政府は10月30日午後4時から25分間、首相官邸2階大ホールで「地域未来戦略に関する関係副大臣等会議」の第8回を開き、都道府県や市町村がつくった産業振興の計画を高市首相に報告した。10月分として示されたのは、都道府県などが主体となる「地域産業クラスター計画」18件と、市町村などが地域に根差す産業を伸ばす「地場産業成長プラン」10件の計28件である。首相は会議のまとめで「合計100を超える計画が、策定・公表されています」と述べた。

10月分は28件、地域産業クラスター計画は67件に

会議は藤井比早之地域未来戦略担当相が議長を務め、尾﨑正直・中西祐介両官房副長官、財務・文部科学・農林水産・経済産業・国土交通の各副大臣らが出席した。全国知事会・全国市長会・全国町村会の事務方と、経団連・日本商工会議所・経済同友会の幹部もオブザーバーとして加わった。

計画を説明した首長は14人いる。官邸に出向いたのは群馬県の山本一太知事、沖縄県の古謝玄太知事、岐阜県美濃加茂市の藤井浩人市長、高知県本山町の澤田和廣町長の4人。秋田・埼玉・兵庫・和歌山・京都の各知事と、山梨県甲州市、三重県四日市市、奈良県明日香村の首長はオンラインで参加し、福島県の内堀雅雄知事と愛知県の大村秀章知事は録画で説明した。

内閣官房の資料によると、10月分の地域産業クラスター計画は、出席した自治体の12件と、これまでの会議で報告を済ませた自治体が2件目以降としてつくった6件(茨城県、大阪府・大阪市、香川県、高知県、長崎県、鹿児島県)で計18件になる。地場産業成長プランも、出席した市町村などの6件に、福島・愛知・鳥取・鹿児島の4県の2件目以降を加えて10件となった。

参考資料の策定状況では、地域産業クラスター計画は46自治体の67計画、地場産業成長プランは21自治体の21計画に達した。内閣官房の「3類型の計画」のページには、国が主導する「戦略産業クラスター計画」が14件並ぶ。3類型を合わせると102件で、首相の「100を超える」はこの合計を指す。

自治体 地域産業クラスター計画の産業領域(10月分) 計画に掲げた主な目標
群馬県 次世代モビリティ(自動車等輸送機器) 官民設備投資の累計5兆181億円以上(2036年)
沖縄県 医療・バイオ関連製品 関連企業を106社から200社へ(10年後)
秋田県 洋上風力、資源・リサイクル、森林産業の3件 洋上風力で官民設備投資537億円(2035年まで)
埼玉県 ロボット関連 官民設備投資約545億円、付加価値増加約121億円
兵庫県・神戸市 航空機、空飛ぶクルマの2件 航空機で官民設備投資211億円
和歌山県 繊維 官民投資額20億円、付加価値額192億円
福島県 航空宇宙関連、ロボット・ドローン関連の2件 ロボット・ドローンで5年で付加価値1794億円程度の増加
愛知県 航空宇宙 官民設備投資377億円、付加価値増加504億円
第8回会議で知事が説明した地域産業クラスター計画(2件目以降の参考分を除く)

出典: 内閣官房「地域産業クラスター計画・地場産業成長プランの概要」(第8回資料)

群馬は自動運転と電動化、沖縄は医療・バイオ

官邸で説明した2県の計画は、規模も分野も大きく異なる。

群馬県の計画は、自動運転、電動化、物流の高度化を組み合わせ、「安全性能を軸とした次世代モビリティ拠点」をつくるとしている。対象は前橋・高崎・伊勢崎など県中南部の7市と、太田・桐生・館林など東毛地域の6市町で、国道354号の東毛幹線道や国道17号の上武道路の沿線に形成された地域である。2036年の目標として、官民設備投資の累計5兆181億円以上、輸送用機械の製造品出荷額5兆2886億円(2024年比47%増)、付加価値額1兆5537億円(同43%増)、産業人材の育成累計3万人以上を掲げた。県内の給与総額も2024年から29%増やすとしている。

沖縄県は、医療・バイオ関連製品の研究から製造までを県内で一貫して担う拠点を目指す。県固有の健康医療データの基盤と、亜熱帯の気候に由来する天然素材を強みに挙げた。対象は沖縄科学技術大学院大学(OIST)のある恩納村周辺、琉球大学医学部のある宜野湾市周辺、うるま市州崎地区、本島北部と石垣島などの離島である。10年後の目標は、官民設備投資の累計366億円(官166億円・民200億円)、関連企業数を2024年度の106社から200社へ、付加価値額を153億円から219億円へ増やすことなど。臨床試験を受託する企業(CRO)や治験薬の開発・製造を受託する企業(CDMO)、製造施設の立地を10社以上とする目標もある。

オンラインと録画の各県では、愛知県が日本の航空機・部品の約3割、機体部品では約6割を県内で生産しているとし、ドローンや空飛ぶクルマを含む航空宇宙産業の計画を示した。埼玉県は、鶴ヶ島ジャンクション周辺の13市町を対象に、2028年度の開所を予定する「SAITAMAロボティクスセンター(仮称)」を中核に据える。県のロボット関連の連携組織に参加する約1100社のうち、県内の約200社が計画の中心になる。

干し柿、花卉、萬古焼 市町村のプランは小さな数字

地場産業成長プランは、地域産業クラスター計画に比べて規模の小さい産業を対象にする。官邸で説明した2市町の目標も、金額や人数は小さい。

岐阜県美濃加茂市は、特産の干し柿「堂上蜂屋柿」を取り上げた。干し柿専用の加工施設を新たに整え、10年後までに年間2万5000個を加工・製造するとしている。全出荷量に占める上位等級の割合は5年後までに60%へ上げ、めぐみの農業協同組合が加工する柿の平均出荷額を現在の459円から5年後に700円、10年後に750円へ引き上げる目標である。

高知県本山町は、町の農業公社を中心に花卉と米ナス、パプリカ、ピーマン、トマトなどの園芸作物を伸ばす。町や公社が初期投資の負担を引き受け、新しく農業を始める人の借金を小さく抑える仕組みを柱にした。2031年度(令和13年度)の目標は、地域の付加価値を2373万2000円増やすこと。独立して就農する担い手2人、規模を広げる既存農家2人、半農半Xの形で小さなハウスを契約する人5人、公社のハウス整備面積90アールといった人数と面積の目標が並ぶ。

オンラインで説明したプランでは、三重県四日市市が伝統的工芸品の四日市萬古焼を、京都府が府と市の指定する伝統産業品77品目(府・市共通31品目、府のみ3品目、市のみ43品目)を対象にした。山梨県甲州市は桃やぶどう、ワインとその加工品、奈良県明日香村は世界遺産「飛鳥・藤原の宮都」を核にした宿泊や飲食、歴史文化体験を挙げている。

3類型の計画と、国が主導する14件

地域未来戦略は、計画を担い手と規模によって3つに分ける。第7回会議の参考資料によると、A類型の「戦略産業クラスター計画」は、成長戦略で定めた17の戦略分野に関連する企業の大規模投資を起点とする。地方経済産業局がブロックごとに有識者検討会を開いて素案をつくり、国が道路や工業用水などのインフラ整備や人材育成に「一歩前に出て」取り組む。

B類型の地域産業クラスター計画は、知事らが主導し、都道府県が力を入れる産業領域を決めて策定する。海外への輸出で外貨を稼げる産業か、国内市場で上位のシェアを狙える産業が対象になる。C類型の地場産業成長プランは、市町村か都道府県が、農林水産業や観光、伝統的工芸品の製造など地域に根差す産業について、付加価値の向上や販路の拡大を目指してつくる。個々の規模は小さくても、地域経済を広く支える役割を担う。

内閣官房のページに並ぶA類型の14件は、半導体(北海道、東北、広島県、九州)、洋上風力(北海道、東北、九州)、ロケット・射場(北海道、近畿)、民間航空機の整備(千葉県成田空港周辺)、空飛ぶクルマ(近畿)、バイオ・先端医療(近畿)、次世代船舶(中国・四国、九州)である。

9月30日の第7回会議までの報告内容は「政府の産業クラスター計画、公表済みは52件 9月30日に茨城・神奈川など7県が新たに10件を報告 「地域未来戦略」の計画期間は2030年度まで」で伝えている。地場産業成長プランについては、藤井担当相が全国の知事と市町村長に策定を求める書簡を送っていた(「藤井地域未来戦略相、全知事・市町村長に書簡 地場産業プランの策定を要請 省庁職員を「支援官」に」)。

首相「市町村の計画策定を一層推進」 年末に実現フレーム

高市首相は会議のまとめで、医療・バイオや次世代モビリティ、航空宇宙・ドローンといった「成長分野」から、農林業や伝統工芸品産業など「地域に根差した産業」まで、各地の計画が「着実に形になってきております」と述べた。そのうえで「今後は、『市町村による計画策定』についても、一層推進をしてまいります」と語った。

首相は藤井担当相に対し、多くの自治体が地場産業成長プランをつくれるよう、総務省や都道府県に加えて関係省庁と地方支分部局も巻き込み、市町村への「伴走支援体制」を強めるよう指示した。商工会・商工会議所の経営指導を含め、市町村の計画のなかで関係企業を支える体制をどう支援するかを、総務省・経済産業省と検討することも求めた。

会議には、関係省庁の局長級などから発令された「地域未来戦略推進担当官」9人も出席した(「成長戦略と地域未来戦略に「推進担当官」 省庁の局長級を発令、年末の計画策定へ」)。首相によると、担当官は分野ごとの責任者で、年末までに策定する「地域未来戦略実現フレーム」の作業を進める役を担う。

実現フレームには、複数年度にわたる予算措置、自治体の負担に配慮した地方財政措置、計画策定の支援、サプライチェーン投資での中小企業向け支援策の活用、既存予算とは別枠の「地域未来特別枠」による追加の予算措置、人材育成の支援などを盛り込むと首相は説明した。計画の数は100件を超えたが、各計画に掲げた投資額や付加価値の目標を国がどう財源で支えるのかは、年末の実現フレームで示されることになる。