財務省国際局は9月18日、財政制度等審議会の財政投融資分科会に「日米戦略的投資イニシアティブ」の状況を報告した。総枠5500億ドルのうち、国際協力銀行(JBIC)が実際に貸付契約を結んだのは5件で、民間金融機関を合わせた協調融資の総額は約68億3100万ドル。枠の約1.2%にあたる。資料は、初回に出す資金は各案件の総額見込みの「3%~約1割程度」だと明記した。
契約済みの5件、JBICの貸付限度額は合計約22億8100万ドル
JBICの各プレスリリースによると、契約は2026年4月17日に3件、8月7日に2件結ばれた。JBICが米国に設立した特別目的会社(Japan Invest 1~5 LLC)ごとに、貸付限度額と協調融資の総額は次のとおりだ。
- 合成ダイヤモンド製造・販売(JI1) 約700万ドル/協調融資 約2300万ドル
- 原油輸送積出インフラ(JI2) 約1億400万ドル/協調融資 約3億1300万ドル
- ガス火力発電(JI3) 約6億3000万ドル/協調融資 約18億8500万ドル
- ペンシルベニア州の天然ガス火力(JI4) 約8億100万ドル/協調融資 約23億9700万ドル
- テキサス州の天然ガス火力(JI5) 約7億3900万ドル/協調融資 約22億1300万ドル
JBICの貸付限度額の合計は約22億8100万ドル、協調融資の総額は約68億3100万ドルになる。民間金融機関が貸す部分には日本貿易保険(NEXI)の保険が付く。
第二陣のペンシルベニア州・テキサス州の2件には、シティバンク・エヌ・エイ東京支店が幹事行として、JPモルガン・チェース銀行東京支店とともに加わった。資料は「米銀(シティバンク、JPモルガン)が参画」と記し、外貨を調達する観点から米銀の参加も歓迎する立場を示している。
総額見込みは5.2兆円規模だが、出るのは進み具合に応じて
第一陣の3件は2026年2月18日に公表された。財務省の発表によると、総額見込みは工業用の人工ダイヤ製造が約6億ドル(約900億円)、米国産原油の輸出インフラが約21億ドル(約3300億円)、AIデータセンターなどに電力を送るガス火力が約333億ドル(約5.2兆円)だった。
第二陣は2026年3月19日(米国東部時間)の日米共同発表で、テネシー州・アラバマ州の小型モジュール炉(SMR)が推定最大400億ドル、ペンシルベニア州の天然ガス発電が最大170億ドル、テキサス州が最大160億ドルとされた。
契約済みの協調融資額がこれらの見込みに比べて小さいのは、資金をまとめて出す仕組みではないためだ。資料は「プロジェクトの進捗に応じた段階的な資金供給」と説明している。工事や運転の進み方に合わせて追加の契約を重ねていくため、今の数字は着工段階の資金だと読むのが正しい。
収益の配分は「元利回収まで折半、その後は米国9割」
日本側の資金は、JBICの出融資と、NEXIの保証が付いた民間金融機関の融資で用意する。米国側は土地、水、電力、エネルギー、オフテイク契約(生産物の引き取り契約)、規制面の対応などを提供する。
事業から得た資金の分け方は資料に図で示されている。まず、日本が提供した資金の元利返済相当分(保証料を含む)を確保するまでは日米が50対50で分け、それを超えた残りは「米国側の様々な貢献に鑑み」米国90%・日本10%で分ける。つまり日本が受け取る取り分は、貸した金を利息込みで回収し終えた後に大きく下がる設計になっている。
外貨の手当てについては、外国為替資金特別会計(外為特会)が持つドルをJBICに貸し付ける方法があり、その額は融資額の原則5割を上限とする、と資料は記した。円を売ってドルを買う必要が生じにくくなるため、為替相場への影響を抑える狙いがある。円高が進んだ局面でも介入の方針は変えないとした片山財務相の説明とあわせて、外貨準備の使い道が問われる論点になる。
投資後の監視は「2か月に1度、専門家が渡米」
資料は事後の監視についても手順を示した。第一陣への投資決定後は、およそ2か月に1度、専門家が米国に渡って米商務省や事業会社と協議し、進み具合の詳細を確認しているという。採算の悪化や投資総額の上振れといった想定外の事態が起きた場合には、必要に応じて両政府間で対応を協議する。
事業を運営する会社に払う手数料は「固定額±進捗や業績に応じたボーナス/ペナルティ」の形にして、遅れや経費の膨張が起きにくいようにする。赤澤経済産業相は令和8年4月22日の衆院経済産業委員会で「具体的な事業の運営を行う各社に対して、プロジェクトの進捗状況や業績に連動して各社が受け取る収益が決まるようなインセンティブの仕組みを導入しております」と答弁した。片山財務相も令和8年6月8日の参院決算委員会で「各プロジェクトについてフォローアップをしっかり行うように指示しております」と述べている。
JBICは職員55人の純増、日米戦略投融資部門を新設
案件を担うJBICは体制を広げた。2026年度の定員は職員55人の純増で、資料は「過去最大規模」とし、過去10年の対前年度の増加幅は20人程度だったと注記した。
組織面では、2025年11月にインフラ・環境ファイナンス部門へ戦略投融資室を置き、2026年5月にこれを改組して担当副総裁を新たに置くとともに、日米戦略投融資部門と日米戦略投融資部を新設した。プロジェクトファイナンスの知見がある内部人材を重点的に配属しているという。
日米戦略的投資イニシアティブは、2025年9月4日付の戦略的投資に関する了解覚書に基づく枠組みで、半導体や医薬品、エネルギーなど経済安全保障上重要な分野を対象とする。案件の多くがAIデータセンター向けの電力に集まっている点は、国内でも金融庁が2026事務年度の金融行政方針でデータセンター向け融資を重点的に見ると示したことと重なる。電力を必要とするAI投資に資金が向かう流れが、日米の政府系金融にも及んでいる。
