産業技術総合研究所(産総研)人間社会拡張研究部門と筑波技術大学、東京大学先端科学技術研究センターの研究チームは9月25日、画面の文字を合成音声で読み上げるソフト「スクリーンリーダー」の利用者が、どこまで速い音声なら内容を理解できるかを数値で測る手法を開発したと発表した。視覚障害のある利用者11人で試したところ、理解の境界は毎分250〜300語のあたりにあった。

毎分500語まで上げて測った

実験では、毎分150語から500語までの5段階の速度で文章を読み上げ、内容が理解できたかどうかを答えてもらった。実測の速さは1秒あたり約6〜27モーラにあたる。モーラは「か」「ん」のような日本語の音の長さの単位で、最も遅い設定と最も速い設定では4倍以上の開きがある。

毎分250〜300語のあたりが理解の境界となり、これを超えると理解度が大きく下がる傾向が確認された。スクリーンリーダーは目の代わりに画面の内容を耳へ届ける道具で、速度を上げれば同じ時間で読める量は増えるが、上げすぎれば取りこぼす。その折り返し点が数字で示された。

全盲の利用者は標準の2.3倍で聞いている

普段使っている読み上げ速度の平均は、全盲の利用者で標準の約2.3倍、弱視の利用者で約1.4倍だった。視覚からの情報が得られない人ほど音声だけで文書やウェブを読む時間が長く、速い音声に慣れていることを示す数字である。裏を返せば、同じ「標準の2倍」という設定が人によって快適にも苦痛にもなる。

「文章が難しい」と「速すぎる」を切り分ける

手法の核は、学力テストの問題の難易度と受験者の能力を同時に推定する「項目反応理論」の応用だ。産総研は、読み上げられた文章が理解できなかったとき、それは文章が難解だったからか、読み上げ速度が速すぎたからかを区別し、文章の難易度と利用者の理解能力を同じ指標で数値化する手法を開発したと説明している。

研究の背景として、チームは「スクリーンリーダーを使用して音声を理解できる速度には個人差がありますが、その要因や音声理解の習熟過程はこれまで明らかになっていませんでした」としている。速度設定は利用者が手探りで決めるほかなく、支援する側にも適切な値を示す根拠がなかった。

手帳所持者は27万3000人

厚生労働省の「令和4年生活のしづらさなどに関する調査」によると、視覚障害で身体障害者手帳を持つ在宅者は27万3000人と推計されている。令和4年12月1日現在の状況を調べ、令和6年5月31日に公表されたもので、身体障害者手帳所持者の推計415万9000人のうちの一部にあたる。

研究は科学技術振興機構(JST)の創発的研究支援事業の支援を受けた。成果は9月27日から10月1日までオーストラリア・シドニーで開かれる音声処理の国際会議「Interspeech 2026」で発表される。チームは今後、より多くの視覚障害者を対象にした大規模な調査で推定の精度を高め、利用者の音声理解能力を短時間で測って一人ひとりに適した読み上げ速度をその場で提示できる評価ツールの開発に取り組む方針だ。速い音声を聞き取る「速聴」の訓練や評価への応用も見込んでいる。