武部新(あらた)衆院議員が10月15日、農林水産相に就任した。前任の簗和生氏が14日に辞任したことを受けた人事で、高市早苗首相は宮中での認証式の後、首相官邸で武部氏に辞令を交付した。武部氏は同日夜、農林水産省で就任記者会見を開き、令和7年産の政府備蓄米21万トンの買い戻しを「着実に実行してまいります」と表明した。今年の主食用米の生産が需要見通しを大きく上回る見込みであることを踏まえ、歴代農水相と同じく「需要に応じた生産」を基本方針とする考えを示した。
簗氏の在任は1か月足らず 首相官邸で辞令交付
首相官邸の「総理の一日」によると、高市首相は15日、宮中での認証式の後に官邸へ戻り、武部新国務大臣に辞令を交付した。官邸の閣僚名簿は農林水産大臣の欄が武部氏に改められ、前任の簗氏の在任期間は「令和8年9月17日~令和8年10月15日」と記されている。第2次高市改造内閣の発足から1か月足らずでの閣僚交代となった。
簗氏の辞任の経緯は簗農水相が辞任、就任1か月足らず 首相「任命責任を重く受け止める」 後任は15日にで伝えている。武部氏は就任会見で、簗氏の発言について「あってはならない発言だと思います」と述べ、「公平性、透明性を持って推進していくことが生産者の皆様方、或いは消費者の皆様方の信頼を回復していくことに繋がっていく」と語った。
就任を引き受けた理由を問われると、「まずは、農林水産行政を停滞させるわけにはいかないという思いであります」と答えた。自身の経歴として、自民党の水産総合調査会長、農林水産副大臣、党農林部会長を務めてきたことを挙げた。簗氏とは「当選同期」で、ともに農林水産行政を進めてきた間柄だとも説明した。父の武部勤氏も農林水産相を務めており、親子2代での就任となる。武部氏は会見で、父が農相だった当時にBSE(牛海綿状脳症)が発生したことに触れ、食の安全・安心と食料の安定供給という柱は「今も変わっていない」と述べた。
16日朝の会見では、簗氏との引き継ぎについて「特段、簗前大臣と、引継ぎ等を含めてお話した経緯はございません」と明らかにした。就任した15日から、飲食料品の消費税引き下げに伴う農林漁業者への対応、米国産の生鮮ばれいしょ(ジャガイモ)の検疫協議、米の需給状況などについて省内から説明を受けているという。当面は参院予算委員会への対応を優先するとした。
首相の指示は8項目 食料安保と輸出5兆円
武部氏によると、高市首相からは就任にあたり8項目の指示を受けた。食料・農業・農村基本法に基づく食料安全保障の確保と、完全閉鎖型の植物工場や陸上養殖施設の展開、米などの安定供給の推進が1つ目。資材価格の高騰対策と、農業構造転換集中対策期間での集中投資が2つ目で、2030年に輸出額5兆円の目標を実現することが3つ目に挙がった。
残る5項目は、関係閣僚と協力した人口急減地域への支援強化、農林水産物や加工食品の輸入停止への対応、「ノングルテン米粉」の生産設備拡充と海外市場の開拓、肥料の国産化など自律性の向上、日本の製品・サービス・インフラの同志国への輸出増加だった。
冒頭発言では、令和11年度までの「農業構造転換集中対策期間」に、農地の大区画化や中山間地域の整備、共同利用施設の再編、スマート農業の導入、輸出産地の育成を集中的に進めると述べた。森林・林業では6月5日に閣議決定された新たな森林・林業基本計画に沿って国産材の利用拡大を進め、水産では令和9年春の新たな水産基本計画の策定に向けた検討を進めるとした。
地元・北海道の漁業について問われると、昨年も記録的な秋サケの不漁だったうえ、今年は「更にその半分になるのではないか」との予測があると説明し、科学的根拠に基づく漁獲可能量(TAC)による資源管理を進める考えを示した。
米は「741万トン」の見通し 需要の最大値を大きく超える
会見で最も多く質問が集まったのは米政策だった。武部氏は、農水省が10月13日に発表した令和8年産水稲の9月25日現在の予想収穫量が741万トンだと説明した。この数字には千葉県をはじめとする災害や長雨の影響が含まれておらず、次回以降の統計に反映されるという。それでも、9月に策定した米の基本指針の需要見通しの最大値711万トンを「大幅に超える生産が見込まれています」と述べた。来年6月末の民間在庫量については、今月末の食糧部会で示す予定だとしたうえで、243万トンを上回る見込みだと説明した。
| 項目 | 数量 | 武部氏の説明 |
|---|---|---|
| 令和8年産の予想収穫量 | 741万トン | 9月25日現在。災害・長雨の影響は未反映 |
| 米の基本指針の需要見通し(最大値) | 711万トン | 9月に策定 |
| 令和9年6月末の民間在庫量 | 243万トンを上回る見込み | 今月末の食糧部会で示す予定 |
| 政府備蓄米の買い戻し | 21万トン | 令和7年産分を「着実に実行」 |
| 2030年の生産目標 | 818万トン | 主食用以外の需要拡大とあわせた増産目標 |
方針について武部氏は、前任の簗氏や鈴木元農相が掲げた「需要に応じた生産」を引き継ぐと明言した。主食用米だけでなく、加工用米、米粉用米、輸出用米、飼料用米について「まだ十分に、そのニーズに対応して生産しているというふうな状況にはない」とし、主食用以外の需要を開拓することが令和9年産に向けて重要だと強調した。加工用米は「足りていません」と述べ、米粉の製粉コストを下げる設備投資や、生産者と実需者の複数年契約を後押しする考えも示した。
米価の水準を問われると、「私の方から、この価格がどうだというふうなことは、差し控えさせていただきたい」と評価を避けた。そのうえで、食料システム法に基づいて生産コストを示す指標を周知し、再投資・再生産ができる価格の形成を進めるとした。簗氏が指示していたコスト指標の運用の検証は引き継ぐが、結果を示す時期は「申し上げることはできない」と述べた。
備蓄米は「適正水準」へ 追加の買い戻しは作況と在庫を見て判断
政府備蓄米について武部氏は、食料安全保障の観点から「適正備蓄水準への回復を進めていく必要があります」と述べ、令和7年産21万トンの買い戻しを滞りなく進めるとした。適正水準として100万トンに言及し、不作が続いた場合や災害時に米の供給が滞らないようにするための政策だと位置づけた。
一方、追加の買い戻しについては慎重な姿勢を示した。在庫が積み上がるなかで「仮に備蓄することによって、市場に米が供給できなくなるとなったら、本末転倒」と述べ、作況や民間在庫、実際の収量といった指標を確認しながら計画的に進めるとした。長雨などの影響を反映した来月以降の統計を見極める必要があるかを問われると、その指標も大事だとしたうえで、次の判断の時期は「申し上げられません」と答えた。
令和9年度から見直す水田政策については、骨格は取りまとめたが、支援単価の水準などは詳細な制度設計の最中で「現時点で申し上げることはできません」とした。収量を上げれば手取りが増え、輸出用米や米粉用米、飼料用米にも意欲がわく単価にしたいと述べた。現場からは現行の水田活用の直接支払交付金(水活)の水準以上を求める声が出ているとして、令和9年度の予算編成過程で決めるとした。
ジャガイモ輸入協議「毅然と」 有明海は開門によらない再生
米国産の生鮮ばれいしょの輸入解禁をめぐる協議について、武部氏は、植物の輸入検疫協議は世界貿易機関(WTO)の衛生植物検疫措置の適用に関する協定(SPS協定)に基づき、科学的・技術的な議論を尽くして進めるものだと説明した。北海道はばれいしょの8割を生産する地域だと述べたうえで、地元ではシストセンチュウが発生しており、生産者が非常に敏感になっていると語った。病害虫の侵入リスクを払拭できない場合は「当然、輸入することはできない」と明言し、「毅然とした姿勢で協議に臨んでまいりたい」と述べた。
資材価格の高騰については、燃料や飼料の価格が上がった際の補てん金や、日本政策金融公庫の農林漁業セーフティネット資金の金利負担軽減措置を安定的に運用するとした。中東情勢の緊張が続き、燃料をはじめとする生産資材の価格は「予断を許さない状況」との認識を示し、具体的な対応を検討するとした。脱脂粉乳の在庫が積み上がっている問題では、生産者・メーカー・国が協力する在庫対策に加え、国産の脱脂粉乳を使ったプロテイン商品の開発など需要拡大も必要だと述べた。
国営諫早湾干拓事業については、これまでの大臣談話に沿って「開門によらない有明海の再生を目指す考えには変わりはありません」と述べた。令和7年度に創設した有明海再生加速化対策で、各県の漁業団体の取り組みを後押しするとした。歴代農水相が慣例としてきた佐賀・長崎両県の現地視察については、相手の都合も考慮しながら「必要に応じて検討してまいりたい」と答えるにとどめた。
