購買支援サイト「価格.com」やレストラン検索・予約サービス「食べログ」を運営するカカクコム(東証プライム)の株式公開買付け(TOB)で、スウェーデンの投資会社EQTの系列ファンドが出資するKamgras(カムグラス)1株式会社は10月14日、1株あたりの買付価格を3,681円から3,682円に引き上げると発表した。同日、金融商品取引法に基づく公開買付届出書の訂正届出書を提出し、それに伴って期間を10月28日まで延長した。期間は5月13日の開始から計115営業日となる。決済の開始日は11月5日に改めた。投資ファンドのベインキャピタルとLINEヤフーの陣営も対抗するTOBを予告しており、カカクコムは10月15日、Kamgras1のTOBへの賛同は維持しつつ、応募するかどうかは株主の判断に委ねるとの意見を変えないと公表した。

1円の引き上げと10営業日の延長

Kamgras1がカカクコムと連名で開示した資料によると、今回の変更は買付価格を1円上げるもので、新株予約権の買付価格(1個1円)は変えていない。TOBの条件を変えて訂正届出書を出すと、法令上、提出日から10営業日を経過する日まで期間を延ばす必要がある。今回の延長はこの規定に沿ったもので、期限はこれまでの10月14日から10月28日に移った。

Kamgras1は引き上げの理由として、9月29日に前回の条件変更をした後も、対抗する陣営による「予告公開買付け」が続き、カカクコム株の市場価格が10月14日時点で買付価格を上回って推移していると説明した。株主を取り巻く「不透明かつ不安定な状況」が続く中で、株価の状況や応募の状況、今後の見通しを総合的に考え、株主により有利な売却機会を示してTOBの成立の確度を高めるためだとしている。

Kamgras1は、カカクコムの主要株主である投資会社オアシス・マネジメント(Oasis)とその関連ファンドとも、TOBへの応募について協議を続けていると明らかにした。複数回にわたり意見交換の場を設けているが、「現時点で決定している事実はありません」としている。

3,000円から6度の引き上げ

このTOBは5月12日に発表された。Kamgras1は、EQTの関係会社が運用するファンド「BPEA Fund IX」が間接的に全持ち分を持つ会社の完全子会社で、カカクコム株の取得と非上場化を目的とする。当初の買付価格は3,000円だった。カカクコムの筆頭株主のデジタルガレージ(所有割合20.50%)と第2位株主のKDDI(同17.55%)は、Kamgras1との間でTOBに応募しない契約を結んでいる。2社の持ち分は合わせて38.05%にのぼり、Kamgras1は買付予定数の下限を3,494万1,000株(同17.51%)とした。

その後、買付価格はたびたび引き上げられた。7月17日に3,450円、8月13日に3,570円、8月27日に3,571円、9月10日に3,680円、9月29日に3,681円、そして今回の3,682円と、当初から682円上がった。

Kamgras1のTOB価格(1株あたり)の推移(円)

2,8003,0003,2003,4003,6003,8003,0003,6825/128/139/1010/14
日付は価格変更を公表した日出典: Kamgras1株式会社・カカクコムの各開示資料
数値で見る(単位: 円)
項目円
5/123,000
7/173,450
8/133,570
8/273,571
9/103,680
9/293,681
10/143,682

TOBの期間は、法令が原則として上限とする60営業日を大きく超えた。対抗陣営の開示資料は、Kamgras1のTOB期間が「例外的に延長され続けている」と表現している。価格を上げるたびに訂正届出書を出し、そのつど10営業日の延長が重なってきたためだ。

ベインキャピタル・LINEヤフー陣営の対抗提案

TOBが長引いた背景には、もう一つの買収提案がある。カカクコムの開示によると、ベインキャピタルが助言する投資ファンドのグループとLINEヤフーは7月1日、Kamgras1を上回る1株3,384円でカカクコム株を買い付ける法的拘束力のある提案をした。KDDIとの間で、保有株をTOBに応じない形で扱う契約を結べた場合は3,500円にするとしていた。この陣営の買付主体となるのは、ベインキャピタルが組成し、LINEヤフーが間接的に出資する予定のBCPE Blitz Cayman, L.P.だ。同じ7月1日、オアシス側はこの陣営との間で、TOBが始まれば保有株(当時3,820万0,548株)を応募する契約を結んだ。

これを受けてカカクコムの取締役会は7月1日、Kamgras1のTOBへの賛同は維持しつつ、株主に応募を勧める意見を撤回し、応募するかどうかは株主の判断に委ねる「中立」の立場に改めた。

ベインキャピタル陣営は7月29日、価格を3,520円(KDDIと契約できた場合は3,640円)とするTOBの開始予定を公表した。オアシスは8月18日、1株3,640円を下回るTOBは支持しないと公表した。その後、陣営は9月16日に価格を3,597円(同3,720円)に引き上げた。LINEヤフーが同日開示した資料によると、陣営は当初、TOBの開始を9月中旬と見込んでいた。だが、カカクコムの賛同と応募推奨の取得など、TOB開始の前提条件が満たされるかどうか、またその時期が見通せないとして、開始時期を「未定」に変えた。

価格を縛る二つの契約

Kamgras1は今回の開示で、対抗陣営の提案には実現の見込みがないと主張した。根拠に挙げたのは、カカクコムとKDDIがKamgras1との間で結んでいる二つの契約だ。

一つは、Kamgras1とカカクコムが5月12日に結んだ公開買付契約だ。Kamgras1によると、この契約の下でカカクコムが対抗陣営のTOBに賛同し、応募を勧めるには、その価格がKamgras1の買付価格以上である必要がある。今回の引き上げで、その水準は3,682円以上となった。対抗陣営が予告する3,597円はこれを下回る。

もう一つは、KDDIとKamgras1の不応募契約だ。KDDIが対抗陣営のTOBに応じるには、その価格がKamgras1の買付価格を2%上回る必要がある。この水準は今回の変更で3,756円となった。KDDIとの契約を前提とした対抗陣営の価格3,720円も、これに届かない。

Kamgras1は、対抗陣営が前提条件を満たせない状況を自ら作り出しながら、開始時期を示さずに予告を続けていると批判した。金融庁の「株券等の公開買付けに関するQ&A」が、実際にTOBを行う合理的な根拠がないのに実施予定を公表すると、風説の流布や相場操縦に当たる場合もあり得るとしている点を引き、「真摯な提案とは到底いえない」と主張している。Kamgras1によると、対抗陣営は過去に、KDDIの基準を満たす水準まで価格を2度引き上げたことがある。Kamgras1は、今回の価格がその基準を下回る以上、カカクコムの賛同を得るのが目的ではなく、Kamgras1のTOBの成立を妨げる狙いだと述べている。

カカクコムは「どちらが企業価値に資するか」検討を継続

カカクコムは10月15日の開示で、二つのTOBは両立し得ないとして、取締役会と非上場化の取引を検討する特別委員会が、引き続き両陣営と協議すると説明した。どちらの取引がより企業価値の向上と株主共同の利益に資するか、TOBが成立する可能性があるかなどを慎重に検討するという。特別委員会の答申内容にも変更はないとした。

株主構成も変わりつつある。カカクコムは9月28日、KDDIと2018年8月に結んだ資本提携契約を解消したと発表した。現在のTOBを含む資本構造の変化や今後の経営方針を巡って協議した結果、円満に解消することで合意したとしている。KDDIが取締役候補者1人を指名できる取り決めなどはなくなるが、データやノウハウを生かした新サービスの共同開発といった業務提携は続ける。

カカクコムの開示によると、同社は1997年5月に「価格.com」を開設し、2005年3月に「食べログ」を始めた。2002年6月にデジタルガレージが資本参加している。いまは二つの投資ファンド陣営が、デジタルガレージ、KDDI、オアシスという主要株主との契約を挟んで、上場企業としてのカカクコムの行方を競り合う構図となっている。Kamgras1のTOBは10月28日に期限を迎える。