デジタル庁は10月30日、政府職員約18万人が使う生成AI利用環境「ガバメントAI 源内(げんない)」で、国会答弁案の作成を支援する「国会答弁作成支援AIアプリ」(答弁支援AI)のプロトタイプ版の提供を始めた。質問内容の分析から過去の答弁や根拠資料の検索、答弁案の生成、内容の検証までを支援する。10月5日に召集された第222回臨時国会で試験的に使い、来年1月からの通常国会で本格提供を始める計画だ。
質問の分析から原案、矛盾の確認まで
デジタル庁が同日公表した資料によると、答弁支援AIは、国会答弁を作る標準的な流れに沿って機能を並べている。議員から質問の通告を受けると、まず「質問分析機能」が質問の要点や求められている内容を整理する。続く質問者への確認(質問レク)では、「問取りアシスト機能」が質問の趣旨や背景について確かめておくべき事項を挙げる。
根拠となる資料の確認では、職員が過去の答弁や想定問答集などを「資料ライブラリ」に登録し、AIがそれを検索・分析・整理する。答弁案の作成・編集機能では原案をAIが作り、職員が手直しする。複数の案を並べて作ることもできる。仕上げの段階では、追加で聞かれそうな質問(更問)を提案する機能と、参考資料や過去の答弁との整合性を確かめる矛盾チェック機能を備え、出来上がった答弁案はWord形式で書き出せる。
画面では、答弁者の役職や組織、委員会、答弁の細かさごとに「答弁方針」を登録して原案の書きぶりに反映させられる。作った答弁案は「過去答弁・想定問答集」として資料ライブラリに戻し、次の答弁づくりの参照資料にできる。一方、関係府省との答弁案の調整と、府省庁内での答弁案の決定は、引き続き職員が担う作業として資料に明記されている。
職員102人が評価者に、NTTドコモビジネスに委託
開発は2026年4月に始まった。デジタル庁は開発実証事業をNTTドコモビジネスに委託している。開発には16省庁から公募した実務経験の豊富な職員102人が評価者として加わり、画面構成や操作性、必要な機能について意見を出した。寄せられた指摘や改善案の一部は、すでに機能の改修に反映したという。
7月14日から16日までの3日間には、デジタル庁でプロトタイプの評価ワークショップを開き、15省庁の若手職員39人が参加した。デジタル庁によると、評価者にプロトタイプを試してもらった後のアンケートでは、回答者の約8割が「答弁支援AIを利用したい」と答えた。
源内にはこれまでも国会対応に使えるアプリがあった。デジタル庁が8月に公開した解説では、「国会答弁を調査・分析」アプリが、職員が自然な文章で入力した問いからAIが複数の検索語を取り出し、過去の国会会議録から関連の高い質問と答弁を探し出して要点をまとめる仕組みを紹介している。こうしたアプリは過去答弁を探す段階を受け持つもので、答弁支援AIは原案の作成とその点検まで一続きで扱う。デジタル庁は、従来の検索や対話型AI、国会審議中継の速記データ検索などのアプリを使って答弁を作ることも引き続きできるとしている。
源内では10月20日から、職員がAIエージェントを作って動かせる環境の提供も始まっている(政府職員18万人の生成AI「源内」、AIエージェント環境の提供を開始 安全ルール「源内基準」を公表)。
「職員の判断をAIに委ねない」
デジタル庁は、答弁支援AIは職員の業務を支援するもので、職員による精査や最終的な判断をAIに代わらせるものではないと説明している。生成AIには事実と異なる内容や根拠のない情報をもっともらしく作り出す「ハルシネーション」の危険があり、出力の正確さは保証されない。このため、AIが示した情報や答弁案をそのまま採用せず、職員自身が根拠資料と照らし合わせ、事実関係の正確さ、過去の答弁や政府方針との整合性、表現が適切かを確かめることを原則とした。
政策判断や政府見解の整理、答弁内容の確定も職員が責任を持って行う。答弁は、担当職員や関係部局が精査・調整した答弁案に基づき、大臣などの答弁者が責任を持って行うとしている。AIが担うのは過去答弁や資料の検索・整理と原案づくりの補助で、職員が情報集めや文書作成にかける時間を減らし、質問の趣旨や政策の背景を踏まえた検討に時間を回せるようにすることを目的に掲げた。
答弁づくりは深夜に及ぶ
国会答弁の作成は、霞が関の長時間労働の大きな要因とされてきた。内閣官房内閣人事局が9月14日に公表した「令和8年国会対応業務に関する調査」は、26府省等を対象に、今年の特別国会のうち衆参の予算委員会が開かれていた2月27日から4月7日までを集計した。委員会の開催日ごとに見ると、答弁の作成に着手できるようになる最後の時刻は平均18時28分、すべての答弁ができあがる時刻は平均25時27分(翌日午前1時27分)で、その間は平均6時間59分だった(国会答弁づくりが終わるのは平均で深夜1時27分 質問通告の平均時刻は11時40分で前年より10分遅く 内閣人事局の2026年調査)。
| 国会 | 着手可能時刻の平均 | 完了時刻の平均 | 作業時間 |
|---|---|---|---|
| 令和4年臨時会 | 19時54分 | 26時56分 | 7時間2分 |
| 令和5年常会 | 18時26分 | 25時42分 | 7時間16分 |
| 令和5年臨時会 | 18時26分 | 25時31分 | 7時間5分 |
| 令和6年常会 | 18時18分 | 24時48分 | 6時間30分 |
| 令和7年常会 | 18時32分 | 25時48分 | 7時間16分 |
| 令和8年特別会 | 18時28分 | 25時27分 | 6時間59分 |
完了時刻は過去5年の調査でいずれも午前0時を過ぎている。議員から質問内容が伝えられる通告の平均時刻は11時40分で、前年の常会の11時30分より遅かった。委員会開催日の前日18時より後に届いた通告は1585件のうち101件(6.4%)だった。
臨時国会で試し、通常国会へ
第222回臨時国会は10月5日に召集され、会期は69日間。デジタル庁はこの会期中の実際の業務でプロトタイプ版を使ってもらい、有効性や操作性、出力の品質を確かめる。試用した職員の意見を踏まえて機能を改修し、2027年1月からの通常国会で本格提供を始める予定だ。
答弁の作業のうち、着手できるようになるまでの時間は質問通告の時刻に左右され、アプリでは変えられない。答弁支援AIが短くできるのは、通告を受けてから資料を探し、原案を書き、整合性を確かめるまでの作業である。内閣人事局の調査では、その作業に平均で7時間近くかかっていた。試行の結果、この時間がどれだけ縮んだのか、AIの原案を職員が確かめる手間がどれだけ加わったのかを、デジタル庁が通常国会の本格提供までにどう示すかが問われる。
