国民民主党が衆院に提出した「自動車盗難対策等の推進に関する法律案」と「盗難自動車等の処分の防止に関する法律案」の2本が、10月5日に召集された第222回臨時国会で、同日付で衆院内閣委員会に付託された。2本とも前の第221回特別国会で提出され、閉会中審査を経て今国会に持ち越された議員立法である。盗まれた車が「ヤード」と呼ばれる塀で囲まれた保管場所・作業場で解体され、国内で売られたり海外へ輸出されたりする流れを断つことを狙い、解体・保管の事業者に届け出と本人確認を義務付ける内容を含む。衆議院の議案一覧では、2本の審議状況は「衆議院で審議中」となっている。
2法案の位置づけ 基本法と規制法の組み合わせ
衆議院の議案審議経過情報によると、「自動車盗難対策等の推進に関する法律案」(衆法第221回国会19号)の提出者は橋本幹彦氏ら4人、「盗難自動車等の処分の防止に関する法律案」(同20号)の提出者は西岡義高氏ら4人で、いずれも会派は国民民主党・無所属クラブである。提出者には岡野純子氏、河井昭成氏も名を連ね、賛成者には玉木雄一郎代表や古川元久氏らが並ぶ。経過情報の「衆議院議案受理年月日」の欄は空欄で、付託年月日(令和8年10月5日)と付託委員会(内閣)だけが入っている。
国民民主党の発表では、2本は6月23日、組織的犯罪処罰法と刑事訴訟法の改正案(同21号)とあわせて3本で衆院に出された。第221回国会は2月18日に召集され、7月25日に閉会している。3本は同国会の議案一覧で「衆議院で閉会中審査」とされ、今国会の一覧にも並ぶ。
2本は役割が違う。前者は国と自治体の責務や施策の方向を定める「推進法」で、具体的な義務や罰則は置かず、政府に法制上・財政上の措置を求める。後者は、車や部品を解体・保管する事業者に直接の義務を課す規制法で、違反には罰則がある。党はこれを「自動車ヤード規制法案」と呼んでいる。
推進法案 捜査体制・税関・部品の流通まで
推進法案の要綱は、自動車の盗難が売却益を得るために行われるのが通常で、盗んだ車をすぐに外から様子が見えない場所へ運び込んで解体し、国内で売るか輸出する犯行が一般的で、組織的に行われている、という実態を基本方針に書き込んでいる。そのうえで国と都道府県に次のような施策を求める。
- 取り締まり: 人工知能(AI)関連技術で犯人や盗難車を追跡する捜査の推進、捜査員の増員、2つ以上の都道府県にまたがる事件での警察同士の連携強化、被害届の手続きの簡素化、国外逃亡に備えた国際刑事警察機構(ICPO)などとの連携
- ヤード対策: 違法な解体が疑われる場所の所在地と運営実態の把握、立ち入り検査の積極的な実施、外国語による指導・助言
- 流通と輸出: 使用済み車の引き取り業者や古物商に持ち込み客の本人確認の徹底を促すこと、ネットの取引の場での盗難車の売買防止、税関での輸出証明書の確認の徹底や大型のエックス線検査装置の活用、警察の盗難車情報を税関や港湾の事業者へ提供すること
- 部品と防犯: 自動車検査証の記録事項の見直しによる部品の流通の把握、エンジンをかけるために使われる機器の流通防止
関係省庁には警察庁、財務省、経済産業省、国土交通省、環境省、外務省を挙げ、協議の場を設けるよう求める。国家公安委員会と関係大臣は施策の目標や計画を定めて公表する。小売店舗での集団による窃盗にも、同じ手法の対策を広げる規定がある。施行は公布の日とする。
規制法案 届け出・本人確認・取引記録
規制法案は、車や部品の解体・保管を行う事業を「特定自動車等解体保管業」と定義し、営む者に次の義務を課す。
| 義務 | 内容 |
|---|---|
| 届け出 | 事業所ごとに氏名・住所・所在地などを都道府県公安委員会に届け出る |
| 表示 | 事業所に氏名などを掲げ、原則としてネットでも公開する。名義貸しは禁止 |
| 本人確認 | 車や部品を受け取るとき、相手から身分証明書の提示を受ける。記録は3年保存 |
| 車検証の確認 | 車を受け取るとき、車検証などで所有者を確認し、写しを3年保存 |
| 取引記録 | 受け取り・引き渡しの相手、日付、品目・数量、特徴を記録し3年保存 |
| 警察への申告 | 盗難車に由来する疑いがあれば、直ちに警察官に申告する |
公安委員会は指示や営業停止命令を出せ、報告を求めたり立ち入り検査をしたりできる。営業停止命令に違反すれば1年以下の拘禁刑か100万円以下の罰金(併科あり)、無届けの営業や名義貸しは6月以下の拘禁刑か100万円以下の罰金、本人確認や記録の義務違反は6月以下の拘禁刑か30万円以下の罰金となる。使用済み自動車再資源化法や古物営業法の規制を受ける事業者には適用を除く規定を設け、自治体が条例で独自の規制を定めることは妨げない。施行は公布から3か月以内の政令で定める日で、施行3年後をめどに見直す。
この仕組みは、太陽光発電施設のケーブルなどを狙う金属盗への対策として2025年6月に公布された「盗難特定金属製物品の処分の防止等に関する法律」(金属盗対策法)と同じ形をとる。同法は金属くずの買い受け業者に、営業所ごとの公安委員会への届け出、本人確認記録の3年保存、取引記録の作成、盗品の疑いがある場合の警察官への申告を義務付けている。警察庁は「令和7年の犯罪情勢」で、2025年の金属盗の認知件数が1万5712件と前年から24.1%減ったとし、同法の確実な運用を進めるとしている。
自動車盗は2026年に入り減少
警察庁によると、2025年の自動車盗の認知件数は6386件で、前年より306件(5.0%)増えた。警察庁は同じ資料で、自動車盗や金属盗などが組織的・広域的に行われ、盗品が海外へ不正に輸出され、その収益が匿名・流動型犯罪グループの資金源になっていると指摘している。
一方、2026年1〜9月の犯罪統計資料(暫定値)では、自動車盗の認知件数は2846件で、前年同期の5193件から2347件(45.2%)減った。検挙件数は2433件で前年同期の1611件を上回り、検挙率は85.5%(前年同期31.0%)だった。都道府県別では愛知県が382件と最も多く、大阪府315件、千葉県286件、埼玉県273件、茨城県248件、神奈川県239件が続く。いずれも前年同期より減った。
自動車盗の認知件数(2026年1〜9月の上位6府県)(件)
2026年1〜9月2025年1〜9月
数値で見る(単位: 件)
| 項目 | 2026年1〜9月 | 2025年1〜9月 |
|---|---|---|
| 愛知 | 382 | 886 |
| 大阪 | 315 | 442 |
| 千葉 | 286 | 400 |
| 埼玉 | 273 | 598 |
| 茨城 | 248 | 450 |
| 神奈川 | 239 | 582 |
内閣委の審査日程は入らず
今国会の会期は69日間で、衆議院の国会会期一覧では延長は記録されていない。2法案が付託された内閣委員会では、議案一覧の審議状況は「衆議院で審議中」のままで、委員会での審査日程は入っていない。
国民民主党の発表によると、推進法案は組織犯罪処罰法などの改正案とともに2023年5月、2024年5月、2025年5月、2026年6月と衆院に提出されてきた。ヤード規制法案は2025年12月12日にも単独で提出されている。6月の提出時に浜口誠政務調査会長は、自動車盗難の件数が増加傾向にあり、検挙率が「直近では37%まで低下している」と述べた。2025年12月の提出時には「自動車盗難犯罪の上流にある自動車等を解体する業者のところでしっかりとした歯止めをかけてやらなきゃいけない」と語っている。
同じ臨時国会では、警察が匿名・流動型犯罪グループの端末に遠隔で接続して被害防止の情報を取り出す警察官職務執行法改正案が、10月30日の衆院本会議で審議に入った。国民民主党を代表して質疑に立ったのは、推進法案の提出者でもある河井昭成氏である(警職法改正案が衆院で審議入り 国民民主、遠隔解析の監督と国会報告を質す)。組織的な犯罪への対策を政府案と議員立法の双方で論じる場面が続くなか、自動車盗難の2法案が内閣委員会で審査に入るかどうかは、委員会の運営をめぐる与野党の協議にかかっている。
