経済産業省は10月15日、財務省・外務省と同時に、日米両政府の「戦略的投資イニシアティブ」の下で米ニューヨーク州に半導体製造プロジェクトを実施することで、米国時間14日に日米が一致したと発表した。同イニシアティブで半導体の事業が決まるのは初めて。事業総額は約100億ドル(約1.6兆円)規模で、2026年内に着工する予定。将来は生産設備の増設によって約210億ドルまで拡大する可能性があるという。

事業総額は約100億ドル、年内に着工

発表によると、日米両国は2025年9月に打ち出した同イニシアティブについて、協議委員会の開催などを通じて調整を進めてきた。その結果、初めての半導体事業としてニューヨーク州での製造プロジェクトを進めることで一致した。

経産省は事業の狙いを、自動車や産業機械、スマートフォン、AIデータセンターなど幅広い分野に欠かせない「成熟ノード半導体」の製造能力を増強することだと説明している。成熟ノードは、回路の微細化を競う最先端品より前の世代の製造技術を指す。経産省はこの事業を、半導体という経済安全保障上重要な戦略分野で日米が協力して強靱なサプライチェーン(供給網)を作り上げるものだと位置づけた。

一方、日本側の発表には、工場を運営する事業者の名前や、国際協力銀行(JBIC)などがどれだけの資金をいつ出すかは書かれていない。発表は「本プロジェクトの早期かつ円滑な実施に向けて、日米間で引き続き緊密に連携してまいります」と結んでいる。

運営は米グローバルファウンドリーズ、1棟目は2029年稼働へ

事業者の側からは、米半導体大手グローバルファウンドリーズ(GF)が同じ14日、ニューヨーク州マルタにある同社の拠点で新しい工場2棟の技術提供と運営を担う事業者に選ばれたと発表した。GFは、米国証券取引委員会(SEC)に提出した書類にこの発表文を添付している。

GFの説明では、日本が投資資金を出し、GFは技術と製造のノウハウ、運営能力を提供する。初期の約100億ドルで直径300ミリのウエハーを使う新工場を建て、2029年の稼働を見込む。さらに約100億ドルを投じれば2棟目を建てられるとしており、資金は最大210億ドルと説明している。日本側の「約100億ドル、将来約210億ドルまで拡大の可能性」という説明と対応する。

1棟目は、フル稼働すると米国内の生産能力を年およそ90万枚(300ミリウエハー換算)増やす見込みで、2棟目もほぼ同じ規模になるという。建設と関連産業で約2万7000人、ニューヨーク州の州都周辺の地域(キャピタル・リージョン)で1000人を超える高度な製造業の雇用を見込む。1棟目は年内に着工する予定で、用地は許認可を得ており、すぐに工事に入れる状態だとしている。既存のマルタの設備を使って建設を早める。ニューヨーク州は独自の支援策「グリーンCHIPS」で州都周辺の半導体産業を後押ししており、ホークル知事は談話で、日本政府や日本の半導体サプライチェーンとの連携に期待を示した。

GFはあわせて、米商務省と、半導体の国内生産を支援する「CHIPS・科学法」に基づく既存の補助の内容を変更することでも合意した。9億5500万ドルを振り向け、ニューヨーク州マルタとバーモント州バーリントンの拠点で、シリコンフォトニクス(光で信号を伝える半導体)、シリコンゲルマニウム(SiGe)、先端パッケージングへの投資を前倒しする。通信インフラやデータセンターで重要性が増している技術だという。別の合意として、米商務省がGFの株式の約4%を取得することも明らかにした。

日本企業は装置・材料・製品購入で関心

経産省は、日本企業にとって関連設備や機器の供給などで事業の拡大が見込めるとしている。発表は具体例として、東京エレクトロンとSCREENホールディングスが製造装置の供給に、東京応化工業が部素材の供給に、ルネサスエレクトロニクスが製品の購入に関心を示していると挙げた。

サプライチェーンで部品などを納める中小企業の利益にもつながると期待しているとして、フジキンと草川精機が製造装置や部素材などの供給に関心を示していることも明記した。

GFの発表文にも日本企業の名前が出てくる。ルネサスの柴田英利社長兼CEOは、ニューヨークの新たな生産能力を「ルネサス自身の生産拠点の延長」として計画していると述べた。東京エレクトロンの河合利樹社長兼CEOは、GFの世界各地の製造拠点を長年支えてきたとして、米国での生産能力拡大に貢献できることを歓迎した。GFの発表文には米アップルや米ゼネラル・モーターズ(GM)、米シーラス・ロジックの幹部の談話も並び、米国内の取引先も新工場の生産能力を当てにしている姿勢を示した。

5500億ドルの枠組み、これまではエネルギー中心

戦略的投資イニシアティブは、2025年9月4日付で日米が交わした戦略的投資に関する了解覚書に基づく枠組みで、総額は5500億ドル。財務省国際局が9月18日の財政制度等審議会・財政投融資分科会に出した資料によると、日本側はJBICの出融資と、日本貿易保険(NEXI)の保証が付いた民間金融機関の融資で資金を出し、米国側は土地や水、電力、規制面の対応などを担う。

事業から得られる資金の配分も同じ資料に定められている。日本が出した資金の元利返済に当たる分(保証料を含む)を確保するまでは日米が50対50で分け、残りは米国側のさまざまな貢献を踏まえて米国90%、日本10%で分ける。

これまでに決まった案件は、エネルギーと資源関連が中心だった。2026年2月18日に公表された第一陣は、工業用の人工ダイヤモンドの製造(総額見込み約6億ドル)、米国産原油の輸出インフラ(約21億ドル)、AIデータセンターなどに電力を供給するガス火力発電(約333億ドル)の3件。3月の第二陣では、テネシー州・アラバマ州の小型モジュール炉(SMR)の建設(推定額最大400億ドル)と、ペンシルベニア州(同170億ドル)・テキサス州(同160億ドル)の天然ガス発電施設の建設が挙がった。

第一陣3件と今回の半導体案件の総額見込み(億ドル)

ガス火力333半導体100原油輸出21人工ダイヤ6
半導体は当初の約100億ドル。増設で約210億ドルまで拡大の可能性出典: 財務省国際局「日米戦略的投資イニシアティブの状況報告」(2026年9月18日)、経済産業省(2026年10月15日)
数値で見る(単位: 億ドル)
項目億ドル
ガス火力333
半導体100
原油輸出21
人工ダイヤ6

財務省の資料によると、JBICとNEXIは2026年5月1日に第一陣の各案件について、8月14日に第二陣のガス火力発電について、それぞれ初回分の貸付契約の締結と保険の引き受けを公表した。資料は、資金はプロジェクトの進み具合に応じて段階的に出す「段階的な資金供給」の仕組みだと説明している(これまでの契約の内訳は対米投資5500億ドル、これまでに結んだ貸付契約は5件 協調融資の総額は約68億ドルで枠の約1.2% 利益は元利回収後に米9割・日1割)。今回の半導体事業についても、日本側の資金がどの時期にどれだけ出るかは、今後の契約の公表を待つことになる。