藤井比早之総務相は10月27日の閣議後記者会見で、政府の地域政策「地域未来戦略」を進めるため、同日付で都道府県知事と市町村長に宛てて大臣名の書簡を出し、積極的な取り組みを求めると表明した。あわせて総務省と都道府県の連携体制を築き、各府省の本省職員らを「地域未来戦略支援官」としてチームで市町村の計画づくりを支援させる。藤井氏は地域未来戦略担当相を兼ねている。狙いは、市町村や都道府県が地元の産業を伸ばすためにつくる「地場産業成長プラン」の策定を広げることにある。内閣官房の一覧では、このプランはこれまでに11計画で、策定に加わった市町村は全国1718のうち9市町にとどまっている。
書簡と「地域未来戦略支援官」
藤井氏は会見の冒頭で、「地域未来戦略を推進し、強い地域経済を構築することは、政府の重要課題であります」と述べた。そのうえで、自治体がすでに「地域産業クラスター計画」や「地場産業成長プラン」を意欲的に策定していると評価しつつ、「日本列島の隅々まで産業クラスターの花を咲かせるには、より多くの自治体が地場産業成長プランの策定に取り組むことが重要です」と語った。
とりわけ市町村については「規模も様々であり、適切なサポートが必要と考えております」と述べ、支援の対象を市町村に置く考えを示した。打ち出したのは次の3点である。
- 地域未来戦略の推進について、総務省と都道府県との連携体制を構築する
- 10月27日、都道府県知事と市町村長に宛てて、総務大臣・地域未来戦略担当大臣の名前で書簡を出し、積極的な取り組みを求める
- 各府省庁の本省職員らを「地域未来戦略支援官」とし、チームで伴走支援させる。市町村のプラン策定について助言や相談に応じる
藤井氏は「これらにより、今後、市町村と都道府県とが連携し、さらに多くの地域で計画策定が進むよう、支援してまいります」と締めくくった。首相官邸の閣僚名簿によると、藤井氏は総務相のほか内閣府特命担当相(地方創生)、地域未来戦略担当、副首都整備等推進担当を兼ねる。地域政策の担当相が、総務相の立場で全国の知事と市町村長へ直接要請した形だ。
同じ会見では、副首都の指定要件を定める政令の閣議決定も報告された(経緯は「副首都法、10月30日施行へ 政府が施行日の政令と推進本部令を閣議決定 本部長は首相」)。質疑は副首都に関するものが続き、書簡や支援官についての質問は会見概要に載っていない。
地場産業成長プランとは
地域未来戦略は7月21日に閣議決定された政府の地域政策で、計画期間は2030年度までである。内閣官房の資料によると、戦略は「戦略産業クラスター計画」(A)、「地域産業クラスター計画」(B)、「地場産業成長プラン」(C)の3類型の計画で強い地域経済を築くことを目指している。
A計画は、政府が定めた戦略分野のうち半導体、空飛ぶクルマ、民間航空機の整備(MRO)、ロケット・射場、次世代船舶、洋上風力などを対象とする大型の計画で、内閣官房は14件を策定・公表している。B計画は内閣官房の9月時点の一覧で49計画・37自治体にのぼり、半導体、自動車、宇宙、造船などの産業領域が並ぶ。
これに対し、C計画の地場産業成長プランは規模の小さい地元産業が対象だ。戦略の概要資料は、個々の規模はA・Bの産業クラスターと比べて小さくても「面的に地域経済を支える数多くの地場産業の更なる成長を目指す」と位置づける。対象として、農林水産業、観光業、スポーツ産業、伝統的工芸品の製造業、部品加工業などを挙げる。策定するのは市町村または都道府県で、地域資源を最大限に活用し、付加価値の向上や販路の拡大を目指すプランをつくる。
国の支援としては、自治体主導の産業振興策(投資促進、販路開拓など)への支援、地域産品の高付加価値化や海外展開の支援、観光需要の取り込みに向けた取り組みの支援、人材の確保・育成などが並ぶ。戦略の本文の概要では、地域未来交付金を拡充して自治体が主体的に行う投資促進や販路拡大、経営力向上のためのソフト事業を支え、国の中堅・中小企業向け設備投資補助金や人材育成の支援策に「地域未来枠」を設けることを検討するとしている。
11計画のうち市町村が加わるのは9市町
内閣官房の「3類型の計画」のページに載っている地場産業成長プランは、次の11計画である。
| 策定主体 | 分野 | 主な産品・資源 |
|---|---|---|
| 北海道芽室町 | 食・観光 | 農業(食)と日高山脈襟裳十勝国立公園などの自然・景観、スキー場 |
| 秋田県男鹿市 | 酒づくり | 日本酒、クラフトサケ |
| 新潟県長岡市 | 観光 | 摂田屋・宮内地区の歴史的建造物群と醸造・発酵食品の製造施設 |
| 新潟県燕市 | 金属洋食器 | ナイフ、フォーク、スプーンなどのカトラリー |
| 静岡県・静岡市・浜松市 | 茶産業 | 茶・茶加工品 |
| 京都府亀岡市 | 農業 | 有機農産物と加工品 |
| 奈良県下市町 | 観光 | 下市温泉などの観光交流施設 |
| 鳥取県 | 環境 | ミールワームオイル由来の天然ビタミンD3原料を使った食品など |
| 鳥取県 | 農林業 | きのこ類ときのこ由来の繊維を使った素材 |
| 鳥取県智頭町 | 農林業 | 木質バイオマスの熱を使う施設園芸(コーヒー、高級ハーブなど) |
| 宮崎県 | 酒類 | 本格焼酎と関連産業(芋、麦、米、そばなど) |
出典: 内閣官房「地域未来戦略に関する3類型の計画」
内閣官房の9月時点の一覧は、C計画を「11計画・12自治体」と数える。12自治体のうち県は静岡、鳥取、宮崎の3県で、市町村は芽室町、男鹿市、長岡市、燕市、静岡市、浜松市、亀岡市、下市町、智頭町の9市町になる。静岡の茶産業は県と2市の共同、鳥取県は単独で2計画を持つ。
総務省によると、全国の市町村は1718(市792、町743、村183)ある。プランの策定主体として市町村は県と並んで想定されているが、実際に加わったのはその約0.5%にあたる9市町で、村は1つもない。藤井氏が「より多くの自治体」の取り組みを求め、市町村への支援を強調した背景には、こうした数の開きがある。
7月末から月1回の報告
計画は、地域未来戦略に関する関係副大臣等会議で知事や市町村長らが報告する形で積み上がってきた。内閣官房の資料によると、7月31日の1回目の報告でC計画は4計画、8月28日の2回目で3計画だった。9月30日の第7回会議では、芽室町と智頭町の2計画に加え、すでに報告していた静岡県・静岡市・浜松市と鳥取県の2件目の計画が示され、合わせて11計画になった。
同じ資料は今後の進め方として、B計画とC計画について「月に1回程度の頻度で、知事・市長等から副大臣会議等で報告を行う」としている。
9月30日の会議の後、高市早苗首相は「宇宙産業クラスターから農業、観光クラスターまで、各地域の特色を活(い)かした、大変意欲的な『地域産業クラスター計画』や『地場産業成長プラン』を御説明いただき、本当にありがとうございました」と述べた。そのうえで「今も、日本全国の自治体で、この計画策定が進められていると承知していますけれども、今後更なるお話が伺えるということを楽しみにいたします」と語っている(9月30日の会議で報告された計画は「政府の産業クラスター計画、公表済みは52件 9月30日に茨城・神奈川など7県が新たに10件を報告 「地域未来戦略」の計画期間は2030年度まで」)。
書簡の本文と支援官の体制は未公表
10月28日時点で、書簡の本文は総務省の報道資料一覧にも、内閣官房の地域未来戦略のページにも掲載されていない。このため、書簡が知事・市町村長に何を具体的に求めたのか(策定の期限や目標の件数があるかどうかなど)は確認できていない。
地域未来戦略支援官についても、会見で示されたのは「各府省庁の本省職員等」が「チームで」市町村のプラン策定を助言・相談の形で支援する、という枠組みまでだ。何人を任命するのか、どの府省から出すのか、いつから活動するのか、市町村がどう申し込むのかは、会見概要には書かれていない。総務省と都道府県の連携体制の中身も同様である。
地域未来戦略の概要資料は、横断的な施策の例として「地方創生伴走支援制度」を挙げている。ただ、今回の支援官とこの制度との関係は、会見でも資料でも説明されていない。
政府はB・C計画の報告を月1回程度続けるとしている。次の関係副大臣等会議で、書簡と支援官の後に新しい地場産業成長プランが何件、どの市町村から出てくるかが、今回の要請の最初の結果になる。
