宇宙航空研究開発機構(JAXA)は10月16日、文部科学省の科学技術・学術審議会の宇宙開発利用部会で、小型ロケット「イプシロンS」の開発状況を報告した。2024年11月に地上燃焼試験で爆発した第2段モータ「E-21」の原因調査では、小型のモータを使った燃焼試験で、断熱材の一部を削った供試体が異常時と同じ燃焼圧力の上がり方を示した。JAXAは、断熱材の一種「ブーツフラップ」に穴が開いたこと(破孔)が要因である可能性が高いとの見方を示した。
一方、E-21に代えて第2段に使うモータ「M-35a」の地上燃焼試験と、衛星を覆うフェアリングの分離試験はいずれも良好だった。JAXAは、2026年度の実証機打ち上げに向けた開発と射場での作業を計画通り進めているとしている。報告は、JAXA宇宙輸送技術部門の岡田匡史理事と、イプシロンプロジェクトチームの井元隆行プロジェクトマネージャの名前で示された。
2度の燃焼異常と、続く原因調査
イプシロンSは、JAXAが開発する固体燃料の小型ロケットで、国の基幹ロケットに位置づけられる。第2段のE-21は、当初想定していた強化型イプシロンの第2段モータ「M-35」から、打ち上げ能力の要求を満たすために推進薬の量を増やして設計を改めたものだ。
E-21は2度の燃焼異常を起こしている。2月の部会資料によると、1度目は2023年7月の地上燃焼試験で起きた。その対策の妥当性も確かめる目的で、2024年11月26日に種子島宇宙センターの竹崎地上燃焼試験場で再試験を行ったが、燃焼異常が起きて第2段モータが爆発した。JAXAは同日、原因調査チームを置いた。
再試験のデータでは、異常は3段階で進んでいた。点火後約17秒から燃焼圧力が予測値より高い側にずれ始めて徐々に広がり、約48.9秒で圧力が下がってガスが漏れ、約49.3秒で圧力が急激に下がって爆発に至った。JAXAは海中での捜索を含めて部品を回収し、製造・検査データも調べた結果、爆発に至るシナリオを1つに特定し、その発生要因を3つに絞り込んでいた。
その後の検証は、実物より小さいモータに、疑わしい要因を模した「欠陥」をわざと仕込んで燃やす「サブサイズモータ燃焼試験」で進めている。2月の部会では、第1シリーズとして、欠陥を入れないE-21とM-35の模擬に加え、ブーツフラップと推進薬の間のすき間を大きくした供試体の結果を報告していた。このすき間は、燃焼圧力に異常をもたらさなかった。
断熱材の一部を削った試験で異常を再現
今回報告したのは第2シリーズの3回だ。リリーフブーツ(モータのケースと推進薬の間に設けたすき間)を狭くした供試体は、欠陥なしの基準とほぼ同じ圧力の推移になった。ブーツフラップの一部を削ったうえで強制的に着火させた供試体は、圧力が高い領域はあったものの、ずれが広がることはなかった。
ブーツフラップの口元側の上半分を削った供試体で、異常時と同じ現象が出た。燃焼開始から約6秒後に、燃焼圧力が基準より高い側へずれ始め、ずれが徐々に広がった。ほぼ同時に、リリーフブーツの内側で温度が上がった。試験後の点検では、ケース側の断熱材の奥側で焼け方が大きかった。
| 試験の供試体 | 結果 |
|---|---|
| E-21模擬(欠陥なし) | 基準となるデータを取得 |
| M-35模擬(欠陥なし) | 基準との比較データを取得 |
| ブーツフラップと推進薬の間のすき間を大きく | 燃焼圧力に異常なし |
| リリーフブーツのすき間を小さく | 基準と同様の圧力推移 |
| ブーツフラップの一部を削除+強制着火 | 圧力が高い領域はあるが、ずれは拡大せず |
| ブーツフラップの一部を削除 | 圧力が高い側へずれ、徐々に拡大 |
JAXAはこれらを総合し、圧力がずれ始めた時点でブーツフラップの奥側に穴が開いたと推定した。そのうえで、この現象がE-21の地上燃焼試験でも起きたと推定している。
推定の筋道は2段階だ。まず熱や燃焼ガスの流れの影響でブーツフラップの口元側が焼け、次に何らかの影響で奥側に穴が開く。資料は、口元側が焼ける要因と、奥側に穴が開く要因の両方をさらに突き止める必要があるとしている。後者は資料でも「何らかの影響」と書かれており、まだ特定できていない。
原因の特定へ、実機大の燃焼試験も検討
JAXAは続く第3シリーズとして、さらに3回の試験を行う計画を示した。1つは、口元側を削った供試体を早めに燃焼終了させ、ブーツフラップの焼け具合を途中の段階で確かめるもので、主に奥側の破孔の要因を調べる。2つ目は推進薬を長くして燃焼ガスの流れの影響を強め、口元側の焼損の要因を調べる。3つ目は、リリーフブーツのすき間を実機と同じ大きさまで広げて影響をみる。
原因特定の最終確認として、実物大のモータによる燃焼試験も検討している。燃焼を途中で止めるための擬似推進薬(擬薬)を作れるかの確認と、燃焼後に内部の状態を保存するための事前の確認試験を進めている段階だ。2024年11月の再試験ではモータそのものが爆発し、部品は海中の捜索も含めて回収するしかなかった。第3シリーズの1つ目と同じく、燃焼を途中で止めて内部を残すことで、ブーツフラップの焼け方を確かめる狙いがある。
小型モータでの試験は、実機の寸法を縮めて置き換えている。2月の資料によると、E-21の再試験モータでブーツフラップと推進薬の間のすき間は最大で幅29ミリあり、小型モータに換算すると約5.0ミリにあたる。これに対し、第3シリーズではリリーフブーツのすき間については縮めずに実機大の寸法を与え、その影響を確かめることになる。
対策づくりも並行して進める。資料は、推進薬の形状、ブーツフラップの板の厚さ、リリーフブーツのすき間などを変える検討を行い、今後特定する原因をもとに対策を確定するとしている。つまり、E-21を使う形のイプシロンSの対策は、まだ決まっていない。
代替モータ「M-35a」で2026年度の打ち上げへ
原因調査に時間がかかる見込みとなったことから、JAXAは2月の部会で開発計画を見直していた。運用の空白が長引けば、打ち上げ手段の自立性も、顧客の信頼も保てないとの判断だった。2020年6月にNECと打ち上げ受託契約を結んだベトナム向け地球観測衛星「LOTUSat-1」などに、国内ロケットで打ち上げ機会を提供できない状況も生じているという。
見直しの柱は、第2段に強化型イプシロンで使っていたM-35を充てることだ。推進薬や断熱材の原材料が手に入らなくなったことへの対応などを反映した版を「M-35a」と呼び、これを使う機体を「イプシロンSロケットBlock1」と名付けた。E-21より推進薬が少なく、打ち上げ能力は当初の目標より下がる。2月の資料はモータの性能に影響はないとしている。
| 項目 | E-21(実機仕様) | M-35a(実機仕様) |
|---|---|---|
| 推進薬量 | 約18トン | 約15トン |
| 真空中推力 | 約610キロニュートン | 約470キロニュートン |
| 燃焼時間 | 約120秒 | 約130秒 |
| 直径・全長 | 2.5メートル・4.3メートル | 2.5メートル・約4.3メートル |
M-35aの地上燃焼試験は7月23日に竹崎の試験場で行った。燃焼圧力は強化型のM-35と同等で、試験後の点検でも断熱材の焼け方はM-35と同等だった。計測点はE-21の調査を踏まえて温度とひずみの計測を加え、E-21の再試験の約240点を上回る約250点とした。9月11日には実物大の供試体でフェアリングの分離試験も行い、分離・放出の性能が良好であることを確かめた。
実証機は工場での試験を終え、各段のモータを内之浦の射場へ運び込んで組み立てを進めている。資料の工程では、第1〜3段を順に結合して全段を点検し、フェアリングの結合などを経て打ち上げに至る。その前に、打ち上げ当日と同じ手順を確かめる「Y-0リハーサル」を行う。リハーサルではフライト用の第2段モータが製造中のため相当品を使い、終了後にフライト用へ組み替える。
実証機に載せるのは性能確認用のペイロード
実証機には実用衛星を載せない。新しく開発したロケットは地上試験だけでは技術的なリスクを取り切れないことを前提に、まず飛行で性能を確かめる方針で、イプシロン6号機とH3ロケット試験機1号機の打ち上げ失敗を受けてまとめた報告書で定めたものだ。
載せるのは質量約400キロ、直径約2メートルのペイロードで、高度約500キロの太陽同期軌道に投入する。打ち上げ能力や軌道投入の精度など、Block1の性能を確かめるのが主な目的だ。姿勢制御や電源、推進薬は積まず、表面に衛星レーザー測距(SLR)用の反射器「Mt.FUJI」を20基取り付ける。地上局から照射したレーザーの反射を観測し、軌道や姿勢を高い精度で割り出す技術の実証にも使う。軌道上での運用期間は、太陽活動の状況により数年としている。
国内では民間ロケットの開発も進み、文科省、民間ロケット支援でインターステラに39.3億円を追加配分 4社から絞り込んだ基金事業のように国の資金も入っている。小型衛星の打ち上げ需要に対し、基幹ロケットとしてのイプシロンSが運用を再開できるかは、Block1の実証機の結果にかかる。E-21の原因究明は、その先の段階的な開発の前提となる。2月の資料は、Block1以降の計画について、E-21の原因調査の状況を踏まえて段階的に開発を進める方向で検討を続けるとしている。
