簗和生農林水産相は10月14日夕、高市早苗首相に辞表を提出し、首相はこれを受理した。首相は同日、首相官邸で記者会見し、辞任の理由について簗氏から「これ以上国会審議に迷惑をかけるわけにはいかず、また、農林水産行政に集中できない状況が続くことを避けるため」と申し出があったと説明した。そのうえで「任命責任を重く受け止めております」と述べた。後任の農水相については「明日お伝えしたい」とし、15日に明らかにする考えを示した。農水省の大臣会見一覧によると、簗氏の就任会見は9月18日で、それから1か月足らずでの交代となる。

首相「看過できず」 法案審議と予算編成を理由に挙げる

官邸が公表した会見録(速報版)によると、首相は冒頭発言で、簗氏の申し出を受け入れた理由を自らの立場からも説明した。「国会審議はもとより、農林水産行政に集中できない状況が続くということは看過できず」と述べ、今後の課題として「消費税・支援金法案」、中東情勢への対応、「責任ある積極財政」を実現するための予算編成を挙げた。「重要な課題に一つ一つ答えを出していく必要があります」とし、こうした事情から辞任を認めたと述べた。

「消費税・支援金法案」は、政府が閣議決定した食料品の消費税減税と、所得に連動した給付制度の導入をあわせた法案を指す。臨時国会で審議が続いており、10月13日には衆院予算委員会の審議も始まっていた。立憲民主党は、減税にともなう農業者や外食産業への支援も含め、国会で具体的な説明を求めるとしていた。

記者から辞表を受けて率直に感じたことを問われると、首相は「実際、私が任命をしました。任命責任は、もとより内閣総理大臣である私にございます」と答えた。会見の終盤で改めて任命責任を問われた際も「任命責任は内閣総理大臣である私にございます」と繰り返した。

就任から1か月たたない交代となった点や、なぜこの時点での辞任になったのかを問われると、「本日の夕方、本人から辞表の提出があったので受け取ったということに尽きます」と述べるにとどめた。後任について既に打診しているかとの質問には「いえ、これからでございます。今調整中ということになります」と答えた。

辞表は「促していない」 前夜に電話、14日夜に説明を聞く予定だった

会見では、辞任が首相の側から促したものだったかどうかにも質問が集まった。首相は、辞表は簗氏の側から出されたものだと認め、「今日、夕方会う約束をしておりました」と明かした。前日の13日夜に電話で話をし、14日は衆院予算委員会が夕方まであったため、夜に会って「しっかりともう1度説明を聞きます」と約束していたという。

辞任を持ちかけるやり取りがあったのかと重ねて問われると、「全くなかったですね。本日、辞表が出たので受け取ったということです」と否定した。

辞表の提出がなければ続投させる考えだったのかとの質問には、「新たに報道されたこともございましたので、説明を聞こうと考えておりました」と答えた。そのうえで「特にそれによってどう判断するかということを決めていたわけではございません」と述べ、続投か交代かの判断は会う前の段階では決めていなかったとの立場を示した。

これまでの簗氏の会見や国会での説明が十分だったかを問われると、首相は「私自身も含めてですが、十分にご理解を得られた内容だとは思っておりません」と述べた。そのうえで「今後、一国会議員として責任、説明責任を果たしていただきたい」と求めた。閣僚を退いた後も、一連の問題について簗氏自身が説明を続けるべきだとの考えを示した形だ。

発端は就任前の「予算カット」発言 撤回と謝罪

一連の問題の発端は、簗氏が大臣に就任する前、地元選挙区で行ったとされる発言だ。10月6日の農水相会見の記録では、記者が「衆院選で御自身を支持しなかった首長の自治体について、予算を自分でカットした」という趣旨の発言について質問している。

簗氏はこの会見で「私の不徳によりまして、自民党党内の支持者、党員の方々、こういった党としての話の中で、このような話をしてしまった」と述べ、「この発言を撤回をして、そして皆様にお詫びを申し上げている」と説明した。一方で、道路予算をめぐる国土交通省への働きかけについては「私からの働きかけというものはございません」とし、予算の額は「国土交通省において判断されている」と答えていた。こうした経緯は立憲、簗農水相の辞任要求へ 斎藤国対委員長「公的な予算の私物化」「有権者や地方自治体へのハラスメント」 簗氏は発言を撤回し国交省への働きかけは否定で、国交省側の説明は国交相、簗氏の問い合わせ「配分に影響なし」 記録は作らず 2市町の事業26%・54%減、県事業と合わせ2割増で伝えた。

今後の予算編成を公平に行うと約束できるかとの問いには、「選挙の結果云々ということではなくて、現場の実情に応じて、公平という言葉を使いますけれども、適切に、しっかり対応していく」と答えていた。

首相は14日の会見で、当初の対応を振り返った。問題の発言は「大臣就任前の地元選挙区での発言」で「知る由もございませんでした」と説明。本人が発言を認めた後の記者会見で「誤解を招くような表現」という言い方しかしなかったため、「厳しく叱責をし、この発言が本当であったら不適切だから、きちっと撤回をして謝罪をするように」と求めたと明らかにした。

野党は問責決議案を検討 立憲代表「大臣の座に就いていることは適切ではない」

国会では、野党側が追及を強めていた。立憲民主党の公式サイトによると、同党の水岡俊一代表は10月13日の定例会見で、簗氏の発言は「実際に予算が削減されたかどうかにかかわらず、政治が公正な行政判断をゆがめることを認める内容だ」と指摘した。そのうえで「こうした認識を持つ政治家が予算配分権を持つ大臣の座に就いていることは適切ではない」と述べ、首相が簗氏に職責を全うするよう求めたことにも疑問を示した。

同じ記事によると、参院では9日の野党の国会対策委員長会談で、簗氏に対する問責決議案の提出を検討することで一致していた。水岡氏は、まず参院予算委員会での首相と簗氏の説明を聞いた上で、今後の対応を判断する考えを示していた。参院予算委の日程をめぐる与野党の協議は参院予算委は7時間ずつ2日間・計14時間で与野党合意 日程は与党が16日・19日、立憲は19日・20日を希望 農林水産委は簗農水相の所信聴取に入れずで伝えた。

簗氏自身は13日朝の閣議後会見で、問責決議案の検討について問われ、「国会のお決めになることについては、立場上、申し上げることはできません」と述べたうえで、「引き続き、しっかりと説明を尽くして、真摯に対応してまいりたい」と答えていた。

同じ会見では、農水省内に大臣を支える「お支えチーム」が内々に作られたとする報道を前提に、省内の負担を問う質問も出た。簗氏は「関係者の皆さん含めて、当たっていただいているということには、私も心苦しく思っております」と述べ、国会対応や大臣としての職務の関係で対応に当たっている職員がいると説明した。「関係者に非常に負担をかけているということもありますので、その点については、大変申し訳なく思っております」とも語っていた。その翌日に、簗氏は辞表を提出した。

後任の焦点は備蓄米と来年度予算

後任の農水相は、交代のさなかにある農政の懸案を引き継ぐことになる。簗氏は13日の会見で、政府備蓄米について「先般決定をした令和7年産米21万トン」の買い戻しの引き渡し手続きを進めるとし、備蓄の「適正水準100万トン程度」を回復する必要があると述べていた。9月の長雨で収穫が遅れた生産者がいることにも触れ、「生産現場、こういったものに寄り添う形で」対応する考えを示していた。

来年度予算をめぐっては、同じ会見で記者から、新たな水田政策の要件や単価の検討が始まったことを踏まえて予算水準を問われ、簗氏は「全体の予算については、今後、財政当局とも折衝していくという段階に入ります」と説明していた。首相が辞任受け入れの理由として予算編成を挙げたように、財政当局との折衝は新しい農水相のもとで進むことになる。

国会では参院予算委員会での審議も控える。首相は後任について「今調整中」としており、15日に発表する人事が当面の焦点となる。