厚生労働省は9月30日、おたふくかぜ(流行性耳下腺炎)ワクチンについて、厚生科学審議会のワクチン評価に関する小委員会がまとめた「議論のまとめ」を公表した。従来から使われている単味のおたふくかぜワクチンと、今年5月に薬事承認された新しいMMR(麻しん・風しん・おたふくかぜ混合)ワクチンの双方について、「定期接種に使用できるようにすることについて、これを妨げる大きな懸念はない」と結論づけた。おたふくかぜワクチンは予防接種法に基づく定期接種の対象になっておらず、費用が原則自己負担の任意接種が続いている。
対象案は1歳と就学前1年の2回 逃した子には「キャッチアップ」
とりまとめは、定期接種に位置づける場合のプログラムとして、第1期を生後12月から24月に至るまでの間にある者、第2期を小学校就学の始期に達する日の1年前の日から当該始期に達する日の前日までにある者とすることが「科学的観点から妥当」とした。平成25年7月の基本方針部会での議論を踏まえたもので、現在の麻しん・風しん(MR)ワクチンの定期接種と同じ年齢にそろえる案である。
あわせて、第1期の機会を逃し、今までに一度もおたふくかぜワクチンを接種したことのない第2期前の児を対象に、1回分を追加する「キャッチアップ接種」も科学的観点から妥当とした。使うワクチンについては、単味とMMRの双方を使用可能とすることに「科学的観点から大きな懸念はない」としている。委員からは、対象者の多くが既にMRワクチンを接種していることや費用対効果を踏まえ単味が合理的との意見と、海外の知見を踏まえMMRも選択肢としてよいとの意見の両方が出た。
残る「ワクチン・ギャップ」はおたふくかぜだけ
6月19日の第34回小委員会で事務局は、世界保健機関(WHO)が推奨し諸外国で導入されているのに日本では定期接種になっていない「ワクチン・ギャップ」について、平成24年時点では対象外のワクチンが多かったが、令和8年5月現在は「おたふくかぜを除きまして○の状況になっている」と説明した。定期接種化の検討が直近で進むものとしては、おたふくかぜのほか高齢者に対する肺炎球菌ワクチン、RSウイルスの抗体製剤、HPVワクチンの男性への接種、造血幹細胞移植後の予防接種の5件が挙がっている。
おたふくかぜは感染症法の5類感染症で、小児科定点医療機関から報告される定点把握疾患にあたる。インフルエンザ、9月初旬で全国3.29人 昨年同期の6.6倍 沖縄は注意報の水準、学級閉鎖など167施設と同じ仕組みで流行の規模をつかむ。とりまとめによると、4〜5年ごとに全国規模の流行が起きていたが直近の数年の報告数は少なく、7歳以下の報告が全体の約70%を占める。報告を受け取る側の体制としては、小児科がある病院は2397施設 2008年の2905施設から508減 産婦人科・産科は1230施設で6病院に1つ 病院数は8001で病床は1年に1万9523床減という状況にある。
主な症状は発熱と耳下腺の腫れだが、合併症として無菌性髄膜炎が1〜10%、ムンプス脳炎が0.02〜0.5%、ムンプス難聴が0.01〜0.5%の頻度で起こる。思春期以降に初めて罹患すると、精巣炎や卵巣炎の合併頻度が高くなる。
1993年に見合わせたMMR 新しいワクチンは今年5月に承認
MMRワクチンは1989(平成元)年4月、麻しんの定期接種の対象者のうち希望者への使用が始まった。しかし接種後の無菌性髄膜炎の発生が注目され、1993(平成5)年4月、伝染病予防部会(当時)の審議結果を踏まえて接種が見合わされた。以後、おたふくかぜに対しては単味ワクチンの任意接種だけが続いてきた。単味ワクチンは1982(昭和57)年5月と1983(昭和58)年1月に販売が始まっており、委員からは任意接種の接種率は60%程度との指摘があった。
今年5月に薬事承認された新しいMMRワクチン(RIT 4385株を含む)は、国内の臨床試験で既存の単味ワクチンに対する免疫原性の非劣性基準を満たさなかった。ただし同じ株を含むワクチンが諸外国で広く使われ一定の有効性が示されていること、数百例規模の国内臨床試験で接種後の無菌性髄膜炎が確認されなかったことなどから、導入を妨げるほどの懸念はないと判断した。一方で、国内で使った場合の安全性は今後さまざまな観点からモニタリングする必要があるとしている。
費用対効果は単味が良好 導入の可否は基本方針部会へ
既存の単味ワクチンは、国内の後ろ向き観察研究で80〜90%程度の有効率が示されている。安全性では、令和2年1月から令和5年3月に接種した44,708例を前向きに追跡した調査で、無菌性髄膜炎の発生が6例、10万接種当たり13.4例だった。疑い症例2例を除くと10万接種当たり8.9例になる。3歳未満の発症頻度は3歳以上より有意に低いとする報告もある。
費用対効果は、公的医療の立場から現状と比べた増分費用効果比(ICER)で、単味ワクチンを導入する場合が213万円/QALY、新しいMMRワクチンを導入する場合が578万円/QALYと算定された。キャッチアップ接種を加えると単味で553万円/QALY、MMRで970万円/QALYになる。この分析では、ワクチン価格をMMR2万円、単味おたふくかぜ2800円、MR6100円、接種費用を3200円と設定している。単味のほうが費用対効果は良好だが、とりまとめは新MMRについても「定期接種への導入を否定するほどのものではない」とした。
小委員会の役割は科学的な評価にとどまる。予防接種法上の定期接種に位置づけるかどうかは、具体的な運用を含めて予防接種基本方針部会が審議する。5月20日の予防接種・ワクチン分科会で決めた手順では、基本方針部会が令和9年度から定期接種にする予防接種を選び、疾病分類や対象者、使うワクチン、開始時期を決める。ただし自治体の事務負担や財政への影響などを踏まえ、科学的な意義が認められても令和9年度からの定期接種化にならない可能性があるとも記されている。
