厚生労働省は10月16日、給与をスマートフォン決済などの口座で受け取れる「賃金のデジタル払い」について、事業者向けの「資金移動業者の口座への賃金支払に関する資金移動業者向けガイドライン」の改正案を公表し、意見募集(パブリックコメント)を始めた。改正後は「第2版」となる。2026年6月1日に施行された改正資金決済法で、破綻時に利用者へ資金を返す方法が増えたことを受け、保証機関との契約が同法の要件も満たす場合には、資金移動業者が履行保証金の供託の全部または一部をしないで済むことを書き加えた。破綻時に備える保証額の算定方法なども改める。意見は11月16日午後11時59分まで、電子政府の総合窓口(e-Gov)などで受け付ける。

給与をスマホ決済の口座へ 指定を受けたのは4社

賃金の支払い方法は、通貨のほか、労働者の同意を得た場合には銀行などの口座への振り込みや証券総合口座への払い込みによることができるとされてきた。これに加え、2022年11月に公布され2023年4月1日に施行された改正労働基準法施行規則で、厚生労働大臣の指定を受けた資金移動業者の口座へ賃金を払う方法が加わった。これが賃金のデジタル払いで、根拠は同規則第7条の2だ。

資金移動業者は、資金決済法に基づいて送金サービスを営む事業者で、スマホ決済の運営会社などが当たる。ただし、資金移動業の登録だけでは賃金の受け皿にはなれない。厚労省は「賃金の確実な支払」を担保する要件を別に定め、それを満たすと認めた事業者だけを指定している。要件には、口座残高を100万円以下に抑える措置、破綻時に保証機関が労働者へ速やかに弁済する仕組み、不正な出金があった場合の補償、最後の入出金から少なくとも10年間は残高を払い戻せる措置などが並ぶ。ガイドラインは、その要件の中身と指定申請の手続きを事業者向けに細かく示した文書だ。

使用者がデジタル払いを始めるには、事業場の過半数労働組合か過半数代表者との労使協定が要る。そのうえで、銀行口座などへの振り込みも選べることを示し、希望する労働者から個別に同意を得る。全ての労働者が受け取り方を変えなければならないわけではない。

厚労省のページによると、指定を受けた資金移動業者は2026年7月1日現在で4社。指定申請は累計4件で、審査中の事業者は無い。

指定資金移動業者 指定日 受入上限額 保証機関
PayPay 2024年8月9日 20万円 三井住友海上火災保険
リクルートMUFGビジネス 2024年12月13日 30万円 三菱UFJ銀行
楽天Edy 2025年3月19日 10万円 楽天信託
auフィナンシャルサービス 2025年4月4日 10万円 auじぶん銀行
賃金のデジタル払いの指定を受けた資金移動業者

出典: 厚生労働省「資金移動業者の口座への賃金支払(賃金のデジタル払い)について」(2026年7月1日現在)、労働条件分科会(第199回)資料No.1(指定日・保証機関)

利用はまだ小さい。2025年6月の労働政策審議会労働条件分科会に厚労省が出した資料では、デジタル払いの労働者の口座は2025年3月末時点で1万7210件、1口座あたりの残高は4168円、同月に決済や送金に使われた総取扱金額は約1.3億円だった。

供託と保証の「二重」を整理 改正資金決済法を反映

改正案の中心は、破綻時の資金保全の部分だ。資金移動業者はもともと資金決済法で、利用者から預かった資金を供託や銀行保証、信託で保全するよう義務づけられている。ただ厚労省の分科会資料によると、供託を通じた還付には最低でも約170日かかる。賃金は日々の生活の糧であるため、デジタル払いでは、この保全とは別に、民間の保証機関が破綻時に労働者へ残高全額を速やかに弁済する保証の仕組みを持つことを指定の条件にしてきた。

その後、2025年6月13日に公布された改正資金決済法(令和7年法律第66号)で、保全の方法が増えた。金融庁の法案要綱によると、保証機関などが破綻時に利用者への債務を引き受ける「履行保証人債務引受契約」(第45条の3)、利用者との間で債務を保証する「履行保証人保証契約」(第45条の4)、信託財産を弁済に充てる「履行保証金弁済信託契約」(第45条の5)の3つで、いずれも届け出れば履行保証金の全部または一部の供託をしないことができる。金融庁によると、改正法は2026年6月1日に施行された。

改正案は、デジタル払いのために結ぶ保証機関との保証契約などが、これら3つの契約の要件も同時に満たす場合、同法に基づいて届け出れば、同法第43条が義務づける履行保証金の供託の全部または一部をしないことができると明記した。現行のガイドラインにこの記述は無い。

保証額の算定を受入上限額ベースに 口座数の考え方も明確化

保証機関が用意すべき金額の考え方も変える。現行は、必要になり得る保証額を「原則として100万円に、指定資金移動業者口座として設定した最大口座数を乗じた額」と想定している。改正案は、受入上限額を100万円以下に設定する事業者については、100万円の代わりにその設定額を掛けるとした。たとえば受入上限額を20万円とする事業者であれば、1口座あたりの想定額は100万円から20万円になる計算だ。

「最大口座数」の意味も書き足した。開設済みの口座数と、開設が現に予定されている口座数を指し、前もって口座数の増加を見込んだ保証額を必ずしも用意しなくてよいとした。新しく開かれた口座の数を適時かつ正確に把握し、最初の入金があるまでにその口座の受入上限額分の追加保証を確実に講じる仕組みがあれば、それで担保することもできる。こうした措置は、破綻時に6営業日以内に口座残高全額を労働者へ弁済できることを求めるものだと位置づけた。6営業日以内という弁済期限は、改正案でも維持されている。

受入上限額の運用も整理した。現行は、口座残高が100万円を超えたときにその日のうちに超過分を労働者の銀行口座など「指定代替口座」へ送ることを求めている。改正案は、受入上限額を100万円より低く設定している場合、残高がその上限額を超えた時点で、当日中に上限額以下に戻すよう措置することを求め、受入上限額の設定は資金移動業者の単位で行うと明記した。指定代替口座への着金は「個々の状況に応じて適切な時期までに行われるべき」としたうえで、労働者の口座からの減算と送金の指図は当日中に行う必要がある点は変えていない。

認証要件に「準ずる認証」 意見募集は11月16日まで

個人情報の扱いについて、現行は第三者機関による「プライバシーマーク」か「ISMS認証」の取得を求めている。改正案は「その他これらに準ずる認証」も認めるとした。10年間の払い戻しの措置については、債権の消滅時効を定めた民法第166条第1項を踏まえるとの文言を加えた。労働者に説明すべき事項のうち、破綻時の弁済は「口座残高全額」が対象であると明確にした。このほか、引用する金融庁の事務ガイドラインの項番の更新や字句の修正がある。

2025年5月28日に公表された「規制改革推進に関する答申」は、デジタル払いの社会実装を促す観点から、厚労省に金融庁と連携して要件の見直しの要否を検討するよう求めていた。厚労省の分科会資料によると、答申が挙げたのは、資金決済法上の返還方法が多様化した場合の資産保全要件の廃止または大幅な緩和と6営業日以内の弁済要件の見直し、銀行口座を持たない外国人労働者などのために指定代替口座を預貯金口座等に限る要件の見直し、プライバシーマークを求めないこと、現金での払い出しを1円単位とする要件の廃止などだ。今回の新旧対照表では、指定代替口座を預貯金口座等に限るとする記述は現行のまま残っている。

意見募集の期間は10月16日正午から11月16日午後11時59分まで。e-Govの意見提出フォームなどで受け付け、件名には「資金移動業者の口座への賃金支払に関する資金移動業者向けガイドライン(改正案)に関する意見」と書く。電話では受け付けない。改正後のガイドラインの日付は案の段階で「令和●年●月●日」となっており、いつから適用するかは示されていない。所管は厚労省労働基準局賃金課。