デジタル庁は、国の情報システムの調達のあり方を見直す「令和8年度デジタル庁情報システム調達改革検討会」の第1回会合を10月2日にオンラインで開き、その資料を公開した。事務局は2024年度と25年度の改革の取り組みを自己評価した結果を示し、中小・スタートアップ企業の参入や、特定の事業者から抜け出せなくなる「ベンダーロックイン」の解消は「順調」とした一方、新しい改革の論点として「生成AIを前提とした調達とAIガバナンス」など5つの「改革仮説」を提示した。検討会は2027年3月までに計7回開き、2027年度以降の施策につなげる中間報告書をまとめる。

何を話し合う場なのか

政府の情報システムは、各府省が民間の事業者に開発や運用を発注してつくる。その発注、つまり調達のやり方を変えようという取り組みは、デジタル庁が2022年度に開いた有識者検討会の最終報告書が起点になっている。最終報告書は改革の方向として、①機動的・柔軟な調達手続の改善②システム調達における発注者側の能力向上③中小・スタートアップ企業等の参入機会拡大④ベンダーロックインの排除⑤内部統制等による透明性の確保――の5つを示した。その後は2023年度に有識者によるフォローアップ、24年度分はデジタル庁の担当部署による自主的なフォローアップ(2025年7月公表)と、点検を重ねてきた。

今年度の検討会は、この5本の柱に沿った24・25年度の取り組みを専門家に評価してもらうことと、27年度以降の「新たな調達モデル」の方向を探ることの2つが議題だ。出席した委員は庄司座長ら5人。事務局はコンサルティング会社のEYストラテジー・アンド・コンサルティングが担い、並行して国内の民間事業者へのアンケートと個別インタビューを行う。その結果は第3回以降の議論に反映させる。

議論の背景には政府方針の変化がある。7月21日に閣議決定された「デジタル社会の実現に向けた重点計画」は、2026年度からデジタル庁の調達で、AIを使ってシステムを開発する「AI駆動開発」を試験的に取り入れ、AIを活用した独自性のある提案を積極的に評価する方策などを含め、調達制度のあり方を検討すると明記した。資料はあわせて、自民党デジタル社会推進本部が5月にまとめた提言が、詳細な仕様ではなく「解決すべき課題と達成したい成果」を示す発注方式の検討や、分離・分割契約などの慣習にとらわれない抜本的な見直しを求めたことも挙げている。

2年間の取り組み、自己評価は「順調」が中心

事務局が示した自己評価では、25年度の取り組みは①③④が「順調」、②が「概ね順調」、⑤が「道半ば」だった。

手続の面では、システム調達の総合評価落札方式で、技術点の比重を価格点の3倍にできる「1対3」の配点を使う条件を、2025年12月1日付で改めた。従来の5要件は、システムを自前のサーバーに置くオンプレミスが前提だった2013年当時につくられたもので、クラウド利用が一般的になった現状とずれていたとして、3要件に整理した。24年度には政府調達の運用指針を改め、デジタル庁が運営する「デジタルマーケットプレイス(DMP)」を使って電子的に調達する場合、入札公示から入札までの期間を50日以上から25日まで縮められるようにした。

発注する側の能力づくりでは、府省の担当者向けの相談窓口を続けている。25年度の相談件数は107件で、24年度より約29%少なかった。事務局は知見の蓄積とFAQの定着が要因とみている。業界団体を通じたアンケートには97件の回答があった。ただ、能力が担当者個人にとどまらず、人事異動を越えて組織に根づいたかは「検証できていない」とした。⑤の透明性の確保は、25年度に具体的な施策がなく、24年度に整えた仕組みの活用状況の把握や効果検証にも至っていないとして「道半ば」と評価した。

スタートアップの参入、入口は広がったが

事務局の資料に並んだ主な数字は次のとおり。

項目 数値
デジタル庁の調達でのスタートアップ落札割合 2023年度4.4%→24年度6.3%
プロポーザル型の契約金額 2022年度の5.8倍
DMPの登録事業者数 2025年7月17日時点280→26年3月末時点387
一者応札率(2024年度) 36.8%(22年度以降、減少傾向)
調達の相談件数(2025年度) 107件(前年度比約29%減)

デジタル庁はデジタル分野のスタートアップ(DSU)への加点措置や、事業者の企画提案を評価して相手を選ぶプロポーザル型企画競争方式を導入してきた。DMPの登録事業者は26年3月末時点で387者となり、7割超が中小・スタートアップ企業だという。

一方で事務局は、加点措置を設けた調達の件数は増えたものの、実際に応札があった件数は前年度から横ばいにとどまると認めた。資料は、制度上の機会を広げても企業の行動が変わらないなら、障壁は加点の弱さではなく、案件の規模や契約条件、市場の見通しの立てにくさといった「参入構造」にある可能性がある、と分析している。参入の「数」は順調に増えたが、それが価格や品質、技術の選択肢といった調達そのものの価値の向上につながったかは検証できていない、とも書いた。業界団体を通じたアンケートでは、損害賠償額の上限設定を「必要」とする回答が90%にのぼった。デジタル庁は上限の設定に向け、会計法を所管する財務省と協議を続けている。

ベンダーロックインの指標として使ってきた一者応札率は、24年度に36.8%で、前年度をわずかに下回った。もっとも事務局は、一者応札は必ずしも問題ではなく、適切な技術を持つ事業者が選ばれた結果のこともあると指摘する。そのうえで、契約が終わるときにデータの移行や第三者への引き継ぎができなければ特定事業者への固定化は残るとして、データ形式や移行手順、引き継ぎ義務を定めた「Exit要件」の標準化など、契約の「出口」を調達要件に組み込むことを検討課題に挙げた。調達の見積もりを比べやすくする取り組みとしては、デジタル庁が10月に政府・自治体のシステム調達、見積書を「工数・単価・クラウド利用料」に分解する標準 デジタル庁がデータモデルを新設 開発・運用費が上昇しても「総額の比較しかできない」現状を是正という動きもあった。

5つの「改革仮説」、生成AIは全体を貫く論点に

新しい調達モデルについて、事務局は5つの重点論点候補を示した。①要件や技術を契約時点で確定しにくい案件が増えたことを受けた「調達・契約モデルの改革」②生成AIやクラウドで市場が多様化する中での「競争性・技術選択肢の確保」③災害時にも行政サービスを止めないための「デジタル・レジリエンスを確保する調達」④研修や相談窓口に加え、外部専門家や官民の人材交流で発注側の専門性を補う「官民の知見循環」⑤「生成AIを前提とした調達とAIガバナンス」――の5つだ。

このうち生成AIは、ほかの4論点に横断的にかかわるテーマと位置づけた。資料は、AIを調達の対象にする場合だけでなく、事業者が要件定義や設計、開発、運用でAIを使うことが一般的になり、品質保証や知的財産、情報管理、責任の分担、検収の前提が変わったと指摘する。そのうえで、仕様や契約、評価、検収、責任分界を「AI時代」に合わせて調達制度そのものをどう更新するかを問いかけた。

デジタル庁自身のAI利用も紹介した。職員は政府の生成AI基盤「源内」やCopilotを使え、Claude、Geminiなど複数のモデルを使い分けられる。ただ、利用頻度やモデルの選び方は職員任せで個人差があり、情報システムの調達業務では「利用検討中で、実際に利用はされていない」という。調達でAIを使ううえでの課題として、公平性・透明性・説明責任、職員による最終判断と責任の分担、職員の知識・スキルを挙げた。

今後の日程

検討会は第2回を10月19日から23日の間に開き、第1回で委員から指摘された不足情報を追加で分析して、24・25年度の取り組みの評価を取りまとめる。第3回(11月)では民間事業者調査の暫定結果も踏まえて評価を総括し、新しい施策の検討に移る。

その後は改革仮説ごとに議論を進める。第4回(12月)で「調達・契約モデルの改革」と「競争性・技術選択肢の確保」、第5回(2027年1月)で「デジタル・レジリエンス」と「官民の知見循環」、第6回(2月)で「生成AIを前提とした調達とAIガバナンス」を扱い、第7回(3月)で施策の優先順位を決めて中間報告書案を確認する予定だ。第3回以降の進め方は、第1回の議論や民間事業者調査の結果によって変わる可能性があるとしている。27年度は中間報告書をもとに、ワーキンググループで制度や契約、評価手法を具体化し、実証も行う計画になっている。第1回の議事録は後日掲載するとしている。