米連邦官報は9月23日、トランプ大統領が9月18日に署名した大統領布告11069号を掲載した。専門職向けの就労ビザ「H-1B」について、米国の外にいる人を対象に、申請1件あたり10万ドル(1ドル150円換算で約1500万円)の支払いがなければ入国を認めないとする2025年9月の措置を、さらに12か月延長する内容だ。期限は2027年9月21日午前0時(米東部夏時間)となる。同じ日に署名された大統領令14431号も官報に載り、審査を担う省庁に対し、雇い主の解雇の有無を調べるよう求めた。
H-1Bは、大学の学位が必要な「専門職」に外国人を3年(更新で最長6年)雇うための米国の就労ビザで、IT技術者や研究者が主な担い手だ。新規の枠は年8万5000件に限られ、応募が多い年は抽選で決まる。米国で働きたい高度人材の主要な入り口として機能してきた制度に、費用と審査の両面から重しを掛けるのが今回の措置である。
10万ドルの対象は「米国の外にいる人」
布告11069号は、2025年9月19日の布告10973号を引き継いだものだ。対象は、H-1Bの専門職として働くために米国へ入国しようとする外国人で、申請に10万ドルの支払いが添えられていない場合、入国を制限する。国土安全保障長官は、申請1件に対応する支払いがない申請の判断を保留しなければならない。
すでに米国内にいて、在留資格の変更や延長で手続きする人は対象外だ。雇い主は申請前に支払い済みであることを示す書類を取得・保管する義務を負い、国務長官はビザ審査の過程で入金を確認したうえでのみ査証を発給する。
例外も置かれている。国土安全保障長官が、特定の個人、ある企業で働く全員、あるいは業界全体について、H-1Bとして雇うことが「国益にかない、米国の安全や福祉を脅かさない」と裁量で判断すれば、この制限は適用されない。布告によれば、2025年9月21日の発効以降、10万ドルの支払いは700件を超える申請で行われた。
大手IT派遣の登録は92%減
延長の根拠として布告が挙げたのは、1年間の数字の変化だ。最大手のIT人材派遣・業務委託会社群によるH-1Bの申請登録は、合計2万4946件から2055件へと92%減った。米国へ労働者を呼び寄せるために使われる領事審査の請求も、2025会計年度から2027会計年度の抽選期にかけて約97%減ったとしている。
申請者の顔ぶれも変わった。米国の修士以上の学位を持つ人が登録全体に占める割合は、2026会計年度の45.1%から2027会計年度は66.1%へ上がった。賃金水準が上から2つの区分に当たる求人が選定件数の約46.3%を占め、最も低い賃金区分は17.8%にとどまった。この背景には、米国土安全保障省が2025年12月29日に出した最終規則があり、より高い技能と賃金の申請が抽選で選ばれやすくなる「加重選定」が2027会計年度から導入された。
布告はそのうえで、延長しなければ「進展が止まり、制度の乱用が再開する可能性が高い」と述べた。根拠として、米国の新卒者の失業率が2025年9月の5.8%から2026年6月に5.7%とわずかに下がっただけであること、学歴に見合わない仕事に就く新卒者の割合が41.8%から42%に上がったことを挙げている。
大統領令は「解雇の有無」を審査項目に
同時に署名された大統領令14431号は、費用ではなく審査の中身に踏み込んだ。国務・労働・国土安全保障の3長官が、H-1Bの申請や労働条件申請、査証を扱う際に、商務長官、教育長官、中小企業庁長官と連携し、賃金や雇用、学術、産業に関する情報の提供を受けるよう定めた。
審査で考慮すべき事項として名指しされたのが、雇い主の解雇である。直接・間接を問わず過去1年以内に解雇を行ったか、同じような立場の米国人労働者の雇用に悪影響を与える解雇を今後計画しているかを勘案するよう求めた。労働長官は賃金時間部を通じ、大統領令から30日以内に、過去に提出された労働条件申請のデータの点検に着手しなければならない。
大統領令は理由として、H-1B保持者と米国生まれの労働者の賃金差が9000ドルから、H-1B依存度の高い業種では2万ドルに達すると推計されること、テクノロジー業界が2022年から2026年にかけて80万人から130万人を解雇する一方でH-1Bを大量に申請してきたこと、2026会計年度に業務委託型の上位6社だけで2万5000件を超える登録があったことを挙げた。移民政策をめぐっては、米最高裁、「出生地主義」制限の大統領令を違憲と判断 トランプ政権の移民政策に打撃のように司法が政権の方針を退けた例もある。
10万ドルの徴収は、いまは止まっている
延長が決まった一方で、10万ドルの支払いは現在、実際には徴収されていない。USCIS(米移民帰化局)のアラートによると、マサチューセッツ連邦地裁は2026年6月8日、支払い義務を実施するための各省庁の指針を無効とする命令を出した(State of California v. Mullin、事件番号1:25-cv-13829)。政府はこの命令の効力停止を求めたが、第1巡回区控訴裁は7月24日にこれを退けた。
USCISは、国土安全保障省として控訴裁の判断に「強く反対する」としつつ、次の手を検討する間は命令に従うと説明している。そのうえで「命令が後に解除されれば、なお支払いを徴収する方針だ」としている。つまり今回の延長は、司法判断が覆った場合に備えて根拠となる布告の期限を先に伸ばしておく措置という側面を持つ。
なお、H-1Bの承認件数そのものは減っている。USCISが2026年2月に議会へ提出した報告によると、承認は2024会計年度の39万9402件から2025会計年度は32万8185件へ、7万1217件減った。外国のビザ制度をめぐっては、中国、日本人のビザ料金を14日から値上げ 1回入国は2250円から1万6750円に 日本の7月の引き上げに「対等」措置のように、費用の引き上げが相次いでいる。
日本生まれの取得者は上位10か国に入らない
この制度の影響が最も大きいのはインドだ。USCISが公表した2024会計年度の分析によると、承認された39万9395件のうち、出生国がインドの人は28万3397件で71.0%を占めた。2位の中国は4万6680件で11.7%。以下、フィリピン5248件、カナダ4222件、韓国3983件と続き、上位10か国の10位はナイジェリアの2273件だった。日本は上位10か国に入っておらず、日本生まれの取得者は年間2273件を下回る。
同じ年の承認者の年間報酬の中央値は12万ドルだった。上位2か国だけで8割強を占める偏りが、布告や大統領令が「業務委託型の企業による乱用」を問題視する背景にある。日本から米国の現地法人へ社員を送る場合は企業内転勤者向けのL-1ビザが使われることが多く、H-1Bの利用は限られる。ただし米国の大学を出て現地で就職する日本人や、米国企業が日本で採用した技術者を呼び寄せる場合は、この制度の枠内に入る。
