世界保健機関(WHO)は10月7日、肥満の子どもの治療とケアに関するガイドラインを2本公表した。生後29日から10歳未満を対象にした120ページの版と、10〜19歳を対象にした133ページの版で、それぞれ別個の独立した手続きで作成された。年齢によって扱いが大きく分かれたのは薬物療法と肥満外科手術で、小児版は0〜9歳について「推奨しない」と退け、思春期版は条件付きで認めた。

9歳までは薬も手術も「推奨しない」

小児版は、0〜9歳の肥満の管理について「WHOは薬物療法を推奨しない」と明記した。推奨の強さは「強い」で、エビデンスの質は「低い」とされている。

根拠はエビデンスの不在そのものだ。WHOが委託したコクラン共同計画の系統的レビューは、子どもと思春期の肥満に対する何らかの薬物療法を無介入またはプラセボと比べた無作為化比較試験を探したが、6歳未満の子どもを含む研究は1件も見つからなかった。6歳以上を含む研究は8件あり、そのうち7件はメトホルミン、1件はリラグルチドを評価したものだった。ガイドラインは、便益についても、薬の成分が正常な成長・発達・生理的指標・精神的健康に及ぼす有害事象についても、判断材料が足りないとしている。

肥満外科手術と、体重を減らすための器具・体重管理のための器具についても、同じく0〜9歳では「推奨しない」とした。こちらはエビデンスの質の欄が「エビデンスなし」である。根拠となる研究がないまま強い推奨を出した理由として、ガイドライン作成グループ(GDG)は、確信度が低くても強い推奨が正当化される例外的な状況を認めるGRADEの考え方を挙げた。10歳未満という年齢での肥満外科手術は重大な害をもたらしうる、という判断である。

10歳からは「6か月やって効かなかった後」に限る

思春期版は、10〜19歳について薬物療法を条件付きで認めた。ただし対象は、肥満に加えて肥満に関連する合併症がある人で、しかも構造化され管理された多面的な生活習慣修正のプログラムで体重が減らず、体重増加も抑えられず、合併症も改善しなかった場合に限られる。

ここでいう合併症には、2型糖尿病、高インスリン血症、インスリン抵抗性、管理できていない高血圧、脂質代謝や脂肪の蓄積の異常、メンタルヘルスの問題が挙げられている。前提となるプログラムは、個別化された行動・食事・運動の介入を少なくとも6か月続け、合併症を定期的に監視するものでなければならない。処方は専門的な多職種の場で、身体の発達と心理的な安定を評価し、有害事象を注意深く監視し、長期の追跡を組み込んだうえで行うよう求めている。推奨の強さは「条件付き」、エビデンスの質は「低い」とされ、追跡期間が短く有害事象に重要な不確実性が残ることが理由に挙げられた。

肥満外科手術については推奨を2本に分けた。1本目は条件付きの推奨で、対象を重症の肥満に絞っている。具体的には、年齢別BMIがWHO成長基準の中央値より4標準偏差を超えて高い場合、または3標準偏差を超えて高く、かつ肥満に関連する合併症がある場合である。これも6か月以上の生活習慣プログラムが失敗した後でなければならない。2本目は強い推奨で、手術は専門的な多職種の場で行い、思春期の発達が完了しているか、最終的な成人身長に達しているか、心理的に安定しているか、健康的な食事と運動の習慣を守れているかを綿密に評価するよう求めた。体重を減らす器具・体重管理の器具については、思春期でもエビデンスが足りず、GDGは推奨を出せなかったとしている。

食事・運動・行動変容は両方の版で「強い推奨」

薬と手術の扱いが分かれる一方で、生活習慣への介入はどちらの版でも「強い推奨」で並んでいる。小児版は、2歳を超えた子どもに対する構造化された食事介入、年齢や性別・健康状態・本人の関心を考えた構造化された運動計画、行動変容の介入、そして食事と運動と行動の要素を組み合わせた多面的な介入を、いずれも強い推奨とした。デジタル技術を使った介入だけは「条件付き」である。

注目すべきは、これら強い推奨のエビデンスの質がほぼ「非常に低い」と記されている点だ。GDGは食事介入について、便益と害のバランスがおそらく介入を支持するためだと説明している。便益は小さいが、有害事象のリスクも小さい、という理由づけである。同時に、健康的な食事や食事計画の費用が親の負担になりうること、低所得の地域や歴史的に取り残されてきた地域ほど食料不安と健康格差が大きいこと、費用対効果を調べた研究が見つからなかったことも、そのまま書き込まれている。

背景:5〜19歳の過体重・肥満は「4%から18%へ」

WHOのガイドラインは、加盟国が自国の事情に合わせて採用・適応するための指針で、各国の医療制度をそのまま縛るものではない。WHOはこうした指針を分野ごとに専門家のグループを置いてまとめている(例としてコカ葉、国際麻薬条約の規制を維持 WHOが202ページの報告書で根拠を公表 葉1トンからコカイン1.4キロ、伝統的な噛用自体は「重大な危険はない」)。今回の2本も、WHOのガイドライン作成の手引きに沿い、公開の意見募集を経て、外部の専門家の査読とガイドライン審査委員会(GRC)の承認を受けている。

背景にあるのは子どもの肥満の増加である。ガイドラインは1975年以降に世界の肥満率がほぼ3倍になったとし、2021年のWHOデータを引いて、5〜19歳の過体重または肥満の世界の有病率が「4%から18%に上がった」と記している。2024年のプール解析では、5〜14歳で9,310万人、15〜24歳で8,060万人、合わせて約1億6,000万人の子ども・若者が肥満で、2030年には2億5,000万人を超えると見込まれている。

地域差も大きい。2024年の系統的レビューとメタ解析によると、子どもと思春期の世界の肥満の有病率は8.5%で、高いのは北米のおよそ17%、カリブ海地域のおよそ19%、中米のおよそ16%、ポリネシアのおよそ20%。逆に中部アフリカはおよそ2%、東アフリカと西アフリカはおよそ4%、南部アフリカはおよそ6%、西欧・東欧・北欧はおよそ5%にとどまる。

WHOは国際疾病分類の第11版(ICD-11)で肥満を「過剰な脂肪の蓄積によって健康を損ないうる慢性で複合的な疾患」と定義している。肥満を生む環境、心理社会的な要因、遺伝的な変異が重なって起こる多因子性の疾患という位置づけで、今回のガイドラインはその定義を前提に、予防ではなく「すでに肥満のある子どもをどう診るか」を扱っている。