AIを仕事で使っている労働者のうち、勤め先から使いこなすための訓練を受けたと答えた人は、日本の製造業で33.3%——。米国の62.7%のおよそ半分にとどまる。厚生労働省が9月29日に公表した令和8年版の労働経済の分析(労働経済白書)は、AIへの投資が成果に結びつくかどうかは人への投資で決まるとしたうえで、その人への投資で日本が見劣りする実態を国際比較で示した。

労働経済白書は、雇用や賃金の動きを政府がまとめて公表する年次の報告書で、今回が77回目になる。第Ⅰ部で前年の労働経済を振り返り、第Ⅱ部でその年のテーマを掘り下げる構成で、令和8年版のテーマは「AI等技術革新が進む中での労働市場の現状と課題」とされた。

訓練を受けた割合は国際比較で最下位

白書の概要に載った国際比較によると、AIを利用している労働者のうち企業による訓練などがあったと答えた割合は、製造業で米国62.7%、ドイツ54.2%、英国51.7%に対し、日本は33.3%だった。金融・保険業では差がさらに開き、米国60.5%、英国57.2%、ドイツ54.8%に対して日本は26.9%にとどまる。いずれの業種でも日本が4か国中で最も低い。

企業の側の備えも薄い。数年先の事業展開を考慮して、その時必要となる人材を想定しながら能力開発を行っていると答えた企業の割合は、従業員300人以上で14.2%、100〜299人で13.9%、30〜99人で12.5%、10〜29人で11.6%、9人以下で8.0%だった。規模が大きい企業でも7社に1社にとどまる。白書は、企業規模が小さいほどそもそも人材戦略を定めていない企業の割合が高い点に注意が必要だと注記している。

AIの利用そのものにも企業規模による差があることは、非製造業の中小企業、従業員1人あたりのソフトウェアは大企業の7% 生成AIを「全社的に活用」は300人未満で1.3%、5000人以上は19.0%で中小企業庁の調査として示されている。

IT導入期の遅れを繰り返さないため

白書がこの点にこだわるのは、四半世紀前の経験があるからだ。パソコンやインターネットが普及した1995年から2004年のIT導入期、日本の実質GDP成長率は年平均1.0%で、米国の3.4%の3分の1程度だった。白書は、IT投資の変化率が大きい国ほどGDP成長率が高い傾向があったとして、日本はIT投資の遅れによって成長が制約された可能性があると指摘する。

そのうえで、AI投資でも同じことが起きかねないとし、労使双方がAIと協働するための人的資本投資を行っている場合、未実施の場合と比べて仕事の成果やメンタルヘルス、職場の安全性などで改善を報告する労働者が多いとした。設備への投資だけでは効果が出にくく、経営戦略と人材戦略を連携させることが肝要だと結論づけている。

「大きな雇用減少の証左はない」

AIが仕事を奪うかどうかについて、白書は先行研究を整理したうえで、マクロでみればAI技術によって大きな雇用の減少が生じている証左は現時点で得られていない、との見方を示した。一方でミクロでは影響が指摘されており、AIの支援で高齢者などの労働参加が広がる可能性がある半面、米国ではAIの影響を受けやすい度合いを示す「AI曝露度」が高い職業、たとえばソフトウェア開発者やカスタマーサービス担当者の雇用が生成AIの普及後に減ったとの研究もあるとした。

日本でもAI導入前期にあたる2016〜2019年とAI導入期にあたる2022〜2025年を比べると、就業者に占める職種の構成比の変化は「管理・専門職」「事務職」「現場職」で異なる動きを見せている。白書は、雇用の創出と喪失の両方が起こりうるとして、労働者の希望に応じた円滑な労働移動とリ・スキリングの支援が重要だとした。

白書が引く経済産業省の「2040年の就業構造推計(改訂版)」では、2040年に事務職が約440万人余る一方、AI・ロボット等の利活用人材が約340万人、理系卒が約120万人、「現場人材」が約54万人足りなくなると見込まれている。現場の担い手不足は、製造業の技能継承、「うまくいっている」は1.9% 2026年版ものづくり白書 最も多い対策は高年齢者の継続勤務で54.8%でも技能継承の問題として表れている。

実質賃金は4年連続の減少

第Ⅰ部が扱う2025年の労働経済も押さえておきたい。名目GDPは660兆円を超え、2020年5月を谷として始まった景気回復局面は2025年12月時点で67か月以上と過去3番目の長さになった。雇用では完全失業率と有効求人倍率がおおむね横ばいで推移する一方、女性と高齢者を中心に労働参加が進み、労働力人口・就業者数・雇用者数がそろって過去最高となった。

賃金は、2年連続で5%台に達した春季労使交渉の賃上げなどを背景に、現金給与総額が5年連続で増加した。ただし物価上昇が4年連続で3%以上の高水準となったことなどから、実質賃金は4年連続で減少している。白書は注記で、2026年に入ってからの実質賃金は名目賃金が強い伸びを示し、食料品価格を中心に物価上昇の鈍化がみられることからプラスで推移しているとしている。

前年の令和7年版は「労働力供給制約の下での持続的な経済成長に向けて」をテーマに、医療や運輸などの人材確保を扱った(医療・運輸・接客など「社会インフラ関連職」の欠員率は約5% ほかの職種は1.7% 年間所得は約436万円、ほかの職種は約541万円)。担い手をどう確保するかという問いは引き継ぎつつ、令和8年版はその答えを技術と人への投資の組み合わせに求めた形だ。