米グーグルのAI研究部門Google DeepMind(グーグル・ディープマインド)は米国時間10月27日、文章で指示した内容をもとに、利用者が歩き回ったり手を加えたりできる仮想の世界をその場で作り出すAI「ワールドモデル」の新版「Genie 4(ジーニー4)」を発表した。物がぶつかる、水が流れるといった物理の動きや人物の振る舞いを写実的に描き、風の音などの環境音や登場人物どうしの会話も映像と同時に生成する。まず選んだ試験利用者に研究用の先行版として配り、その後、有料プラン「Google AI Ultra」の加入者や、開発者向け窓口「Gemini API」などの早期利用先へ広げる。一般向けの提供時期は示していない。

指示を出しながら世界を作り変える

ワールドモデルは、世界の成り立ちについてAIが学んだ知識を使って、その一部を模擬的に再現する仕組みだ。DeepMindは前作「Genie 3」の発表時、環境がこの先どう変わるか、自分の行動がそれにどう作用するかをAIの「エージェント」(指示を受けて自ら作業を進めるAI)が予測できるようにするものだと説明していた。あらかじめ作った動画を流すのではなく、利用者の操作に応じて次の場面をその都度描く点が動画生成AIと異なる。

Genie 4では、キーボードとマウスで視点を動かしながら、文章で「天気を変える」「新しい人物や物を登場させる」といった指示をその場で出せる。DeepMindによると、グーグルの生成AI「Gemini」が裏側で指示を周囲の場面に合わせて解釈し、利用者が指示を出していない間も場面の進み方を見張って、世界の筋が通るように整える。モデルページは操作の例として、雪の上を歩く鳥、ステンドグラスでできた風景、スキーで斜面を滑り降りる一人称の視点などを、実際の指示文とともに載せている。

同社は、Genie 4がGeminiの仕組みを取り込んで作られたと説明する。「Gemini Omni」が現実の見た目と振る舞いに場面をつなぎとめ、ほかのGeminiのモデルが、場面の一貫性と連続性を保つための複雑な推論を受け持つという。

音と会話を同時に作る

前作から大きく変わったのは音だ。DeepMindはGenie 4を「音声をそのまま生成する初めてのリアルタイムのワールドモデル」と位置づける。木々を渡る風や浜に打ち寄せる波の音といった、その場所らしい環境音を映像と一緒に作る。足元で落ち葉が鳴る音や観客の歓声も例に挙げている。

同社が「本当の最先端」と呼ぶのは人の話し声だ。登場人物どうしが会話し、利用者の入力や世界の中の出来事に応じて、その場で受け答えを変える。人物の描き方についても、環境に応じて自然に動き、利用者がリアルタイムで動かせる人物を作れるようになったことを「最も劇的な進歩」としている。物理の面では、空気の流れや衝突といった現実の物理を模擬するという。

前作のGenie 3は2025年8月5日に発表された。文章の指示から毎秒24コマ・解像度720pの世界を作り、数分間は破綻なく保てるとしていた。DeepMindは、Genie 3を「リアルタイムで操作できる初めてのワールドモデル」と説明していた。それから1年2か月余りで、映像に音と会話が加わったことになる。ただしGenie 4の発表文とモデルページには、解像度やコマ数の数値は書かれていない。

ロボットの作業を仮想の世界で試す

DeepMindは、ワールドモデルの使い道として、ロボットやAIエージェントを訓練する環境づくりから、新しい対話型の体験づくりまでを挙げる。モデルページでは、現実に近い環境でAIを訓練して試すことが、現実の世界で使えるようにすることに近づくと説明している。

Genie 4では、Geminiのモデル「Gemini 3.8 Flash」を案内役に置いた。Genie 4が世界を描く間、Geminiが場面を見続け、目標を手順に分け、送られてくる映像を見て各手順がうまくいったかを確かめる。世界が変わったり利用者が割り込んだりすれば、計画をその場で組み直す。発表文には、ロボットアームがピペットで実験用の皿に液体を注ぎ、小さな火花が散る場面の例が載っている。

ロボット研究との組み合わせも試している。発表文によると、Geminiのモデル「Gemini 4 Argon」が利用者の指示した作業を手順に分け、その手順を文字の説明としてGenie 4に順に渡しながら、映像を描かせる。Gemini 4系のモデルについては、別のモデルを本紙で報じている(グーグル、新AI「Gemini 4 Carbon」発表 脆弱性発見で88.2%、まずサイバー防御側に限定提供)。例として、米アプトロニックの人型ロボット「Apollo(アポロ)」がチェッカー(西洋碁)を指す場面を模擬した。アプトロニックとApolloについては、本紙の既報がある(人型ロボットの「データ工場」拡張 米アプトロニック、集めた作業データでグーグルのAIを鍛える)。DeepMindは、この仕組みがロボットの模擬実験に「限りない遊び場」を開くとしている。

試験利用者は、映像制作・報道・教育・ゲーム・工学の各分野から集めた。発表文によると、映画の作り手は撮影前の下見として場面の中に入り、カメラの角度や照明、台詞を変えて何度も「テイク」を試している。報道写真家は1枚の古い写真から当時の場所を再現する使い方を、ゲームの開発者はプログラムを書く前に試作品を作る使い方を試しているという。

続けて使えるのは数分 すべての出力に電子透かし

DeepMindは、Genie 4を「初期の、発展途上の技術」と位置づけ、研究段階の限界を6項目挙げた。

項目 公表された限界
世界の一貫性 時間がたつと見た目の細部や物の存在がずれる。長く動かすほど、複雑な指示を重ねるほど目立つ
他者との関わり 利用者と複数の独立したエージェントが同じ環境で関わる様子の再現は研究途上
実在の場所 現実の場所を正確には再現できない
文字 読める文字は、多くの場合、指示文に書いたときにしか出ない
操作の時間 続けて操作できるのは数分程度で、長時間は使えない
音の正確さ リアルタイムの音声の正確さは改善の途中
Genie 4について公表された研究段階の限界出典: Google DeepMind「Genie 4」モデルページ(Limitations の項)

安全面では、ほかのモデルと同じ基準の厳しい安全装置を組み込み、先行版の公開前に有害な内容を生成しないかを社内で評価したと説明している。広く公開する前に試験利用者へ先に配ったのも、意見を集めるために意図して選んだ順序だという。Genie 4が作る映像と音声には、すべて同社の電子透かし「SynthID」を入れる。目には見えず、映像と音声の両方でAIが作ったものかを見分けるのに使う。

DeepMindは今後の方向として、プログラムや言語を扱うモデルの筋道立った推論と、画素単位で描く模擬を組み合わせた「ハイブリッド型のワールドモデル」を挙げた。Geminiが場面の構造と筋書きを決め、Genie 4が目の前の見た目と音と反応を描く今回の分担を、その第一歩と位置づける。ただし、ハイブリッド型の具体的な仕組みや公開の予定は示していない。