自治体の運営で細っているのは、お金よりも行政を回す人である。総務省によると、2025年度の地方税収は特別法人事業譲与税を含めて50兆141億円と見込まれ、初めて50兆円を超えた。財政再生基準を上回る自治体は北海道夕張市だけだ。それでも、毎年決まって出ていく経費が収入の9割を超え、自由に使えるお金はほとんど増えていない。公立病院の8割は赤字が続く。町村議会は議員の欠員が前年より増え、小さな市町村からは新しい仕組みを「検討する余裕すらない」という声が国に届いている。総務省の地方制度調査会は、こうした市町村の仕事を都道府県が分析し、調整する案の審議を始めた。
税収は過去最高 地方税と譲与税で初の50兆円超、財政再生基準を超えるのは夕張市だけ
まず、お金の面では自治体は倒れていない。総務省が2026年7月にまとめた2025年度の地方税収入決算見込額では、道府県税と市町村税を合わせた地方税は47兆4419億円で、2024年度決算の45兆667億円から5.3%増えた。地方税と同じ性格を持つ特別法人事業譲与税(国が集めて都道府県に配る法人事業税の一部)を足すと50兆141億円になる(地方税収、初の50兆円超え)。伸びを引っ張ったのは個人住民税で、15兆5225億円と前年度決算から12.9%増えた。2026年度の地方財政計画では地方税を47兆8185億円と見込んでおり、税収は高い水準が続く前提になっている。
地方税収の推移(億円)
数値で見る(単位: 億円)
| 項目 | 億円 |
|---|---|
| R6決算 | 450,667 |
| R7見込 | 474,419 |
| R8計画 | 478,185 |
財政が破綻に近い自治体も、ほぼ見当たらない。財政健全化法は、借金の返済負担や赤字の大きさを4つの比率で測り、一定の基準を超えた自治体に再建計画を義務づけている。2025年度決算の速報では、早期健全化基準以上の自治体は実質公債費比率が67.5%の夕張市1団体だけで、同市は財政再生基準も上回る財政再生団体である(夕張市の財政再生計画、4度目の変更)。普通会計の赤字を表す実質赤字比率で赤字額がある自治体は1団体、公営企業などを含めた連結実質赤字比率では2団体だった。いずれも基準には届いていない。
では、税収が増えた分で自治体は新しいことができるようになったのか。答えは次の数字に表れている。
増えても自由にならない 経常収支比率は都道府県93.0%、市町村93.3%
税収が増えても、自治体が自由に使えるお金はほとんど増えていない。それを示すのが経常収支比率である。地方税や普通交付税など毎年決まって入る一般財源のうち、人件費・福祉の扶助費・借金の返済などの決まった支出に何割が消えるかを示す。100%に近いほど、新しい事業や独自の施策に回せる余地が小さい。
総務省の2025年度決算速報によると、都道府県の経常収支比率は前年度の92.2%から93.0%へ上がった。地方税は26兆505億円と前年度から1兆1144億円(4.5%)増えたが、補助費等に充てる一般財源の増加などがそれを上回った。市町村は地方税が22兆6419億円と1兆3088億円(6.1%)増え、比率は93.8%から93.3%へ下がったものの、なお93%台にとどまる(都道府県の経常収支比率、92.2%から93.0%へ悪化)。
支出の側では、福祉と人件費が伸び続けている。市町村の扶助費は18兆4277億円で前年度から5284億円(3.0%)増え、人件費は11兆2525億円で3829億円(3.5%)増えた。2026年版の地方財政白書は、一つ前の2024年度決算について、地方全体の人件費が24兆3676億円と8.5%増えたと記す。給与改定に加え、定年引き上げに伴って退職金が98.5%増えたことが響いた。物件費も、情報システム関連の委託費の増加などで12兆6011億円と5.2%増えた。公務員の給与改定は今年も続いている(給与改定を閣議決定、地方へ通知)。
借金はゆっくり減っている。白書によると、2024年度末の地方債現在高は137兆991億円で、前年度末から1.8%減った(地方自治体が返していく借金は179兆5246億円)。地方税が当初の見込みより増えたことを受け、各自治体が将来の普通交付税の減額に備えて積み立てた結果、積立金の現在高は29兆4802億円と2.1%増えた。家計に例えれば、収入は増えたが、固定費と貯金に回して手元に残る分はほとんど変わっていない。
この「固定費の重さ」が最も表に出ているのが、自治体が経営する病院である。
物価と賃金を料金に乗せられない 公立病院は81.2%が赤字
賃金と物価の上昇は、自治体の中でも料金を自由に決められない事業を直撃している。代表が公立病院だ。白書によると、2024年度の病院事業の経常収支は3952億円の赤字で、過去最大だった2023年度の2099億円を上回った。職員給与費と材料費の増加が、入院患者の増加による診療収入の伸びを上回った。診療報酬は国が決める公定価格で、病院が自分で値上げすることはできない。
総務省の公立病院の経営強化に関する検討会に出された資料によると、2025年度は国庫補助金が808億円、自治体の他会計からの繰入金が594億円増えたことで、経常収支の赤字は3399億円に縮んだ。ただ、本業の医業収支は904億円悪化した。経常赤字の病院は841病院のうち683病院、割合は81.2%で、2024年度の844病院中703病院(83.3%)とほぼ同じ水準が続く(公立病院の81.2%が経常赤字)。
公立病院は、民間病院が立地しにくい地域を支えている。同じ資料では、公立病院の32.2%にあたる271病院が人口3万人未満の市町村にある。病院数では全国の10.6%にすぎないが、へき地医療や救急・小児・周産期など採算の取りにくい医療の多くを担う。赤字を埋めるのは結局、その小さな市町村の一般会計である。
水道や下水道も同じ圧力を受けている。白書によると、2024年度の水道事業の黒字は物価高による委託料の増加などで416億円減って2067億円に、下水道事業は369億円減って1807億円になった。公営企業全体の黒字は4711億円から1300億円に縮んだ。2025年度の決算は地方公営企業の令和7年度決算で追った。
病院や水道では、お金の不足は補助金や繰入金で一時的に埋められる。埋めにくいのは、運営を担う人のほうである。
お金より先に人が足りない 町村議会は欠員222人、無投票当選は242件
自治体を動かす担い手は、議会の段階から細っている。全国町村議会議長会の第71回町村議会実態調査によると、2025年の調査時点で町村議会の議員定数は1万687人、実際の議員は1万465人で、222人が欠員だった。前年の欠員184人から増えた。議員の平均年齢は64.9歳、議員報酬月額の全国平均は22万2740円である(町村議会の欠員222人)。報酬だけで生計を立てるのは難しい水準だ。
選挙で選ばれる前に、選ぶ機会そのものが失われている地域もある。総務省の調べでは、2025年に行われた地方選挙のうち242件が無投票当選だった。無投票当選は町村長選挙で91件、町村議会議員選挙で66件、市区長選挙で61件あった(無投票当選、2025年の地方選挙で242件)。立候補者が定数に届かなければ、住民は投票で代表を選べない。
地域の防災を担う人も減っている。消防庁の2026年度の調査では、消防団員は約71万9千人で、前年から約1万4千人減った(消防団員71万8697人)。消防団は普段は別の仕事を持つ住民が、火災や災害のときに出動する組織である。
議会や消防団と同じことが、役場の中でも起きている。
役場の中も細る 技術職員がいない町、「検討する余裕すらない」
役場の職員の数そのものは減っていない。白書によると、自治体の職員数(普通会計分)は2016年に増加に転じ、2024年4月1日時点で246万9654人と前年から0.4%増えた。それでも現場が回らないのは、仕事の量と専門性が増え、職員が必要な場所に足りていないためである。
地方制度調査会の第10回専門小委員会(2026年10月14日)に出された資料は、市町村の声をこう記録している。人口1万人未満の町村は、介護保険の要介護認定の調査について「人手が足りず」、他の自治体との共同処理やデジタルツールの導入を「検討する余裕がない」。道路の維持管理では、技術職員がいないため一般行政職員が研修を受けて発注の仕様をつくっているが、必要な知識を十分に備えていない市町村があるという。市町村を補うはずの県の側でも技術職員が減っている。
仕事は増え続けている。同じ資料は、少子化対策、移住・定住対策、空き家対策、地域交通の維持などを「人口減少に対処するための事務」として挙げ、インフラの老朽化対策や孤独・孤立対策など行政需要の多様化も指摘する。総務省は自治体の人手不足が深刻化しているとして、AIなどの活用を検討する研究会を開催した(自治体AI研究会、人手不足に対応)。ただ、資料の声が示すように、最も人手の足りない小さな町村ほど、新しい道具を入れる準備にも手が回らない。
国はこの穴を、自治体同士の関係を組み替えることで埋めようとしている。
県が市町村を支える形へ 地方制度調査会が「担い手の最適化」を審議
総務省の地方制度調査会は、都道府県に新しい役割を持たせる案を審議している。議論の着眼点を示した資料では、県が域内の市町村の職員の状況やデジタル化の進み具合をもとに、市町村ごとに事務処理が続けられるかを分析する。そのうえで、広域連携、外部委託、AIの活用などの組み合わせを県内で調整する。名前は「地域における担い手の最適化」で、県と市町村が参加する枠組みを設け、計画を定めることも論点に挙がる(地方制度調査会、国と自治体の役割分担を審議)。
背景には、県と市町村の関係が薄くなったという認識がある。資料は、2度の地方分権改革で県と市町村は対等な関係になった一方、日常的な関わりが減り、県がかつてのような調整役を果たせていないのではないかと問う。
先行例もある。資料によると、静岡県と下田市は県道と市道の日常の維持管理を同じ事業者にまとめて委託し、県と市の業務時間を36%減らした。奈良県は県と複数の市町村の橋の点検をまとめて発注し、市町村の職員が県に派遣されて県職員の助けを借りながら補修設計に当たる。一方で、こうした枠組みの有無や形は都道府県ごとに異なるとも記している。
結論 自治体はお金では倒れない。細っているのは行政を回す人だ
地方の財政は、税収が初めて50兆円を超え、破綻の手前にあるのは夕張市だけという状態にある。ただ、経常収支比率は93%台で、税収の伸びは人件費や福祉、物価高に吸い込まれる。料金を自由に決められない公立病院や水道は、その圧力を正面から受けている。
そして、お金で埋められない不足が広がっている。町村議会の欠員は1年で184人から222人に増え、無投票当選は242件に上った。消防団員は1年で約1万4千人減った。小さな町村では、技術職員がいないまま仕事が増え、効率化の方法を検討する人手もない。
国の議論も、この変化を前提に動き始めている。地方制度調査会が審議する県による分析と調整は、市町村が自分の力だけで全ての仕事をこなす前提を改める試みである。地方自治の課題は、財源をどう配るかから、限られた人で誰が何を担うかへ移っている。
