マイナンバーカードは国民の大半に行き渡り、配る段階はほぼ終わった。総務省によると、9月末の保有枚数は1億472万9857枚で、人口の84.5%にあたる。ただ、カードがどれだけ使われているかは、手続きの窓口がカードに切り替わったかどうかで大きく分かれている。国が従来の健康保険証の有効期限を終えた医療の受付では、マイナ保険証の利用率が70.4%まで上がった。一方、登録が任意の公金受取口座は伸びず、登録率はこの1年で下がった。民間の本人確認では導入が急に増えたが、住民に身近な手続きを担う自治体では、基幹システムの移行が期限に間に合わなかった。本稿では、カードの普及、医療と給付金での使われ方の違い、民間での広がり、自治体側の受け皿の順に追い、カードを生かせるかどうかが何で決まるのかを示す。

カードは行き渡った 保有は1億472万枚、人口の84.5%

まず、カードがどこまで普及したかを確かめる。総務省が毎月公表している交付状況によると、9月末時点で現に使える状態にあるカード(交付枚数から死亡や有効期限切れで廃止された分を除いた保有枚数)は1億472万9857枚だった。2026年1月1日時点の住民基本台帳人口1億2376万7642人に対する保有率は84.5%で、6月末の83.4%、7月末の84.0%、8月末の84.3%から少しずつ上がっている。

1年前と比べると、増え方は緩やかになっている。デジタル庁のダッシュボードの元データでは、保有枚数は2025年8月の9881万4560枚から2026年8月の1億452万5120枚へ、1年で約571万枚増えた。人口の8割を超えたので、これから増える余地は小さい。カードを持つ人を増やす段階から、持っている人に使ってもらう段階に移ったといえる。

その「使われ方」を見ると、分野によって大きな差がある。次の節から、医療、給付金、民間サービス、自治体の手続きの順に見ていく。

保険証は従来の証が終わって使われ出した 利用率は44.4%から70.4%に

最も使われるようになったのは、医療機関の受付である。デジタル庁の医療DXダッシュボードによると、カードを健康保険証として使う登録をした人は2026年8月に9573万6614件で、保有枚数に対する登録率は91.6%だった。持っている人のほぼ全員が保険証として使えるようにしている。

実際に受診で使われた割合を示す「マイナ保険証の利用率」は、レセプト(診療報酬の請求書)の件数に対してマイナ保険証で受診した人数の割合で算出している。2025年9月は44.4%で、10月47.3%、11月49.5%と少しずつ上がった後、12月に63.2%へ一気に上がった。その後も上昇が続き、2026年7月は70.4%になった。

12月は、従来の保険証が使えなくなった月にあたる。厚生労働省は、従来の健康保険証の有効期限は2025年12月1日で終了したと説明している。窓口で使えるものが変わった月に、利用が一段上がった。マイナ保険証を持たない人には「資格確認書」が申請なしで無償交付されるため、受診できなくなるわけではない(「旧・健康保険証の「経過措置」7月末で終了 厚労省が周知 8月からは受診にマイナ保険証か資格確認書が必要」)。それでも、従来の証という選択肢が無くなったことで、受付でカードを出す人が増えた形になっている。

医療の他の分野も同じ方向に進んでいる。電子処方箋を導入した医療機関・薬局は2026年9月に9万1620施設で、導入率は43.2%と、1年前の35.7%から上がった。ダッシュボードが何を示しているかは「デジタル庁、医療DXの進み具合を「見える化」 マイナ保険証や電子処方箋など5分野を公開」で紹介した。

マイナ保険証の利用率と公金受取口座の登録率(%)

保険証利用率口座登録率

405060708044.470.464.161.325/925/1226/526/7
利用率はマイナ保険証利用人数÷レセプト件数、登録率は公金受取口座の累計登録数÷カード保有枚数出典: デジタル庁「医療DXに関するダッシュボード」「公金受取口座の登録状況に関するダッシュボード」
数値で見る(単位: %)
項目保険証利用率口座登録率
25/944.464.1
25/1149.563.4
25/1263.263.0
26/367.262.3
26/568.561.7
26/770.461.3

任意の口座登録は伸びない カード571万枚増に口座は34万件増

医療とは逆の動きを示しているのが、給付金などを受け取るための預貯金口座を国に登録する「公金受取口座」である。登録しておけば、給付金の申請で口座番号を書いたり通帳の写しを付けたりする手間が省ける。ただ登録は任意で、従来の手続きも残っている。

デジタル庁のダッシュボードによると、登録口座数は2025年8月の6351万3119件から2026年8月の6385万6088件へ、1年で約34万件しか増えなかった。この間にカードの保有枚数は約571万枚増えている。登録率は「累計登録数÷カード保有枚数」で計算するため、カードだけが増えると率は下がる。実際に2025年8月の64.3%から毎月のように下がり、2026年8月は61.1%になった。新しくカードを持った人の多くが、口座の登録までは進んでいないことになる。

登録数は月によって減ることもある。ダッシュボードの定義では、抹消の申請があった口座や、給付金の振り込みに使えない状態だと分かった口座は数に含めない。月次の登録数は2025年7月から2026年1月まで7か月続けてマイナスだった。

医療と給付金の違いは、制度の作り方の違いでもある。保険証は従来の手段を終え、受付の側が切り替わった。口座は使う場面が給付金の支給時に限られ、登録しなくても困る場面が少ない。数字の詳しい推移は「公金受取口座の登録率、64.3%から61.1%へ 登録は1年で34万件しか増えず、マイナンバーカードは571万枚増 口座のないカードは4066万枚」に詳しい。

民間は本人確認に組み込み始めた 導入事業者は820社から1470社に

国が手続きを切り替えなくても使われ始めた分野もある。民間企業の本人確認である。カードのICチップに入った電子証明書でオンラインの本人確認をする「公的個人認証サービス(JPKI)」を使う民間事業者は、デジタル庁のダッシュボードで2025年8月の820社から2026年8月の1470社に増えた。2026年1月の931社から2月の1223社へと、1か月で約300社増えた時期もある。この数には、国の認定を受けた事業者のほか、それらの事業者やデジタル庁の「デジタル認証アプリ」を使っている事業者を含む。銀行や証券の口座開設、ローン契約などで使われている。1年前からの増え方と業種の内訳は「マイナンバーカードで本人確認、民間1355社に 1年前は813社 増えた542社のうち295社は銀行・農協など デジタル庁」で追った。

背景には、ほかの本人確認の方法が使えなくなっていくことがある。総務省は、犯罪収益移転防止法の施行規則の改正が2027年4月1日に施行されるのに合わせ、本人限定受取郵便での本人確認を、券面の記載を見る方法から、ICチップの情報と照合する方法かスマートフォンに搭載したカードを使う方法に改める郵便約款の変更を認可した(「本人限定受取郵便、2027年4月から本人確認はICチップ照合へ 使えるのはマイナンバーカードや運転免許証などIC入りの写真付き書類 スマホのマイナンバーカードでも受け取れる」)。偽造しやすい確認方法が終わると、ICチップを持つカードの出番が増える。医療と同じく、従来の手段の終わりが利用を押し上げる構図である。

カードの持ち方も変わりつつある。

指標 2025年8月 2026年8月
JPKIの導入事業者数(累計) 820社 1470社
スマートフォンのマイナンバーカード(保有枚数) 232万8003枚 931万9143枚
マイナ免許証の保有者数(累計) 133万4575人 400万4168人
コンビニでの証明書交付(月間) 141万6099通 177万9728通

表: マイナンバーカードの利活用の主な指標 出典: デジタル庁「マイナンバーカードの普及と利活用に関するダッシュボード」データテーブル

スマートフォンに入れたカードは1年で約4倍の931万9143枚になった。デジタル庁は、Android端末(Googleウォレット)に入れて使う「Androidのマイナンバーカード」を10月20日に始める予定だと10月2日に告知した。新たに「属性証明機能」を載せ、店頭などの対面で本人確認や年齢確認、住所の確認ができるようにする。読み取る側は、デジタル庁の「マイナンバーカード対面確認アプリ」を無償で入れれば対応できるという(「「Androidのマイナンバーカード」2026年10月20日に開始予定 デジタル庁が発表 本人確認と年齢確認ができる「属性証明機能」を追加」)。民間では、使う場面を用意する側が増えたことで利用が伸びている。

受け皿の自治体が追いつかない 基幹システムの29.1%が期限に遅れ

カードを生かす場面の多くは、住民に身近な自治体の手続きにある。その自治体側の仕組みづくりは遅れている。国は、住民記録や地方税、福祉など20の事務について、自治体ごとにばらばらだったシステムを国の標準に合わせたものへ移すよう求め、移行の目標を原則2025年度までとしていた。

デジタル庁の資料によると、移行の対象となる3万4366システムのうち、2025年度末までに移行できなかった「特定移行支援システム」は1万13システムで、全体の29.1%にあたる。こうしたシステムを1つでも抱える自治体は、全国1788団体のうち1015団体(56.8%)にのぼる。理由の大半は、システムを請け負う事業者の人手が足りず、開発や移行作業が遅れたことで、この理由に当たるシステムが9590、団体数で987あった。現行事業者が撤退し、代わりのシステムを調達する見込みが立たないものも189システム(102団体)ある。デジタル庁は、2026年度末までに全体の約90%が移行を終える見込みだとしている。

カードを自治体の手続きにつなぐ取り組みも、まだ一部にとどまる。医療費助成の受給者証をカードで代える仕組み(PMH)に参加した自治体は、2025年12月の204から2026年9月には611に増えた。内訳は都道府県41、市区町村570で、全国1788団体の約3分の1にあたる。受診する医療機関や薬局の側では、対応施設が9万4624にのぼる(「医療費助成の受給者証、マイナンバーカードで使える自治体が611に 1年半前の183から3.3倍 令和8年度は1,037自治体まで広がる見込み」)。医療機関が対応していても、住んでいる自治体が参加していなければ、この仕組みは使えない。

国の共通システムの安全性にも課題が出た。デジタル庁は9月11日、職員などが使う「ガバメントソリューションサービス(GSS)」に第三者がVPN機器の脆弱性を突いて侵入し、約24.6万件の個人情報が漏えいした可能性があると公表した(「デジタル庁の政府共通システムに不正アクセス 職員ら24万6000件の個人情報が漏えいの可能性 VPNの欠陥突かれる」)。漏えいの可能性があるのは、GSSを使う機関の職員らの情報約18.9万件と、業務に携わった事業者などの情報約5.7万件である。国と自治体がシステムを共通の基盤に寄せるほど、その基盤を守る重要性も増す。デジタル庁はシステムの調達の見直しも始めている(「政府システム調達、「生成AI前提」へ見直し議論 デジタル庁の有識者検討会が初会合」)。

配る段階は終わり、窓口を切り替える段階に

ここまでの数字は、一つの方向を示している。カードの普及率は84.5%に達し、持っている人を増やす余地は小さい。利用が伸びたのは、保険証のように従来の手段が終わった分野と、民間の本人確認のように使う場面を用意する側が増えた分野だった。登録が任意で、使わなくても困らない公金受取口座は、カードが増えても伸びていない。

このため、これからカードがどれだけ使われるかは、国民の側よりも窓口を持つ側の準備で決まる。その窓口の多くは自治体にあるが、基幹システムの29.1%が移行期限に間に合わず、医療費助成のデジタル化に参加したのは全国の約3分の1にとどまる。国が見込む2026年度末の約9割の移行が実現し、そのうえで各手続きがカードに対応して初めて、住民がカードを使える場面が身近な行政に広がる。マイナンバー行政の焦点は、カードを配ることから、自治体と事業者の窓口を切り替えることに移っている。