木原稔官房長官は10月29日午前の記者会見で、政府の経済政策の柱である「日本成長戦略」と「地域未来戦略」を進めるため、関係省庁の局長等を「日本成長戦略推進担当官」と「地域未来戦略推進担当官」に、それぞれの課長等を「担当官補佐」に、同日付で発令したと発表した。年末に予定する「日本成長戦略実行計画」と「地域未来戦略実現フレーム」の策定に向けて、施策の項目ごと・分野ごとに責任者をはっきりさせ、体制を強める。担当官の氏名、人数、所属省庁は会見では示されず、10月30日時点で内閣官房の両本部のページにも名簿は掲載されていない。
局長等を「担当官」、課長等を「補佐」に
木原氏は会見の冒頭でこの発令を取り上げた。日本成長戦略については「年末の日本成長戦略実行計画の策定や重点的に取り組む項目を着実に実行するために、各項目の責任者を明確化し体制を強化する必要があります」と説明した。地域未来戦略についても「年末の地域未来戦略実現フレームの策定など、取組を加速していくため、分野別責任者を明確化し、体制を強化する必要があります」と述べた。
そのうえで「本日付で関係省庁の局長等からなる日本成長戦略推進担当官及び地域未来戦略推進担当官及びそれぞれの課長等からなる担当官補佐を各事務局員として発令いたしました」と明らかにした。各省庁で政策を所管する局長級・課長級の幹部が、内閣官房に置かれた2つの本部の事務局員に充てられたことになる。成長戦略は「項目」ごと、地域未来戦略は「分野」ごとに責任者を置くという整理で、施策の担い手を省庁の幹部個人の単位で決めることになる。
木原氏は「高市総理が今国会の所信で述べられているとおり、『日本成長戦略』と『地域未来戦略』を両輪として、我が国の国内投資を力強く引き出してまいります」と締めくくった。官邸のサイトに掲載されているのは冒頭発言で、質疑の内容は載っていない。
日本成長戦略実行計画とは 予算案の決定と同時に策定
日本成長戦略は7月21日に閣議決定された政府の成長戦略で、AI・半導体、量子、防衛産業、造船、創薬・先端医療、コンテンツなど17の戦略分野と、スタートアップ、労働市場改革、賃上げ環境整備など8つの分野横断的な課題を柱とする。同じ日に、17分野の62の「主要な製品・技術等」について官民投資ロードマップも決まった。
これを実行に移すための文書が、年末に作る実行計画だ。10月1日の第8回日本成長戦略会議に示された資料「『日本成長戦略実行計画』の策定にあたって」によると、計画には二つの柱を盛り込む。一つは、17分野・62製品などのうち「足元の収益源」「今後の稼ぎ頭」「経済安全保障の強化」の観点から重点的に取り組む分野について、2030年ごろまでの5か年に民間を中心に見込む国内投資の内容と投資額(投資事業計画)。もう一つは、17分野と8課題への対応のうち主要な政策について、「強く豊かな日本」投資枠を使った複数年度にわたる予算事業などである。
資料は今後5年間を「集中投資期間」と位置付け、主にその期間をカバーする計画にするとした。進め方は、戦略分野分科会を含む日本成長戦略会議で、民間投資を誘い出す事業や潜在成長率を大きく引き上げる事業を特定し、予算編成と並行して中身を詰め、「政府予算案決定時に実行計画を策定する」としている。
日本成長戦略そのものも、実行の段取りとして「誰が、何を、いつまでにといった5W1Hを念頭に置いた上で」、施策の具体化と見直しを繰り返す「PDCAメカニズム」を日本成長戦略会議の下で回すと定めている。今回の担当官の発令は、この「誰が」の部分を省庁の幹部に割り当てる手続きにあたる。経団連の会合での首相の発言は「高市首相、経団連創立80周年パーティで「大胆な投資と賃上げ」要請 成長戦略実行計画は年内策定」で伝えた。
日本成長戦略本部は2025年11月4日の閣議決定で内閣に置かれた。本部長は首相、副本部長は官房長官と日本成長戦略担当相(城内実氏)で、ほかの全閣僚が本部員となる。それまでの「新しい資本主義実現本部」を廃止して引き継いだ組織である。本部のページによると、10月16日に第5回戦略分野分科会が、発令と同じ10月29日に第1回官民戦略投資連携フォーラムが開かれた。
地域未来戦略と「実現フレーム」
地域未来戦略本部は2025年11月11日の閣議決定で設置された。本部長は首相、副本部長は官房長官と地域未来戦略担当相(藤井比早之総務相)で、金融担当相、経済財政担当相、総務、財務、文部科学、農林水産、経済産業、国土交通の各相が本部員となる。「新しい地方経済・生活環境創生本部」を引き継いだ。
戦略は7月21日に閣議決定され、2030年度までを計画期間とする。目標は「47都道府県のどこに住んでいても、安全に生活することができ、必要な医療・福祉や質の高い教育を受けることができ、働く場所がある社会を実現すること」とし、その前提として強い地域経済の構築を掲げた。中心となるのは、大企業の大規模投資を起点とする「戦略産業クラスター計画」(A)、都道府県が主体となる「地域産業クラスター計画」(B)、小規模でも地域を支える「地場産業成長プラン」(C)の3類型の計画である。
| 報告日 | A 戦略産業クラスター | B 地域産業クラスター | C 地場産業成長プラン |
|---|---|---|---|
| 7月31日 | 13計画 | 6計画 | 4計画 |
| 8月28日 | 1計画 | 25計画 | 3計画 |
出典: 内閣官房「地域未来戦略における『3類型』の計画のこれまでの取組状況と今後の進め方」(第7回関係副大臣等会議・資料1)
9月30日の第7回関係副大臣等会議では、藤井氏が「これまで、50を超える計画が策定・公表されています」と述べ、今後も月1回程度、知事や市町村長から計画の報告を受けるとした。この回に茨城・神奈川など各地が報告した計画は「政府の産業クラスター計画、公表済みは52件 9月30日に茨城・神奈川など7県が新たに10件を報告 「地域未来戦略」の計画期間は2030年度まで」で詳しく伝えた。
木原氏が年末の策定に触れた「地域未来戦略実現フレーム」は、同じ会議で農林水産大臣政務官が「今後策定予定の『地域未来戦略実現フレーム』の活用を含め」、地方農政局などと連携して計画の実行を後押しすると述べていた。ただ、実現フレームがどのような文書で、何を定めるのかを説明した公表資料は、10月30日時点で確認できていない。
事務局員として発令 「支援官」とは別、名簿は未公表
今回の担当官は、2つの本部の事務局員として発令された。地域未来戦略本部事務局の設置に関する規則(2025年11月11日内閣総理大臣決定)は、事務局に事務局長、次長、審議官、参事官、企画官と「その他所要の局員」を置くと定め、参事官、企画官、局員は非常勤とすることができるとしている。
地域未来戦略では、これとは別に、藤井総務相が10月27日の閣議後会見で、各府省庁の本省職員等を「地域未来戦略支援官」とし、チームで市町村のプラン策定に助言・相談などの支援をさせると表明している。支援官は市町村の計画づくりを手伝う役で、今回の推進担当官は国の施策を分野ごとに束ねる局長級の責任者という違いがある。支援官と書簡の経緯は「藤井地域未来戦略相、全知事・市町村長に書簡 地場産業プランの策定を要請 省庁職員を「支援官」に」で伝えた。
一方、推進担当官について政府はまだ多くを明らかにしていない。何人が、どの省庁のどの局長が、成長戦略のどの項目や地域未来戦略のどの分野を受け持つのかは、会見でも両本部のページでも示されていない。成長戦略の「項目」が17の戦略分野と8つの分野横断的な課題に沿って割り振られるのかどうかも、公表資料からは確認できない。
実行計画は、年末の政府予算案の決定と同時に策定する段取りになっている。それまでに日本成長戦略会議と戦略分野分科会で、計画に盛り込む主要施策と、民間の投資事業計画の中身を詰める。地域未来戦略は、月1回程度の計画報告を続けながら、実現フレームを年末までにまとめる。
今回の発令で、二つの戦略の施策ごとに責任を負う省庁の幹部が決まったことになる。年末に出る実行計画と実現フレームに、どの施策を誰がいつまでに進めるのかが具体的に書き込まれるかどうかが、発令の実効性を測る材料になる。政府が担当官の名簿や担当分野をどこまで公表するかも、施策の責任の所在を外から確かめられるかどうかを左右する。
