衆院予算委員会は10月14日に質疑を行い、衆院の統一会派「中道」の伊佐進一氏(公明党)が、年末に予定される安全保障関連3文書の改定を巡り、非核三原則の「持ち込ませず」を取り上げた。衆議院のインターネット審議中継によると、この日の予算委員会の審議は7時間20分。公明党が15日付で公表した記事によると、伊佐氏は三原則について「単なる政府の方針ではない。(時の)首相の判断や閣議決定で覆るものではない」と主張した。高市早苗首相は「政府としては非核三原則を政策上の方針として堅持している」と従来の見解を示したうえで、3文書の改定に向けて「表現ぶりは検討の余地がある」と述べた。
伊佐氏「『持ち込ませず』を議論するニーズはどこに」
非核三原則は「核兵器を持たず、作らず、持ち込ませず」という日本の基本方針で、公明党の記事は「国是」と位置づけている。伊佐氏の質問はこのうち3つ目の「持ち込ませず」に焦点を当てた。
公明党によると、伊佐氏は茂木敏充外相が「米国はわが国の非核三原則にかかる立場をよく理解しており、現在の状況で核兵器を搭載する米艦船が寄港することは想定されない」と答弁したことに触れた。そのうえで「では『持ち込ませず』を議論するニーズがどこにあるのか。見直すべきだという首相の持論はどういう趣旨か」とただした。外相の答弁どおり核搭載艦の寄港が想定されないのであれば、原則を見直す必要は無いはずだ、という組み立ての質問だ。
伊佐氏が三原則を「単なる政府の方針ではない」と強調した点は、首相が答弁で使った「政策上の方針」という言い方と対照をなす。首相は8月の記者会見でも「政策上の方針」という言い方をしている(後述)。伊佐氏は、首相個人の判断や閣議決定だけで変えてよいものではない、という立場を示した形だ。
なお、首相と外相の発言は、本稿執筆時点で国会会議録がまだ公開されておらず、公明党の記事に基づいている。審議中継のビデオライブラリには同日の予算委員会の映像が掲載されている。
首相は「堅持」を維持、ただ3文書の書き方には含み
公明党の記事によると、首相は三原則を「政策上の方針として堅持している」と答えたうえで、3文書の改定に向けて「表現ぶりは検討の余地がある」と述べた。同党の記事はこれを「見直しに含みを持たせた」と受け止めている。
首相は以前から、同じ趣旨の説明を繰り返している。首相官邸が公開している8月9日の長崎での記者会見の記録によると、首相は「三文書の改定につきましては、正に年末に向けて検討を進めているところでございますので、その書きぶりそのものについて予断することは差し控えます」と述べた。そのうえで「政府としては、非核三原則を、これを政策上の方針として堅持しているということに変わりはございません」と答えていた。
今回の答弁は、この「堅持」の説明を維持しつつ、3文書でどう書くかには幅を残すという点で、8月の会見と同じ線上にある。首相は10月5日の所信表明演説で「防衛力の抜本的強化のため、年末までに、『三文書』を見直します」と表明しており、3文書の文言の行方が改めて国会の論点になっている。今国会では、立憲民主党の三上えり氏も参院の代表質問で同じ点を取り上げ、見直しでも「持ち込ませず」を変えないと明言するよう首相に求めていた。
非核三原則とは 1967年の首相答弁が出発点
非核三原則は、半世紀以上前の首相答弁にさかのぼる。国会会議録によると、佐藤栄作首相は1967年12月11日の衆院予算委員会で、日本の安全保障を論じる中で「核は保有しない、核は製造もしない、核を持ち込まないというこの核に対する三原則」に言及した。平和憲法とこの三原則のもとで日本の安全をどう確保するかが「私に課せられた責任」だと述べている。
このうち「持たず」「作らず」は、日本自身が核兵器を持つかどうかの話で、首相も8月の会見で、日本が核兵器不拡散条約(NPT)の締約国であることを「非常に重く考えております」と述べている。これに対して「持ち込ませず」は、他国、具体的には同盟国である米国の核兵器を日本の領域に入れさせないことを意味する。米国の「核の傘」、つまり拡大抑止に頼りながら、その核兵器の持ち込みは認めないという組み合わせになるため、三原則の中で議論の的になりやすいのがこの部分だ。
伊佐氏が取り上げた核搭載艦の寄港も、この「持ち込ませず」に関わる。外相が「想定されない」と答えたのは、まさにこの点だった。
| 時期 | 出来事 | 出典 |
|---|---|---|
| 1967年12月 | 佐藤首相が衆院予算委で「核に対する三原則」に言及 | 国会会議録 |
| 1971年11月 | 衆院本会議が非核三原則の遵守を求める決議を可決 | 国会会議録 |
| 2022年12月 | 国家安全保障戦略に「非核三原則を堅持」と明記 | 内閣官房 |
| 2026年8月 | 首相が会見で三原則を「政策上の方針として堅持」 | 首相官邸 |
| 2026年10月 | 首相が3文書の「表現ぶりは検討の余地」と答弁 | 公明党 |
1971年に衆院が決議、公明党も共同提案
三原則には、国会の決議という裏付けもある。国会会議録によると、衆院本会議は1971年11月24日、沖縄返還協定の承認と同じ日に「非核兵器ならびに沖繩米軍基地縮小に関する決議」を可決した。決議は「政府は、核兵器を持たず、作らず、持ち込まさずの非核三原則を遵守する」とし、沖縄の返還後も「核を持ち込ませないことを明らかにする措置をとるべきである」と求めている。
この決議案は、自民党、公明党、民社党の3党が共同で提出した。本会議では浅井美幸氏が3党を代表して提案の趣旨を説明し、案文を読み上げた。採決は異議なしで可決され、直後に佐藤首相が登壇し、「政府として非核三原則を遵守する旨、あらためて厳粛に声明する」と述べた。
伊佐氏が三原則を首相の判断だけで覆るものではないと主張した背景には、こうした国会決議と歴代政府の表明の積み重ねがある。公明党は自ら決議の提出に加わった政党でもある。同党の岡本三成代表は党全国大会のあいさつで、3文書改定で三原則が見直されるのではないかとの懸念に触れ、「見直しは核廃絶を訴えてきた戦後日本の歩みに反するものであり、看過できません」と述べ、堅持を強く求めていた。同党はこのほか、核兵器禁止条約への日本の参加を求める集会でも三原則の堅持を訴えている。
年末の3文書改定へ 現行の戦略は「今後も変わらない」
焦点となる安保関連3文書は、内閣官房によると「国家安全保障戦略」「国家防衛戦略」「防衛力整備計画」の3つで、現行版はいずれも2022年12月16日に国家安全保障会議と閣議で決定された。
このうち国家安全保障戦略は、安全保障の基本原則の一つとして「平和国家として、専守防衛に徹し、他国に脅威を与えるような軍事大国とはならず、非核三原則を堅持するとの基本方針は今後も変わらない」と明記している。続く項目では「拡大抑止の提供を含む日米同盟は、我が国の安全保障政策の基軸」とも記しており、三原則の堅持と米国の拡大抑止への依存が並んで書かれている。
年末の改定で、この「今後も変わらない」という一文がそのまま残るのか、別の表現に置き換わるのかが、今回の答弁の「表現ぶり」が指す中身になる。首相は「堅持」を繰り返す一方で、書き方については予断を避け続けている。政府・与党内での3文書の検討が進むにつれ、国会での論戦はさらに続くことになる。
