬会社にとっては事実上の加工賃にあたり、この水準が収益を大きく左右する。
経産省は2025年10月15日、スペイン産業・観光省、韓国産業通商資源部と「持続可能ではない銅製錬のTC/RCについてのコメント」を連名でまとめている。この中で3か国は、世界の銅精鉱市場が、公正な市場動向を反映していない可能性のある政策や慣行の影響を受け、製錬能力の急速な拡大によって大きな影響を受けていると指摘した。
コメントによると、特定の地域に製錬が著しく集中した結果、銅精鉱の供給が逼迫し、TC/RCが大幅に低下して、銅地金の生産コストを回収できない状況が生じている。スポット取引ではTC/RCがマイナスで交渉される例もあり、これは製錬業者が製錬サービスを提供するために、逆に鉱山側へ費用を支払っている状態を意味するという。
3か国は、TC/RCの著しい悪化が世界各地の製錬事業に縮小に向けた見直しを促しており、すでに複数の企業が銅精鉱からの製錬事業の撤退や生産縮小の意向を表明していると記した。そのうえで、現行の持続的でない取引は特定国への依存を強め、資源国にとっても製錬国にとっても望ましくないとし、製錬費用が持続可能な水準に戻ることへの期待を表明した。コメントは製錬が集中する地域や国の名前を挙げていない。
3月のトロント会合からの流れ
第1回の官民合同対話は、カナダで開かれた探鉱者・開発者協会(PDAC)の鉱業イベントに合わせ、現地時間の3月3日にトロントで開かれた。経産省によると、14の国・地域の製錬会社や鉱山会社、政府機関が出席した。
このときのパネルディスカッションでは、特定の地域に新たな製錬能力が著しく集中し、銅精鉱市場の需給が不均衡になっている状況や、その影響でTC/RCが大幅に下がり、製錬企業の長期的な経済的持続可能性が損なわれることへの懸念が、パネリストから示された。後半の官民対話では、従来のベンチマーク(指標価格)を参照したTC/RCの決め方にとらわれず、個別の実態を反映した持続可能なTC/RCの実現に向けて取り組みたいといった意見が交わされた。
3か国のコメントが懸念したのは、取引の現状が続けば特定国への依存が強まるという点だった。第2回の対話では、この問題意識が鉱山を持つ資源国や銅を使う側の企業も交えた場で共有され、製錬能力の集中は経済安全保障上の課題だという認識として示された。経済安全保障の観点から供給網を強める動きは銅に限らず、半導体でも対米投資で初の半導体案件、NY州に約100億ドル 年内着工、最大210億ドルへ拡大もといった取り組みが進んでいる。
今回の発表では、次回の対話の時期や、取引慣行を見直す具体的な仕組みについては示されていない。
