情報処理推進機構(IPA)は9月30日、2027年度から始める予定の新しい試験制度について、情報セキュリティマネジメント試験と基本情報技術者試験のシラバス案(Ver.0.1)を公開した。シラバスは、試験で問う知識と技能の幅と深さを体系的に整理した資料である。あわせて、新設される上位試験と情報処理安全確保支援士試験の共通知識部分のシラバス案も掲載された。1969年に始まった国家試験の区分と出題範囲が、2027年度に大きく組み替わる。

知識の出題分類は23から30へ 「マインド・スタンス」は現行に該当なし

経済産業省とIPAが3月31日に公表した見直し案によると、知識を問う「科目A」の出題範囲は、「ビジネス」「テクノロジ」「セキュリティ・倫理」の3分野、7大分類、30中分類に整理される。中分類の数は現行試験の23から30へ増える。

同時に公表された新旧対応表を見ると、中分類が増えるのは分類の作り直しによる。たとえば現行で1つの中分類だった「セキュリティ」は、「情報セキュリティの脅威」「情報セキュリティマネジメント」「情報セキュリティ対策」「セキュリティ実装技術・評価」の4つに分かれる。現行の「基礎理論」は解体され、確率と統計は「データ分析・データ利活用」へ、AIに関する技術は「AI技術」へ、計測・制御に関する理論は「開発・運用の方法論」へと振り分けられる。

対応表で「現行試験において該当する分類なし」と記されたのは、「マインド・スタンス」と「データマネジメント」の2つである。前者は変化を捉えて変革に向けて行動する姿勢を問うもので、ITパスポート試験で知識と併せて出題される。後者はAIを使う前提としてデータを使える状態に整える力を指し、新設されるデータマネジメント試験(仮称)では重点分野に位置づけられる。

情報セキュリティマネジメント試験の範囲に「プロンプトインジェクション」

9月30日に公開された情報セキュリティマネジメント試験のシラバス案では、中分類「情報セキュリティの脅威」の攻撃手法の一覧に、「AIを悪用した攻撃」と「AIシステムに対する攻撃」という2つの項目が置かれた。

前者の用語例は、マルウェア亜種の自動生成、フィッシング文面の巧妙化、ディープフェイク・音声クローンによるなりすまし。後者はプロンプトインジェクション(直接、間接)、ジェイルブレイク、データポイズニングである。AIが攻撃の道具になる側面と、AIそのものが狙われる側面の両方を、部門で情報を扱う人向けの試験で問うことになる。

基本情報技術者試験のシラバス案にも「AIシステムに対する攻撃」としてプロンプトインジェクション、ジェイルブレイク、敵対的サンプル(Adversarial Examples)が挙がり、対策側にはプロンプトインジェクション対策や入力されたプロンプトの検証が並ぶ。生成AIのリスクとしてハルシネーションやスロップスクワッティングも用語例に入った。IPAは9月30日にPDF版を先行公開した「情報セキュリティ白書2026」、IPAがPDF版を先行公開 全208ページ 副題は「サイバー防御新時代:諸刃の進化に備えよ」 印刷版は10月19日発行でも、AIを使う側と狙われる側の双方を論点に挙げている。

なお、シラバス案には「本資料の内容は公表時点の検討状況に基づくものであり、変更する可能性があります」と記されている。

応用情報と高度8区分は3試験に大括り化

区分の体系も変わる。経産省の見直し案では、応用情報技術者試験と、ITストラテジスト、システムアーキテクト、プロジェクトマネージャ、ネットワークスペシャリスト、データベーススペシャリスト、エンベデッドシステムスペシャリスト、ITサービスマネージャ、システム監査技術者の高度8区分を大括り化し、マネジメント、データ・AI、システムの3領域3試験に再編する。この3つをまとめた名称が「プロフェッショナルデジタルスキル試験」(仮称)で、3領域すべての習得が推奨される。

これらの試験と情報処理安全確保支援士試験では、科目A-1で全区分に共通する知識、科目A-2で領域ごとの専門知識を出題する建て付けになる。分業を前提に特定の人材像ごとに区分を置いてきた体系を、幅広い「土台」を身につけた人の目標に組み替える、という狙いが見直し案に書かれている。背景には2025年5月に公表された「Society 5.0時代のデジタル人材育成に関する検討会 報告書」がある。

現行制度は2026年度で終了 全区分がCBT方式へ

新制度の開始時期は2段階に分かれる。2027年度春頃にITパスポート試験、情報セキュリティマネジメント試験、基本情報技術者試験の3区分が移り、2027年度夏頃から秋頃にデータマネジメント試験(仮称)、プロフェッショナルデジタルスキル試験(仮称)の各試験、情報処理安全確保支援士試験が移る。現行の試験制度は2026年度の試験実施をもって終了する予定である。

受験方法も変わる。紙で実施してきた応用情報技術者試験と高度試験は2026年度にコンピュータを使うCBT方式へ移り、全区分がCBTで受けられるようになる。情報処理安全確保支援士試験も2026年度からCBT方式になる。2027年度の新しい試験では、記述式と論述式をCBT方式に適した出題形式へ見直すとしており、論述試験のあり方は2028年度以降に向けて検討を続ける。

試験は「情報処理の促進に関する法律」に基づく国家試験で、2024年度の実績は応募者数74.1万人、合格者数25.1万人(うちITパスポート試験が13.5万人、その他が11.7万人)だった。この制度から生まれる国家資格の一つが情報処理安全確保支援士で、国家資格「情報処理安全確保支援士」の登録者総数が2万6424人に 半年前の2万6453人から29人減り、2023年以降で初めて減少 10月1日付の新規登録は756人のとおり、CBT方式への移行で試験日程がずれた影響が登録者数にも表れている。

IPAは、準備が整った試験区分からシラバス案を順次公開するとしている。9月30日の時点で公開済みなのは、ITパスポート試験、データマネジメント試験(仮称)、情報セキュリティマネジメント試験、基本情報技術者試験、プロフェッショナルデジタルスキル試験(仮称)および情報処理安全確保支援士試験の科目A-1(共通知識)、プロフェッショナルデジタルスキル(マネジメント)試験(仮称)、同(システム)試験(仮称)などである。