対話AI「Claude(クロード)」を開発する米新興企業アンソロピック(Anthropic, PBC)は10月26日(米国時間)、新規株式公開(IPO)に向けた登録届出書「フォームS-1」を米証券取引委員会(SEC)に提出したと発表した。普通株式(クラスA)をナスダック・グローバル・セレクト市場に銘柄コード「ANT」で上場する予定で、売り出す株数と想定価格帯は「まだ決まっていない」としている。届出書には、非上場のため外部から確かめられなかった同社の売上高と損益が初めて載った。2026年1〜6月の売上高は162億8600万ドルで、前年同期の11億6300万ドルの約14倍。一方で純損失は807億4800万ドルに上った。

売上高は2年で110倍超、1〜6月だけで前年通期の3倍半

S-1の要約財務データによると、売上高は2023年12月期が4100万ドル、24年12月期が3億8600万ドル、25年12月期が45億8500万ドルだった。23年から25年の2年間で110倍を超えている。26年1〜6月の162億8600万ドルは、25年通期の約3.6倍にあたる。

届出書の冒頭は、売上高が「2023年1〜3月期の商用開始時点の0ドル」から伸びたと記し、Claudeは「歴史上どの技術よりも速く企業に採用された」と主張している。この文の26年7〜9月期の売上高を記す箇所は、提出時点では空欄のままだった。

売上の中身は、利用量に応じて料金を受け取る従量課金が中心だ。同社によると、従量課金による売上は24年の2億8800万ドル(売上高の75%)から、25年は38億ドル(同83%)、26年1〜6月は131億ドル(同80%)に増えた。定額の利用料(サブスクリプション)による売上は、同じ期間に9800万ドル(同25%)、7億8900万ドル(同17%)、32億ドル(同20%)と推移した。

顧客の規模について、届出書は9月30日時点で、直近12か月の支払額が10万ドル以上の顧客が1万1900社超、100万ドル以上が1900社超、1000万ドル以上が約250社あるとしている。既存顧客の利用の拡大・縮小・解約を反映する指標「売上継続率(Net Revenue Retention)」は、9月30日時点で約900%と記載した。定額制の個人向けプラン「Claude Pro」「Max」の加入者は計算から除いている。

区分 2023年 2024年 2025年 25年1〜6月 26年1〜6月
売上高 41 386 4,585 1,163 16,286
計算資源・インフラ費 433 2,522 7,326 2,334 8,945
営業損失 551 2,980 8,060 2,135 693
転換社債などの評価の変動(損失) 1,045 5,434 34,308 10,942 72,388
純損失 1,531 8,309 41,965 12,969 80,748
アンソロピックの売上高と損益(単位は百万ドル。年は12月期)

出典: Anthropic, PBC「Form S-1」要約連結財務データ

営業損失は縮小、純損失は評価の変動で膨らむ

費用のうち最も大きいのは、AIの開発と提供に使う計算資源・インフラの費用で、25年通期は73億2600万ドル、26年1〜6月は89億4500万ドルだった。人件費は26年1〜6月に31億5200万ドル、販売・マーケティングと提携の費用は31億6800万ドルで、いずれも前年同期の5倍を超えた。

本業の赤字を示す営業損失は、25年通期の80億6000万ドルから、26年1〜6月は6億9300万ドルに縮んだ。売上高の伸びが費用の伸びを上回ったためで、1〜6月の売上高は総費用169億7900万ドルにほぼ並んだ。25年の費用には、作家らが書籍の著作権侵害を訴えた集団訴訟(Bartz事件)の和解金15億ドルが含まれる。届出書によると、同社は25年9月に和解に合意し、連邦地裁が26年7月に承認した。

一方、最終的な純損失は営業損失よりはるかに大きい。26年1〜6月の807億4800万ドルのうち723億8800万ドルは、同社が発行してきた転換社債やデリバティブ負債などの評価額の変動によるものだ。届出書は、企業価値が上がったことで未償還の転換社債の評価額が増えたことが主な理由だと説明している。25年通期でも、純損失419億6500万ドルのうち343億800万ドルがこの評価の変動だった。

手元の資金は厚い。6月30日時点の現金・現金同等物と短期投資は1316億5100万ドルだった。

創業者7人が議決権の50.1%、取締役の過半数は信託が選ぶ

アンソロピックは、株主の利益に加えて公益の目的も追うことを定款で義務づけるデラウェア州の「パブリック・ベネフィット・コーポレーション(PBC)」の形をとる。定款に掲げる公益の目的は「人類の長期的な利益のための先進的なAIの責任ある開発と維持」だ。上場にあたり、届出書は自社の資本と統治の構造を「新しい(novel)」と表現し、株式を5種類に分ける仕組みを示した。

中心になるのは二つの特別な株式だ。一つは「長期利益信託(LTBT)」が持つクラスT株式で、LTBTは取締役会の過半数を占める「クラスT取締役」を選任・解任できる。LTBTは23年に設けた組織で、AIの安全性、国家安全保障、公共政策、社会的企業の専門家で、同社と金銭的な利害関係の無い5人の受託者で構成するとしている。

もう一つは、上場の直前に1株だけ発行するクラスF株式だ。ダリオ・アモデイ最高経営責任者(CEO)、ダニエラ・アモデイ社長ら共同創業者7人が構成員となる会社が持ち、クラスT取締役以外の取締役の選任を含む株主総会の議決で、全体の50.1%にあたる議決権を持つ。配当などの経済的な権利は無い。

上場で一般の投資家が買うクラスA株式は1株1議決権。主に事業上の提携先が持つクラスN株式は議決権を持たず、第三者に売却されるとクラスAに転換される。このほか、共同創業者を除く従業員に、限られた事項についてだけ議決権を持つクラスE株式を発行する。LTBTが取締役の過半数を選べるため、同社はナスダックの規則上の「支配株主のいる会社(controlled company)」にあたり、企業統治に関する上場規則の一部の適用を受けないことを選べる。届出書は、この免除を使うのは指名・ガバナンス委員会の構成についてだけの見込みだとしている。

届出書は、使命の達成には「安全性と能力がともに進む」ことが必要だと記している(関連記事:アンソロピックのアモデイCEO、AI開発の「減速」提唱 第三者の評価者を社内に常駐させ従業員並みの権限 アルトマン氏「我々も同じことをする」)。上場後も、経営の主導権は創業者とLTBTに残る設計になっている。

リスクの筆頭はモデル開発と計算資源、株数と価格は未定

届出書の「リスク要因の要約」は、最も先進的なAIモデルを開発し続けられなければ事業に悪影響が出ることを最初に挙げ、続いて十分な計算資源を確保できない場合や、計算資源の基盤となる資材の供給に制約が出る場合のリスクを並べた。AIモデルが「意図しない、目的からずれた、または自律的な」振る舞いをし、利用者が指示していない有害な行動をとる可能性も、リスクとして明記している。

同社は計算資源を複数の提携先から調達しており、届出書はアマゾン・ウェブ・サービス(AWS)の「Trainium」、グーグルの「TPU」、エヌビディアとAMDの画像処理半導体(GPU)を組み合わせて使っていると説明した。9月30日時点とその後に結んだ購入契約・リース契約の総額は「大半が計算資源とインフラに関するもの」としつつ、金額は空欄で、2031年から45年にかけて支払う分が含まれるとだけ記した。

S-1は、SECの審査を経て効力が生じるまで株式を売ることができない「仮の」届出書だ。同社の発表によると、売り出しは目論見書によってのみ行い、仮目論見書の請求先としてゴールドマン・サックスとモルガン・スタンレーを挙げた。届出書の表紙には、引受証券会社としてこの2社とJPモルガンなどの名前が並ぶ。届出書では、同社が新たに発行する株式のほか、既存株主の一部も株式を売り出す予定で、既存株主の売却分の代金は同社に入らないとしている。

上場後の売却にも制限を設ける。取締役、役員と、ほぼすべての株式を持つ株主は、引受証券会社などとの間で株式の売却を一定期間控える契約を結ぶ。共同創業者と、上場前の株式の0.5%超を持つ一部の株主は、27年7〜9月期決算の公表後か目論見書の日付から365日後のいずれか早い時点まで、それ以外の株主は27年1〜3月期決算の公表後か180日後のいずれか早い時点までが対象となる。

売り出す株数、想定価格帯、調達額、26年7〜9月期の売上高は、いずれも今回の届出書では空欄だった。同社は今後、SECとのやり取りを経て届出書を改訂し、これらの数値を書き込むことになる。上場の時期は届出書と発表のいずれにも記載が無い。