総務省消防庁は10月9日、市町村の救助隊が備える器具の基準を改め、ロープを使った救助のための「都市型ロープレスキュー器具一式」を新たに加える省令を公布した。あわせて、器具の必要個数を定める告示と、隊員の動き方を定める「消防救助操法の基準」の告示も改正した。施行は2027年4月1日で、経過措置は設けない。

新しい器具を備えるかどうかは、各消防本部が地域の実情に応じて判断する。8月5日から9月8日まで行った意見公募には16件の意見が寄せられ、消防庁は「意見に対する考え方」を示したうえで、案を修正せずに公布した。

改正されたのは省令1本と告示2本

公布されたのは次の3本だ。

  • 救助隊の編成、装備及び配置の基準を定める省令の一部を改正する省令(令和8年総務省令第116号)
  • 救助活動に関する基準の一部を改正する件(令和8年消防庁告示第16号)
  • 消防救助操法の基準の一部を改正する件(令和8年消防庁告示第17号)

もとになる「救助隊の編成、装備及び配置の基準を定める省令」は1986年(昭和61年)の自治省令で、消防法36条の2に基づく。市町村が置く救助隊について、何人で編成し、どんな器具と車両を備え、いくつ置くかを決めている。

省令によると、消防本部と消防署を置く市町村の救助隊は、人命救助の専門教育を受けた隊員5人以上で編成するよう努め、省令の別表第一に載る救助器具と、それを積める救助工作車などの消防用自動車1台を備える。救助隊の数は、原則としてその市町村の消防署の数とされる。

救助隊にはさらに上位の区分がある。人口10万以上の市町村などに置く「特別救助隊」は別表第一と第二の器具を、特別区(東京23区)の消防や指定都市、中核市などに置く「高度救助隊」は第一から第三までの器具を備える。特別区と指定都市には、これに特殊災害対応自動車などを加えた「特別高度救助隊」も置く。消防本部を持たない市町村では、消防団員で救助隊を編成する。消防団の現状は消防団員は71万8697人、1年で1万3526人減 女性・学生・機能別は増加 報酬が基準に届く市区町村は95.1%で伝えている。

今回の改正は、このうち全ての救助隊の基本装備にあたる別表第一に、新しい器具を書き加えるものだ。

「都市型ロープレスキュー器具」を一般救助用器具に追加

省令の改正内容は大きく2つある。

1つ目は、別表第一の「一般救助用器具」に「都市型ロープレスキュー器具一式」を加えたことだ。別表第一には現在も、はしごや救助マット、担架と並んで「ロープ」「カラビナ」「滑車」が載っている。消防庁の改正概要は、都市型ロープレスキュー器具一式について「従来のロープ、カラビナ及び滑車等と特性が異なる」ため、別の種類の器具として位置づけたと説明している。あわせて、隊員を守る「隊員保護用器具」の「安全帯」の名称を「墜落制止用器具」に改めた。

2つ目は、特別救助隊が備える別表第二から「ロープ登降機」と「救助用降下機」を削ったことだ。これらの機能は、別表第一の「都市型ロープレスキュー器具一式」と「登山器具一式」に含まれるためとしている。

器具の必要個数を定める「救助活動に関する基準」の告示では、都市型ロープレスキュー器具一式の必要個数を「五」とした。

新しい器具には「※」印が付く。省令の別表第一の備考は、※印の器具について「地域の実情に応じて備えるものとする」と定めている。つまり、全ての救助隊に一律で配備を義務づけるものではない。消防庁は意見への回答で、配備の要否や時期は「各消防本部が判断するもの」と繰り返し説明した。

新しい操法には「二系統」の安全確保を規定

隊員の具体的な動き方を定める「消防救助操法の基準」では、第2編「消防救助基本操法」に第16章の2を新しく設け、都市型ロープレスキュー器具によるロープ操法の基準を定めた。

消防庁が意見への回答の中で引用した条文によると、使う器具は「破断荷重20キロニュートン以上」のものとし(第139条第1号)、ロープなどは許容荷重を超えて使わないとした(同条第2号)。隊員が身に着ける墜落制止用器具はフルハーネス型に限るとし(第146条第1号)、器具はそれぞれの仕様と取扱要領に従い、性能を超えた扱いをしないことも定めた。

安全確保の考え方として、隊員を支えるアクセスラインを二系統とし、確保ロープも二系統とする規定(第156条第1号)を置いた。確保の具体的な方法は、第16章の2第6節「都市型ロープレスキュー器具による確保操法」にまとめている。

この改正の出発点は、消防庁が設けた「令和7年度救助技術の高度化等検討会」だ。この年度は「地下閉鎖空間における救助能力の高度化」をテーマにし、委員から「都市型ロープレスキューを使った救助法の一定の基準等の整備」を求める要望が出た。検討会の報告書は「今後も継続的に新たな救助手法や資機材の救助施策・制度への反映が行われることが望ましい」とまとめ、消防庁はこれを踏まえて今回の改正を進めた。

意見16件、移行期間や仕様の明示を求める声

意見公募に寄せられた16件(提出者数)には、現場への導入の進め方に関するものが目立った。

ある個人は、2026年10月ごろの公布から施行まで約半年しかなく、自治体の予算編成や入札、隊員の訓練が間に合わないとして、1〜2年の猶予期間を設けるよう求めた。器具一式に含む構成品目や性能の基準をガイドラインで示すこと、廃止される登降機などの既存装備を引き続き使えるかを通知で明らかにすること、訓練用の動画教材をつくることも提案した。

消防庁は、配備の要否や時期、器具一式に含む具体的な品目は各消防本部が判断するとし、性能については操法の条文で破断荷重などを定めていると答えた。教材の提案は「ご意見として承ります」とした。

別の個人は、これまで特別救助隊の必須装備だった「ロープ登降機」が外れる一方、代わりとなる器具はいずれも※印付きで配備が地域の実情任せになるため、どちらも置かない自治体が出て登降の能力が失われないかと懸念を示した。消防庁は、都市型ロープレスキュー器具一式などを地域の実情によって配備することで「十分な安全性が確保できる」と答えた。

ロープ器具を扱う事業者のペツルジャパン株式会社は、確保ロープを二系統とする規定が、手足で登りながらロープで安全を確保する技術の導入の妨げになりかねないと指摘した。一般社団法人日本産業用ロープアクセス協会は、「一つの構成要素が機能を失っても重大事故に至らない」という考え方を基本原則として示すことや、訓練などの平常時と人命の危険が迫る緊急時とで安全管理の考え方を整理することを求めた。用語の呼び方についての意見に対し、消防庁は、各消防本部の実情や有識者・実務者の検討を踏まえて「都市型ロープレスキュー器具」の名称にしたと説明した。新しい操法をどう取り入れるかも、各消防本部が判断するとしている。

16件のうち、提出意見を踏まえて案を修正したものはなかった。

施行まで約半年、配備と訓練は各本部の判断

改正は2027年4月1日に施行される。経過措置はないが、新しい器具は地域の実情に応じて備えるものとされたため、施行日に全ての救助隊が器具をそろえている必要はない。どの救助隊に、いつ、どんな構成で配備するかは各消防本部に委ねられる。

一方で、意見公募で示されたように、器具を買うには予算と入札の手続きがいり、新しい操法を安全に使うには隊員の訓練が欠かせない。意見では、自治体の予算編成が秋から冬に本格化するため、公布から施行までの約半年で調達を終えるのは難しいとの指摘も出ていた。各消防本部は、配備するかどうかを早い段階で判断することになる。

今回の改正で、都市型ロープレスキューの器具の区分、必要個数、隊員の動き方が国の基準に新たに書き込まれた。消防庁の改正概要は、検討会の報告書を引いて、新たな救助手法や資機材を今後も継続して制度に反映させることが望ましいとしている。