米連邦政府一般調達局(GSA)は10月27日(米国時間)、対話AI「Claude(クロード)」を開発する米アンソロピックとの一括調達契約「OneGov(ワンガブ)」を拡大したと発表した。政府が使えるClaudeの全モデルについて、使った分だけ支払う従量課金の利用料を40%割り引く。最低発注量は設けず、連邦政府の行政・立法・司法の3府に加え、州政府や地方政府、先住民の部族政府も同じ条件で調達できる。GSAは9月にオープンAIとも同じ型の契約を結んでおり、米政府のAI調達は、主要な2社とも使用量に応じて払う形に移った。

割引は40%、最低発注量は設けず

GSAの発表によると、割引の対象は「トークン」(AIが文章を読み書きする際に数える単位)に応じて課金される利用料で、FedRAMP(米政府がクラウドサービスの安全性を審査して認定する制度)の認定を受けた環境で動くモデルも含まれる。機密指定はされていないが慎重な扱いが要る情報を処理する業務にも使える。最低発注量は無く、各機関は使った分だけを支払う。

発注の経路は、アンソロピックから直接買う方法のほか、販売代理店や主要なクラウド基盤を経由する方法がある。アンソロピックは同日の発表で、割引の対象は法人向けの「Claude Enterprise」、政府向けの「Claude for Government」、開発者が自社のシステムに組み込むためのAPI(外部からAIを呼び出す仕組み)の3つだと説明した。直接の購入には発表の時点で割引が適用され、クラウド事業者を通じた購入には「今後数か月のうちに」適用されるという。同社によれば、割引がすべての製品・購入経路にまたがるのは今回が初めてだ。各機関はGSAが複数の事業者と結ぶ包括契約枠「マルチプル・アワード・スケジュール(MAS)」を通じて、すでに割引価格で買える。

対象の範囲について、GSAは連邦の3府と州・地方・部族政府を挙げた。アンソロピックはこれに準州(グアムやプエルトリコなど、州になっていない米国の地域)の政府を加えて示している。両者の発表は契約の期間に触れていない。

「1機関1ドルで最長1年」からの切り替え

GSAとアンソロピックは2025年8月12日、最初のOneGov契約を結んでいた。連邦政府の3府の機関が1ドルを払えば、Claude EnterpriseとClaude for Governmentを最長1年使える内容で、導入を早めるための技術支援も付いていた。実質的に無償で配り、まず使ってもらう形だった。

今回の契約は、その次の段階にあたる。GSAは発表で、連邦政府が高度なAIの能力を「評価する段階から、日々の業務に使う段階へ移った」と位置づけ、実際の使用量に応じて増減する従量課金へ切り替えると説明した。OneGovの取り組みでは発足以来18億ドルを超える節約になり、うちAI関連の契約が約16億ドルを占めるという。既存の契約については「期限を迎えたものは、適切な場合に更新する」としている。

アンソロピックは、今回の割引によって政府の支出が約10億ドル減ると見込む。米国の連邦・州・地方の約500の行政組織がClaudeを使っており、Claude for Governmentの週間利用者は2月から約8倍に、連邦の文民機関での利用は1年で約20倍に増えたとした。あわせて、各機関の導入と活用を支える専用の支援制度を数週間のうちに始めるという。

オープンAIの契約は50%引き、27か月

GSAは9月10日、オープンAIと対話AI「ChatGPT」についての同じ型の契約を発表した。こちらの割引率は50%で、10月1日から27か月間の条件とした。基本利用料、最低発注量、支出額の約束はいずれも設けない。対象の政府の範囲と発注の経路は、今回のアンソロピックとの契約と同じだ(詳しくは「米政府の調達機関、ChatGPTの利用料を半額に 基本料ゼロの従量課金へ 州・地方政府も対象」)。

項目 アンソロピック(Claude) オープンAI(ChatGPT)
発表日 2026年10月27日 2026年9月10日
割引率 40% 50%
課金 トークン単位の従量課金 トークン単位の従量課金
最低発注量 なし なし(基本利用料・支出の約束もなし)
対象の政府 連邦3府・州・地方・部族 連邦3府・州・地方・部族
期間 発表に記載なし 10月1日から27か月
GSAがAI2社と結んだ従量課金のOneGov契約の条件

出典: GSA発表(2026年9月10日・10月27日)、アンソロピック発表(10月27日)

割引率はオープンAIの50%がアンソロピックの40%を上回るが、割り引く前の単価は製品やモデルごとに異なり、両社の発表は政府向けの単価を示していない。このため、政府が実際に払う額がどちらで安くなるかは、発表からは分からない。GSAは9月の発表で、ほかのAI企業にもOneGovへの参加を呼びかけていた。

州の開発業務やサイバー対応で利用例

アンソロピックは発表で、政府機関での利用例を挙げた。同社によると、ユタ州は州の10機関の開発者34人に、プログラムを書く作業を支援する「Claude Code」を配った。4週間の試行で、80%が30分以内に作業環境を整え、71%が試行の終わりまでに20時間以上の作業時間を減らしたと答えたという。

ほかに、ある州の情報担当の最高責任者が、身代金要求型ウイルス(ランサムウェア)の攻撃に、通常なら2〜3日かかるところを8分で対応できたと述べた例や、ある州のIT開発者が、1か月を見込んでいた約900のAPIの新しい仕組みへの移行を2日で終えた例を紹介した。連邦政府のセキュリティ担当チームが、重要な本番システムを乗っ取られるおそれのあった脆弱性を約2日で見つけて修正し、その前の月に人が行った侵入試験では見落とされていたという例も挙げている。いずれも同社が示した事例で、機関名が明らかでないものが多い。

安全性の認定では、Claude for Governmentが9月30日に一般提供を始めており、FedRAMPの最上位の区分「High」の認定水準で使える。アマゾンの「Amazon Bedrock」とグーグル・クラウドの「Vertex AI」を通じたClaudeもFedRAMP Highの認定を受けている。Claude Enterpriseは、中位の区分「Moderate」の認定を手続き中だという。

割引率だけでなく単価の公表を

米政府の生成AIの調達は、「1機関1ドル」で配って使ってもらう段階を終え、使用量に応じて払う段階に入った。最低発注量が無いため、予算の少ない州や地方の政府でも、少量から試して必要な分だけ増やせる。今回の契約で、その条件が主要な2社でそろった。

一方、各社が示すのは割引率と節約の見込み額で、割り引いた後に政府が払う単価は発表に書かれていない。トークン単位の課金は、使う量が増えれば支出も増える。GSAが「納税者にとって最良の価値」を掲げるなら、モデルごとの政府向け単価と、機関ごとの使用量を公表して比べられるようにすべきだ。利用が1年で約20倍に増えたというアンソロピックの数字のとおり使用量が伸びれば、割引率よりも単価と使用量の方が支出の大きさを決める。