茂木敏充外相は10月30日(現地時間)、20か国・地域(G20)外相会合に出席するため訪れていた米アトランタで、ロシアのラブロフ外相と会談した。外務省によると、会談は現地時間午後1時35分(日本時間31日午前2時35分)から約30分間。茂木氏は、ロシア当局がサハリン州で拘束した邦人1人について即時解放を強く求め、ウクライナの公正で永続的な平和に向けてロシアが前向きに対応するよう改めて求めた。

30分の会談で即時解放を要求、詳細は「差し控える」

外務省の発表は4つの段落からなる。会談の日時と場所を記したうえで、茂木氏が「現下の日露間の諸問題等」について日本政府の立場に基づき申し入れや主張を行ったとし、続けて「サハリン州における邦人拘束の件については、茂木大臣から、即時解放を強く求めました」と書いた。

国際情勢では、茂木氏が「ウクライナにおける公正かつ永続的な平和の実現のため、ロシアが前向きな対応をとることを改めて強く求めました」とした。最後の段落は「両大臣は、日露関係が厳しい状況にある中でも、意思疎通をしていくこととしました」で結んでいる。

発表にはラブロフ氏の発言は1行も載っていない。外務省が示したのは日本側が何を求めたかと、意思疎通を続けるという両者の合意だけで、ロシア側が拘束の理由や解放の見通しについて何を述べたのかは書かれていない。

茂木氏は31日午後4時46分(現地時間)からアトランタで臨時の記者会見を開いた。記者から、ラブロフ氏が拘束の理由を説明したのか、解放要求にどう反応したのかを問われ、「詳細なやり取りにつきましては、これは邦人の保護にも関わる問題でありますので、差し控えたい」と答えた。会談を「非常に微妙なタイミングでの会談」とも表現した。

そのうえで茂木氏は、ラブロフ氏とは前回の外相在任時からのカウンターパートで、今回が6回目の会談になると説明した。1回目は国連総会の機会で、その後に名古屋でのG20外相会合、2019年12月には自らモスクワを訪れて「8時間にわたって協議をし」たと振り返り、今回も「率直な意見交換ができた」と述べた。

今後の日露関係については「非常に今厳しい状況にあるのは確か」としつつ、「隣国でありますから様々な課題があり、こういう課題を解決していくためにも、しっかりと意思疎通を続ける」と話し、日本が求めていることを「粘り強く働きかけていく」考えを示した。会見の冒頭発言でも、今回の出張の成果の一つとしてラブロフ氏との会談に触れ、「邦人拘束の件を含めて、日本の立場に基づき、しっかりと主張を行った」と述べている。

拘束から2週間余り、局長級から外相級へ

ロシア連邦保安庁(FSB)は10月13日、ユジノサハリンスクに駐在する北海道新聞支局の特派員で、ロシア外務省に登録された日本人記者を、日本の情報機関のためのスパイ行為の疑いでサハリン州で拘束したと発表した。FSBの捜査部門は、ロシア刑法276条(スパイ行為)で刑事事件の手続きを始めたとしている。

外務省は翌14日、中村仁威欧州局長がノズドリェフ駐日ロシア大使を召致した。中村局長は速やかな情報提供と人道的で公平・公正な取り扱いを求め、日本政府に何の説明も無いままロシア側が拘束を一方的に発信していることに強く抗議した。茂木氏は16日の会見で、まず領事面会を一刻も早く実現させる考えを示した。

20日には中村局長がモスクワのロシア外務省でヴォロビヨヴァ第三アジア局長と会談し、日露間の諸問題について申し入れを行った。在ロシア日本大使館員による領事面会が実現したのは26日で、茂木氏は27日の会見で、健康状態に問題はなく、食事も取れていると説明した。経緯の詳細は「北海道新聞記者の領事面会、拘束13日後に実現 外相「第一歩」健康に問題なし」にまとめている。今回の外相会談は、局長級で続けてきた申し入れを外相同士の場に移したことになる。

日付 出来事
10月13日 FSBがサハリン州で北海道新聞の特派員を拘束したと発表
10月14日 中村欧州局長が駐日ロシア大使を召致し抗議
10月20日 中村局長がモスクワでロシア外務省の局長と会談
10月26日 在ロシア日本大使館員が領事面会
10月30日 茂木外相がラブロフ外相と会談し即時解放を要求
記者の拘束から日露外相会談までの経緯出典: 外務省の報道発表・外相会見記録、ロシア連邦保安庁の発表

G20の会議場ではウクライナ支援の継続を表明

ラブロフ氏との会談に先立つ30日午前10時40分(現地時間)から約2時間、G20外相会合のセッション1「地政学的課題」が開かれ、中東、ウクライナ、インド太平洋などの国際情勢が議論された。外務省が示した会合の参加国・機関のうちG20メンバーは、議長国の米国や日本、ロシア、中国など18か国と、アフリカ連合(AU)、欧州連合(EU)で、招待国も加わった。

茂木氏はこのセッションで、ウクライナの公正で永続的な平和に向け日本は支援を続けると発言した。外務省の発言要旨によると、厳しい冬を前に大型発電機の供与などエネルギー分野の支援を含めてウクライナを支えるとし、黒海沿いの港からの穀物輸出の確保も世界の食料安全保障の観点から重要だと述べた。ロシアが同席する会議の場で支援の継続を示し、個別の会談ではロシアに直接、前向きな対応を求めた形だ。

茂木氏は今回の出張で、日米豪印、日米韓の外相会合や、トルコ、サウジアラビア、豪州との会談なども重ねた。31日の日米豪印外相会合の内容は「日米豪印外相、アトランタで今年3回目の会合 AI支援に8500万ドル超の意向」で伝えている。

今後の焦点は解放の時期と対話の継続

日本政府は拘束された記者について、即時解放と人道的配慮、公正・公平な取り扱いをロシア政府に求め続けるとしている(10月26日の外務省発表)。今回、外相同士が直接会ったことで、日本の要求はロシア外交の責任者に伝わった。ただ、ロシア側の反応は日本の発表からは読み取れず、茂木氏も中身を明かしていない。

茂木氏が会談で取り上げた「日露間の諸問題」は、記者の拘束だけではない。10月14日の大使召致では、中村局長がもう1件、ロシアのサハリン州政府が13日に発表した中国黒竜江省政府関係者と企業関係者の択捉島訪問についても申し入れた。中村局長は、北方領土は歴史的にも国際法上も日本固有の領土であり、第三国の政府・企業関係者が北方領土をロシア領であるかのように扱って北方四島に入り活動することは受け入れられないと伝え、適切な対応を求めた。ノズドリェフ大使はロシア側の立場を説明し、中村局長が反論している。

両外相が確認したのは「意思疎通をしていくこと」で、次の会談の時期や形式は示されていない。FSBはすでにスパイ行為の容疑で刑事事件の手続きを始めている。日本政府が局長級と外相級の両方で働きかけを続け、解放の時期をどこまで早められるかが、今後の焦点となる。