農林水産省は10月13日、令和8年度(第65回)農林水産祭の天皇杯、内閣総理大臣賞、日本農林漁業振興会会長賞の受賞者を発表した。農林水産祭中央審査委員会(会長・伊藤房雄氏)が、過去1年間に農林水産大臣賞を受けた全国の農林水産業者442点の中から選んだ。天皇杯は、新潟市の農事組合法人濁川生産組合(代表・田村雄太郎氏)など7部門の7者が受ける。表彰は勤労感謝の日の11月23日、東京・明治神宮会館で開く農林水産祭式典で行う。
大臣賞442点から3賞を選ぶ仕組み
農林水産祭は、国民の農林水産業と食への認識を深め、農林水産業者の技術改善と経営発展の意欲を高める目的で、農林水産省と公益財団法人日本農林漁業振興会が共催している。始まったのは昭和37年で、今年が65回目になる。
選考は2段階になっている。まず、品評会や経営コンクールなど農林水産祭に参加する全国の表彰行事で、農林水産大臣賞が出る。今回の対象は令和7年7月から令和8年6月までに開かれた271件の行事で、大臣賞は442点に上った。その中から中央審査委員会が、天皇杯、内閣総理大臣賞、日本農林漁業振興会会長賞の3賞を選ぶ。
3賞はそれぞれ、農産・蚕糸、園芸、畜産、林産、水産、多角化経営、むらづくりの7部門に1点ずつ贈られる。これとは別に、女性の活躍が著しい2点に内閣総理大臣賞と日本農林漁業振興会会長賞が出る。出品の対象も幅があり、「経営」全体を評価するもの、乾しいたけや洋蘭のような「産物」そのもの、牧草地や製材のような「技術・ほ場」、集落の取り組みを見る「むらづくり活動」がある。
今年の天皇杯7者は次の通り。
| 部門 | 受賞者 | 所在地 | 出品財 |
|---|---|---|---|
| 農産・蚕糸 | 農事組合法人濁川生産組合 | 新潟県新潟市 | 経営(水稲、トマト、チンゲン菜) |
| 園芸 | 株式会社モテギ洋蘭園 | 埼玉県本庄市 | 産物(洋蘭) |
| 畜産 | 有限会社グリーンファーム久住 | 大分県竹田市 | 経営(採卵鶏) |
| 林産 | 石原敬氏・石原裕氏(夫婦) | 熊本県菊池市 | 産物(乾しいたけ) |
| 水産 | 有限会社田村水産 | 鹿児島県垂水市 | 経営(漁業経営改善) |
| 多角化経営 | 株式会社農園たや | 福井県福井市 | 経営(ベビーリーフほか) |
| むらづくり | 六ノ里自治会 | 岐阜県郡上市 | むらづくり活動 |
農産・園芸・畜産は「規模と働き手」
農産・蚕糸部門の濁川生産組合は、阿賀野川の河口近くにある新潟市北区濁川地区の法人だ。平成元年に約15ヘクタールで設立された。現代表が就任した平成28年に52.1ヘクタールだった水稲の作付面積は、令和6年に84.3ヘクタールまで広がり、経営面積は92.6ヘクタールに達した。高齢の農家や離農者から農地を引き受け続け、地区の水田約170ヘクタールの半分以上を担っている。
農水省の受賞理由は、営農支援システムで圃場ごとの収量や作業の進み具合、人員配置を結び付けて管理している点を挙げる。水稲10アール当たりの労働時間は8.8時間で、50ヘクタール以上を経営する全国平均を下回る。夏のフレックスタイム制や育児・介護休暇制度を整え、20歳代の職員の定着率も高いという。10年以内に地区の水田の大部分にあたる120〜130ヘクタールの経営を見据えている。新潟県の主食用米の作付けの動きは「主食用米の作付け136万ヘクタール、前年並み 飼料用米は4年前の2割以下に 農水省」で伝えている。
園芸部門の株式会社モテギ洋蘭園(埼玉県本庄市、代表・茂木敏彦氏)は、昭和50年に50坪の温室で切り花経営を始め、いまは鉢物のファレノプシス(コチョウラン)を中心に栽培面積を3,200坪まで広げた。台湾に育苗施設を設けて苗を輸入し、品種改良でオリジナル品種を多数生み出している。自ら開発と普及を進めたクラウド販売管理システム「花くらうど」でデータに基づく販売戦略を立て、全国40社以上の卸売市場と取引する。
畜産部門の有限会社グリーンファーム久住(大分県竹田市、代表・荒牧大貴氏)は、60年以上続く採卵鶏の平飼いと、土着菌を使った「平飼堆積発酵床」が特徴だ。令和5年に代表が交代したあと、県内で初めて「畜舎特例法」を使って平飼いの育成舎2棟と成鶏舎7棟を建てた。既存の鶏舎と合わせて約9万羽を育て、18週齢までの育成率は98.5%と高い。従業員40人の大半を市内から雇い、全体の67.5%が女性で、飼育管理リーダーや卵の選別包装施設の長も女性が務める。10年後に15万羽への拡大と卵の輸出を計画している。
林産・水産は「データと輸出」
林産部門は、熊本県菊池市で原木しいたけを育てる石原敬氏・石原裕氏の夫婦が受ける。自己所有の1ヘクタールと借りた3ヘクタールの計4ヘクタールのスギ人工林で、クヌギの原木を使って栽培し、令和7年度は乾しいたけ2.5トン、生しいたけ1トンを生産した。
原木しいたけは天候に大きく左右される。夫婦は令和6年2月から、環境センサーで温度、湿度、雨量、風速、日照を常時集めて分析し、散水の管理やしいたけの発生予測に生かしている。農水省は「経験や勘だけに頼らない」栽培管理が品質と経営の安定につながったと評価し、中小規模の生産者にも応用できるとした。家族経営ながら家族報酬制度や休日を設け、地域の生産者とクヌギ林を共同で整備している点も挙げている。
水産部門の有限会社田村水産(鹿児島県垂水市、代表・田村洋平氏)は、錦江湾に面した牛根地区でブリを養殖する。自社で採ったモジャコ(ブリの稚魚)を成魚まで育て、海外向けの大型ブリに絞って生産し、米国西海岸を中心に流通している。ブリ養殖では冬の需要期に向けて餌を増やすのが一般的だが、同社は性成熟が進む春に餌を抑える独自の給餌スケジュールを確立し、急速に太らせる周期を作った。従業員13人の平均年齢は35歳と若い。海の温暖化を見据えた養殖方法の見直しや、東アジアへの活魚の輸出ルート開拓にも乗り出している。
多角化経営とむらづくり、女性の活躍
多角化経営部門の株式会社農園たや(福井市、代表・田谷徹氏)は、ベビーリーフを中心に野菜を作る。田谷氏は平成19年に就農し、青年海外協力隊やインドネシア留学の経験から、平成20年にインドネシア人技能実習生の受け入れを始めた。自社開発のアプリで作業時間や出荷量、労務の情報を集め、品目ごとの収益性を分析して生産計画を組み直している。福井県やインドネシア農業省と連携し、県内16経営体に51人の人材をあっせんしたほか、全国210人のインドネシア人材の帰国後のビジネスプラン作りも支援した。
むらづくり部門の六ノ里自治会(岐阜県郡上市、代表・集山政治氏)は、長良川の源流域にある82戸の山間の集落だ。国の重要無形民俗文化財の拝殿踊りが残る。自治会が住民の合意形成を担い、棚田米の生産組合、地域づくり協議会、高齢者宅の雪下ろしを手伝う応援隊などが役割を分けて動く。棚田米は独自の栽培基準と食味管理でブランド化し、イラストを描いた田んぼや農業体験で都市の住民との交流も続けている。
内閣総理大臣賞は、農産・蚕糸部門の合同会社さかもと(鹿児島県志布志市、茶)、園芸部門の株式会社フルトリエ(福岡県久留米市、なし・ぶどう・いちご)、林産部門の佐伯広域森林組合(大分県佐伯市)などが受ける。女性の活躍では、大阪府富田林市の乾裕佳氏に内閣総理大臣賞、フルトリエ代表の中村美紗氏に日本農林漁業振興会会長賞が贈られる。フルトリエは園芸部門の内閣総理大臣賞と合わせて2つの賞を受ける。
フルトリエは100年以上続く梨農家を基盤に、観光農園や直売所、カフェを組み合わせ、年間4万人以上が訪れる。令和4年に法人化し、従業員21人のうち15人が女性だ。託児スペースを無料で設け、LINEで就業時間を変えられる仕組みも取り入れた。法人化以降の離職者は1人にとどまるという。
受賞理由に共通する人手の工夫
今年の天皇杯7者の受賞理由を並べると、生産の規模や品質に加えて、働き手をどう確保し、技術をどう引き継ぐかが繰り返し評価されている。濁川生産組合は休暇制度と若手への権限移譲で20歳代を定着させ、グリーンファーム久住は女性を現場の責任者に置き、田村水産は代表自ら若年層の採用に当たる。農園たやは外国人材の受け入れと送り出しの両方に関わる。
データの活用も目立つ。米の営農支援システム、洋蘭の販売管理システム、しいたけの環境センサー、野菜の自社アプリと、4者が数値に基づく管理を受賞理由に挙げられた。石原夫妻は技術を独占せず、林業研究グループや若手生産者と共有し、小学校で原木に種菌を打つ駒打ち体験も開いている。
受賞者は11月23日の式典で表彰される。農林水産祭の各部門の受賞者一覧と、天皇杯・内閣総理大臣賞・日本農林漁業振興会会長賞の受賞理由の概要は、農林水産省のホームページで公開されている。
