国連は9月24日、10月1日の「国際高齢者デー」に寄せたグテーレス事務総長のメッセージを公表した。今年のテーマは「長寿の時代 より長い人生に向けて仕組みを問い直す」。事務総長は「人類はかつてないほど長く生きている」としたうえで、「2050年までに60歳以上の人口は12億人から21億人へ増え、世界人口の2割に達する」と述べ、雇用・年金から住宅、医療、生涯学習までの政策を組み替えるよう各国に求めた。国際高齢者デーは1990年の国連総会決議で定められ、今年で36回目になる。記念行事は10月8日、ニューヨークの国連本部で開かれる。

増え方が最も速いのは最高齢層

国連経済社会局(UN DESA)がまとめた概要文書は、世界人口推計(2024年改訂版)をもとに、60歳以上の人口が2025年の約12億2000万人から2050年には21億人を超えると見込む。増加は開発途上地域でとくに大きい。

注目すべきは、増え方が高齢層の中でも「上」に偏っていることだ。同文書は2050年までに80歳以上が2倍を超え、100歳以上は4倍を超えると推計する。高齢者が増えるというより、高齢者の中でも介護や医療の必要度が高い層が急速に厚くなる、という変化である。日本でも100歳以上の高齢者が初めて10万人を超える 10万7677人、前年から7914人増 女性が87.6%という節目を今月迎えており、同じ動きが世界規模で起きることになる。

長生きの度合いには地域差が大きい。2025年時点で60歳に達した人が、その後何年生きられるか(60歳時点の平均余命)は、アフリカの17.4年からオセアニアの24.9年まで7年以上の開きがある。

寿命は延びても健康寿命が追いつかない

概要文書が問題として挙げたのは、寿命の延びに「健康な期間」が追いついていないことだ。WHOの推計によると、2019年の世界の平均寿命は73.1歳、健康上の大きな問題を抱えずに暮らせる期間を示す健康寿命は63.5歳で、その差は9.6年ある。2000年から2019年にかけて平均寿命は6.4年延びたが、健康寿命の延びは5.3年にとどまり、差はむしろ広がった。新型コロナの影響で2021年には平均寿命71.4歳・健康寿命61.9歳まで下がり、いずれも2012年並みの水準に戻っている。

しかも、この課題は豊かな国ほど解決しているわけではない。概要文書は、低所得地域が健康寿命を大きく伸ばした一方、高所得国では2010年以降に改善が鈍ったと指摘し、「富だけでは健康な長寿は保証されない」と結論づけた。テーマに掲げられた「仕組みを問い直す」とは、寿命そのものではなく、健康でいられる期間をどう延ばすかに政策の目標を移す、という意味合いである。

世界の38億人は社会保障の外側にいる

長寿は家計と財政にも及ぶ。ILOの世界社会保障報告(2024-26年版)によると、世界人口の半数超が何らかの社会保障で守られるようになった一方、38億人はなお制度の外側にいる。概要文書は同報告を引き、世界の働き手の57.8%が非公式な就労だとも記した。年金も医療保険も届かないまま高齢期に入る人が、途上地域を中心に大量に生まれる構図である。

財政への影響として同文書が引いたのは、制度を変えなければ政府の財政赤字が国内総生産(GDP)比で2025年の2.4%から2060年には9.1%程度まで膨らむとの試算だ。ただし文書は、長寿を負担としてだけ捉える見方を退けている。健康と就労、社会参加が伴えば「長寿の配当」が生まれるとして、年金改革を医療戦略と切り離して進める縦割りをやめ、省庁横断で設計するよう求めた。国際的な土台となるのは、2002年に採択された高齢化に関するマドリード国際行動計画(MIPAA)である。

日本は世界が2060年に届く水準を2020年に通過

世界全体で見れば、高齢化はまだ入り口にある。内閣府の令和8年版高齢社会白書によると、総人口に占める65歳以上の割合(高齢化率)は、1950年の5.1%から2020年に9.3%へ上がり、2060年には18.5%になると見込まれる。先進地域に限っても2020年は19.1%で、2060年の推計が28.6%だ。

日本はその28.6%に2020年の時点で到達している。白書は、日本の高齢化率が1990年までは欧米より低い水準だったものの、2005年に最も高くなり、その後も高水準が続くと見込まれると記す。高齢化率29.4%で過去最高 令和8年版高齢社会白書、2070年には「2.6人に1人」が65歳以上という直近の数字は、他の先進国が40年かけて向かう地点を日本が先に歩いていることを示している。国連が今回掲げた「健康でいられる期間をどう延ばすか」「働き方と社会保障をどう組み替えるか」という問いは、日本にとっては将来の課題ではなく、すでに目の前にある宿題である。