よく引用される論文の数を示す「Top10%補正論文数」で、日本は2022〜2024年の年平均3163本、世界シェア1.5%の13位だった。文部科学省科学技術・学術政策研究所(NISTEP)が8月7日に公表した「科学技術指標2026」による。首位の中国は8万4392本で日本の26倍を超え、2位の米国は2万9911本だった。文科省が7月に公表した令和8年版科学技術・イノベーション白書は、日本が「かつては世界第4位に位置していましたが、近年では第13位」になったと書き、政府が2035年までに世界3位を目指す方針を説明している。

Top10%補正論文数とは 「量」ではなく「注目度」を測る

Top10%補正論文数は、被引用数が各年・各分野で上位10%に入る論文を数え、実数が論文数の10分の1になるように補正した指標だ。国際共著論文は参加国で分け合って数える「分数カウント法」を使う。研究の量ではなく、どれだけ他の研究者に読まれ、引用されたかという注目度を測る物差しになる。NISTEPの集計は、クラリベイト社の論文データベース「Web of Science」を基にしており、被引用数は2025年末の値を使っている。

論文の総数で見れば、日本は2022〜2024年平均で6万6214本、世界シェア3.2%の5位につけている。上位は中国(67万2467本)、米国(27万4295本)、インド、ドイツの順だ。ところが注目度の高い論文に絞ると13位まで下がり、さらに上位1%に入る「Top1%補正論文数」では271本・シェア1.3%の12位となる。NISTEPはいずれの順位も前年の「科学技術指標2025」と同じだとしている。総数では上位なのに、よく読まれる論文では順位を落とす。この差が、白書や基本計画が「研究力」の低下を問題にする根拠になっている。

分野ごとの強みにも違いがある。NISTEPによると、Top10%補正論文数のシェアが比較的高い分野は、日本が「物理学」と「臨床医学」、米国が「臨床医学」「基礎生命科学」「物理学」、中国が「材料科学」「工学」「化学」だった。同じ調査からは、科学技術指標2026 自動車・機械などの貿易収支比で中国が初めて日本を上回る 2024年は中国2.60・日本2.45のように、産業面での地位の入れ替わりも明らかになっている。

かつて世界4位 20年で何が変わったか

白書が載せた推移表(第1-2-4図)によると、日本は2001〜2003年の年平均で4529本、世界シェア5.9%の4位だった。当時の1位は米国の3万999本、2位は英国、3位はドイツで、中国は2274本の8位にとどまっていた。2011〜2013年になると日本は4410本・3.5%で7位に下がり、中国が1万4920本で2位に上がった。2021〜2023年は日本が3447本・1.7%で13位、中国が7万3315本で米国を抜いて首位に立っている。

同じ表の中で比べると、日本の本数は2001〜2003年の4529本から2021〜2023年の3447本へ、20年でおよそ4分の1減った。一方、世界全体の注目論文は中国を中心に増えており、日本はシェアでも5.9%から1.7%へと3分の1以下に縮んだ。順位の低下は、日本の本数が減ったことと、他国が大きく増やしたことの両方から来ている。

なお、科学技術指標は毎年、最新の被引用数で集計し直すため、同じ期間でも版によって数字が変わることがある。白書の表にある2021〜2023年の「3447本」と、科学技術指標2026の2022〜2024年の「3163本」は、集計した版と期間が違う数字で、そのまま差を取って増減を論じることはできない。比べるときは同じ表の中で見る必要がある。

伸びる新しい研究テーマで出遅れ NISTEPの新分析

科学技術指標2026は今回、新しい分析を加えた。論文を細かな研究テーマ(トピック)に分け、テーマの「新しさ」と「大きさ」の2軸で4つの型に分類したものだ。全世界の論文数の中央値年である2012年より新しいテーマを「新規」、古いテーマを「継続」とし、論文数の多い・少ないで「大規模」「小規模」に分けている。

日本のTop10%補正論文数は、大規模・継続のテーマ(分子・細胞生物学、原子核物理学、半導体物理学、超伝導科学など)では1203本・シェア2.2%の8位だった。これに対し、大規模・新規のテーマ(コンピュータビジョン・グラフィックス、電力システム・電気自動車、サステイナビリティ科学など)では1517本・1.2%の14位にとどまる。この型では中国が5万4630本・シェア44.2%と突出している。

NISTEPは「近年の順位低下には、大規模・新規トピックで順位が低いことが関係」していると分析した。中国やグローバルサウス諸国が、新しく規模が膨らんでいるテーマに集中的に取り組んでいることが、Top10%補正論文数の増加とも関係している可能性があるともしている。伝統的な分野では一定の地位を保ちながら、伸び盛りの分野に乗り切れていない姿が浮かぶ。

3位に届くには2.4倍 政府の目標は2035年

政府は今年3月27日、第7期科学技術・イノベーション基本計画を閣議決定した。計画は冒頭で「我が国は10年以内にTop10%補正論文数において世界第3位になることを目指す」と明記している。巻末の指標一覧では、この指標の目標を「英独と比肩する地位へ(世界第3位)」、達成時期を2035年とし、現状を「世界第13位(2021-2023年平均)」と記した。

科学技術指標2026で3位は英国の7696本、4位はインドの7500本、5位はドイツの6355本である。日本の3163本は英国の半分に満たず、3位に並ぶには約2.4倍に増やす必要がある。上位の中国と米国だけで世界シェアの55.0%を占めている。

計画は投資額の目標も置いた。2026〜2030年度の5年間で、政府の研究開発投資を合計60兆円、官民を合わせた研究開発投資を180兆円とする。第6期(2021〜2025年度)の政府分は30兆円の目標に対し43.6兆円の実績だった一方、官民分は2021〜2024年度の合計で86.3兆円にとどまり、約120兆円の目標を下回る見込みだと計画は記している。分野別の内訳では、AIの研究開発費は2021年度1744億円から2024年度3235億円へ ただし研究開発費全体に占める割合は1.4%で3年横ばい 1主体あたりはAI以外の10分の1という集計が出ている。研究費の拡充は、「統合イノベーション戦略2026」案まとまる 高市首相「研究費の実質倍増を目指す」 科研費・運営費交付金を拡充へでも2027年度概算要求の柱に据えられている。

論文の公開の費用を巡っては、大学などと学術出版社の交渉が続いている。詳しくは論文公開の年間上限を撤廃 OASE+とエルゼビア、27〜29年の契約に合意 国立研究開発法人も対象で伝えた。

減り続ける研究時間と、伸びない博士人材

金額と並んで計画が問題にしたのが、研究者が研究に使える時間である。大学等の教員の職務に占める研究時間の割合は2017年度の32.9%から2022年度は32.2%へ下がり、代わりに学内事務等の割合が18%から19.7%に増えた。計画は「研究活動に十分な時間が割かれていない実態がある」と書いている。

博士人材の層も薄い。人口100万人当たりの博士号取得者数は2018年度の120人から2022年度で123人とほぼ横ばいだった。産業界による理工系博士号取得者の採用者数は2020年度の1176人から2022年度は1363人に増えたものの、第6期基本計画が2025年度の目標に掲げた2150人には達しない見込みだと計画は記している。

第7期基本計画の期間は2026年度から2030年度までの5年間で、取り組みは今年4月に始まった。計画は指標一覧に添えて、指標は個々の研究者の評価にそのまま使うためのものではないとし、「目標値の達成が自己目的化し、本来目指すべきものが見失われることのないように留意が必要である」とも書いている。順位という一つの数字を追うだけでなく、研究時間や人材の厚みといった土台をどう立て直すかが問われる。